「レッツゴーよ。当たって砕けろっ!」
「……砕けちゃ駄目だろ」

無意味にハイテンションなアルクェイド。

「さあさあ早く早く」
「うーん……」

まあ、別に聞くだけなら差し支えないか。

駄目だったら駄目だったで別に構わないし。

「聞いてみるだけだぞ?」
「やったあっ」
 

アルクェイドがメイドだなんて、果たしてどうなる事やら。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その2






「おーい秋葉ー」

部屋のドアをノックしながら秋葉を呼ぶ。

しーん。

「……あれ?」

だが何の反応もなかった。

「いないのかな?」

確かめようとドアを開こうとすると。

「秋葉さまはただいまお出かけ中ですよー」
「うわっ」

いきなり背後から声をかけられた。

「な、なんだ琥珀さんか」
「はい。いつでもスマイル素敵な琥珀さんです」
「うん、琥珀さんはいつも笑顔が素敵だね」

まるっきりオウム返しで返す俺。

「……志貴さんにそう言われるとなんかくすぐったいですね」
「あ、あはは」

どうせ俺は気が利きませんよ。

「それで秋葉は出かけてるって?」
「ええ。翡翠ちゃんと一緒にお買い物です」
「翡翠と……珍しいな」

大抵買い物の時は琥珀さんを連れて行くのに。

「今日は花瓶や美術品を見に行くとの事で」
「なるほど」

それなら納得できる。

なんせ琥珀さんは触れただけでビンが砕け散るとまで言われた人なのだ。

「悪気はないんですけどねー。人間誰しも不得手があるものです」

よよよと芝居がかった泣き真似をする琥珀さん。

「まあね」

何でも出来る完璧超人なんてそうはいない。

「で、志貴さんは秋葉さまへ何かご用だったんですか?」
「うん、実はア……」

アルクェイドがと言いかけて慌てて口を閉じる。

「あ?」
「あ、秋葉が元気かなあって様子を見に来ただけだよ」

アルクェイドがメイドをやりたいと言っている事を、先に琥珀さんに知られたら面倒になりそうな予感がする。

俺は適当に誤魔化しておいた。

「はー。そうなんですかぁ」

にやりという感じの笑みを浮かべる琥珀さん。

いかん、いくらなんでも適当すぎだったか。

「志貴さん何か隠してますね?」
「か、隠してないって」

琥珀さんは水を得た魚のように生き生きしていた。

「嘘はよくないですよ〜」

にこにこ笑いながら近づいてくる。

「えいっ」
「うわ」

後ろに回られ羽交い絞めにされてしまった。

「さあさあ話さないと大変な事になっちゃいますよ〜?」
「ちょ、ちょっと琥珀さんっ」

もちろん琥珀さんは力があるわけではないので、引き剥がそうと思えばそれは出来るのである。

だが背中に当たっている柔らかな双丘の感触が、俺の意識を激しく揺さぶっていた。

「む、胸が……その」
「あはっ。当ててるんですよー」

なんかどっかで聞いたようなシチュエーションだがこれはヤバイ。

やはり男というものは色気攻撃に弱いのである。

「わ、わかったって。話す、話すからっ」

こんなところをアルクェイドに見られたらまた厄介な事になってしまう。

「はい。最初から素直になってくれればいいんですよ」

そう言って琥珀さんは羽交い絞めを解いてくれた。

「はぁ」

解かれてよかったような、よくないような。

「で、どんな話だったんですか?」
「……いや、そんな期待に満ちた目で見られてもなあ」

かなり話し辛いんですけど。

「実はアルクェイドがメイドをやりたいって言い出してさ」
「……」
「あ、あれ?」

琥珀さんはやたらシリアスな顔をして黙り込んでしまった。

「えーと?」
「志貴さん」
「は、はい」

思わず身構えてしまう。

もしかしてメイドの仕事をバカにしてると思われてしまったんだろうか。

「……そんな」
「はい」

ごくりと唾を飲む。

「そんな面白い事なんで隠すんですかあっ!」
「え、え」

琥珀さんはこれでもかっていうくらいに満面の笑みを浮かべていた。

「ちょ、ちょっと今一瞬シリアスになってなかった?」
「あんまりにも面白すぎて我を忘れたんですよっ」
「……」

ああ、やっぱりこの人は琥珀さんだなあと改めて実感してしまう。

こんな話に食いつかないはずがないのだ。

「この琥珀、全力で是非手伝わせて頂きますねっ」
「うん……」

ますますこの先の雲行きが怪しくなってきた感じである。
 
 
 
