「な、なんだよ。おまえはいい考えあるのか?」

ついかちんときてしまい、少し強い口調で尋ねた。

「それはもちろん」

にっこりと笑うアルクェイド。

なんか嫌な予感がする。
 

「わたしと志貴でイチャイチャしてるところを見せ付けてやればいいのよっ!」
 
 


「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その26






「見せつけてやるってあのなぁ……」
「キスしたり、抱っこしてもらったり、それからそれから……」
「あーもうそれ以上言わないで宜しい」

なんか最終的にとんでもない行為にまで発展しそうな予感がする。

「……」

翡翠は何も言わず顔を真っ赤にしていた。

今の俺とアルクェイドの会話を聞いただけでいっぱいいっぱいな感じである。

「……そうか」

男と女。

色恋沙汰の話。

それらを組み合わせればエト君を凌駕することは可能かもしれないな。

「ねえ、翡翠。翡翠って誰か好きな人とかいる?」

俺はさっそくそれを実行してみる事にした。

「……志貴、何言ってるの?」

アルクェイドは呆れた顔をしている。

「な、なんだよ」
「……」

翡翠もいつもの淡々とした表情に戻ってしまっていた。

「あ、あれ?」

もしかして失敗した?

いや、元に戻ったんだから成功なのか?

「それは異性として気になる相手がいるかどうかという質問で宜しいでしょうか?」
「え? まあ、そうだけど」

何か違いがあるのかな。それで。

「さらに聞くのであれば、それはメイドとしてのわたしへの質問でしょうか。それとも」
「……?」

翡翠が何を言いたいのかよくわからない。

「えと、まあどっちでも。翡翠の言いやすいほうで」

俺は取りあえずそう言ってみる事にした。

「……」

翡翠はしばらく何かを考えるような顔をしていた。

「ならばお答えいたします」
「うん」

翡翠が好きな相手か。

一体誰なんだろう。

あの翡翠に想われてるだなんて、幸せ者もいいところである。

「わたしが気になっているのは志貴さまです」
「そうなのか。その志貴さまってのが羨ましいな……ってええっ?」

志貴さまってちょっと。

「……俺?」
「はい」

きっぱり。

「そんなの聞くまでもないじゃないの。わからなかったの?」

なおも呆れた顔をしているアルクェイド。

「え……ええと」

いかん、思考がまとまらない。

翡翠が俺の事を好きだって?

「でも駄目よ。志貴はわたしのなんだからっ」

アルクェイドが俺に抱きついてくる。

「だあ、ちょっと止めろってば」
「何よー」

するとあれか。

俺は俺に好意を抱いている翡翠の前で今までアルクェイドとイチャイチャしてたわけか。

その間の翡翠の心情はどんなものだったんだろう。

想像も出来ない。

「え、ええと……」
「……何か誤解しているようなので言っておきますが」
「う、うん」

翡翠はいつもと変わらない、無表情である。

「メイドとして主人を気にかけるのは当然の事です。それに、好意も持てないような相手に仕える義理はありませんので」
「あ、な、なんだ。そういう事なの?」
「無論です」

翡翠の言っている好意というのは、恋愛とかそういうのじゃなくて、人間として許容できるかどうかって事なんだろう。

つまり翡翠の仕える主人としてならば、俺は合格ラインということか。

「志貴さまのような鈍感で寝起きも悪く朴念仁的な性格な人間をどう恋愛対象としてみれば宜しいのでしょうか?」
「う……」

なんかやたらと酷い言われようである。

「誤解なさらないで下さい。それは同時に志貴さまの良い点でもあるのですから」
「……そ、そう?」

誰がどう聞いても欠点以外の何者でもないような気がするんだけど。

「そうですよ。言うではありませんか。出来の悪い子ほど可愛いと」
「……ごめん、あんまり嬉しくない、それ」

さすがに苦笑いするしかなかった。

「軽いジョークです」

いや、すごく黒いジョークだと思うんですが。

「ですが志貴さまは仕事のしがいがある主人というのは確かですよ」
「そう?」
「はい。何も仰せられないぶん、出来る範囲の仕事は全身全霊を持ってやろうという気になりますので」
「あー」

実際、翡翠にあれこれしてもらってなかったら俺はこの屋敷でまともに生活出来てないんじゃないだろうか。

かゆいところに手の届く仕事というかなんというか。

俺が気付いていないだけで、翡翠はあれこれ努力してくれているに違いないだろう。

「いや、ほんと実際感謝してる。ありがとう翡翠」

こういう機会でもないとお礼なんて言えたもんじゃない。

今までのぶんも込めてお礼をいった。

「それがわたしの仕事ですから」
「ほんと、えらいわよね翡翠って。わたしだったら志貴の世話なんてとてもじゃないけどやってられないわ」
「その言葉、そのままおまえに捧げたいな」

まあなんだかんだで俺はアルクェイドの世話を焼いているわけなんだけど。

惚れた弱みというやつである。

「何よー」
「っていうかメイドなら俺の世話をしないでどうするんだよ。秋葉の世話でもするのか?」
「……あ、そっか」
「あ、そっか……じゃない」

まったく、どこか抜けてるんだよなあ。

俺の悪影響でも受けてしまったんだろうか。

だとしたら笑うに笑えない。

「とにかく、そんな志貴さまの事が心配だったんです」

翡翠はどこか遠くを見るような目をしていた。

「ですが、アルクェイドさまがいらっしゃればきっと大丈夫でしょう」
「そ、そうかなあ」
「はい。お互いを補え合える、よいコンビだと思いますよ」
「だって。えへへ」
「……」

翡翠にそんな事を言われるだなんて。

なんだかやたらと照れくさかった。

「このような回答で宜しいでしょうか?」
「え、えと、なんだっけ?」
「……ですから、気になる異性の話です」
「あ、ああ。そうだったね。ごめんごめん」

自分から聞いておいて何言ってるんだ俺。

やっぱり人間動揺すると駄目である。

「翡翠がそんなに心配してくれてるなんて思ってなかったよ。ありがとう」
「いえ、わたしは別に何も……」

ほんのりと顔を赤らめる翡翠。

「アルクェイドさま、これからは尚一層志貴さまを手助けするよう心がけてくださいね」
「任せておいてよ」

返事だけは実に頼もしいアルクェイド。

「いい返事です」

翡翠は微笑んでいた。

だが同時に少し寂しそうでもあった。

どうしてそんな表情をしたんだろう。

「みなさ〜ん。ご飯出来ましたよ〜」

考えようとしたところに琥珀さんの底抜けに明るい声が響いた。

「だって。行きましょ志貴」
「あ、うん」

俺の事だし、ただの見間違いかもな。

「参りましょう、志貴さま」

次に見た翡翠の表情はいつも通りだったし。

「さーて飯飯っと」
 

今日の晩御飯はなんだろうな。
 

そんなお気楽な考えへ移行してしまったのであった。
 

続く



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