 

「というわけで有能な協力者が出来た」

ほとんどやけくそで琥珀さんを紹介する。

「んー。でも琥珀が協力してるのばれたら警戒されそうじゃない?」

アルクェイドはいぶかしげな顔をしていた。

「……確かに」

何か企んでるんじゃないでしょうねと怪しまれる可能性は十分にある。

「はぁ。日頃の信用が低いと苦労しますねえ」

まるで他人事のように呟く琥珀さん。

「取りあえずですね。秋葉さまの前にわたしがアルクェイドさんをテストして差し上げますよ」
「テスト?」
「ええ。やはりある程度仕事が出来なければ雇うわけにはいきませんし」
「ふふーん。わたしを誰だと思ってるのかしら?」

アルクェイドは自信たっぷりのようだ。

「簡単なようでメイドの仕事は大変なんですよ?」
「大丈夫よ。ご奉仕するにゃんとかご主人さま〜とか言ってればいいんでしょ?」
「どんな偏見なんだそれは」

いくらなんでも酷すぎるだろう。

「まあ確かにそういう面もありますが」
「あるんかいっ」

思わずツッコミを入れてしまう。

「いや、あくまでそれは一部分ですし。メイドにとって大切なのはもっと別の事です」
「へぇ。どんな事?」
「それは俺も気になるかも」

日頃、琥珀さんはどんな事を思って仕事をしているんだろうか。

「メイドに必要なのは癒しです。仕える人間に奉仕し、肉体的に、精神的に満足を与え、癒して差し上げるのが仕事なのです」
「……おお」
「うわ、意外にまともな回答」
「意外とは失礼ですねー」

苦笑いしている琥珀さん。

「ちょっと俺もびっくりした」

琥珀さんにもそういう意識があったんだなあ。

少し見直したかもしれない。

「もう、酷いですよ二人とも。わたしを何だと思っているんですか」
「だって……ねえ」
「うん」

琥珀さんじゃなかったら、アルクェイドがメイドをやるという話にここまで絡んでこなかっただろうし。

要するに普通の考えとは縁のない人なのだ。

「あーもうっ。テストやるの止めちゃいますよ? 秋葉さまに志貴さんがよからぬ事を考えてるって報告しちゃいます」
「冗談、冗談だって」

慌てて言い繕う俺。

「そうそう。軽いウィットに飛んだアメリカンジョークよ」
「……適当に言ってるだろ、おまえ」
「あ、ばれた?」

まるで悪びれた様子もなく笑うアルクェイド。

「まったく調子狂っちゃいますねえ」

琥珀さんもつられるように笑っていた。

「あはは」

あの琥珀さんにそんな事を言わせる事が出来るのはアルクェイドくらいだろうなあ。

「では、テストの用意をしてまいります〜」

そう言ってスキップしながら去っていく琥珀さん。

「テストって何やるのかな? ご奉仕テスト?」
「そういう言い方は止めろっつーに」

しかし本当に何をするつもりなんだろうなあ。
 

期待と不安が入り混じる心境の俺であった。
 

続く


感想用フォーム 励みになるので宜しければ感想を送って下さいませ。

名前【HN】

メールアドレス

出番希望キャラ(アルクェイドと志貴はデフォルト)
秋葉  シエル  翡翠   琥珀  有彦    一子   ガクガク動物ランド一同  その他
更新希望など

感想対象SS【SS名を記入してください】

感想、ご意見【良い所でも悪い所でもOKです】



続きを読む

戻る