「何か考え付きましたか?」
「いや……変な資料ならない事もないなと」

変だ変だと言いながら、あの資料には世話になってしまっている。

「資料……ですか?」

その本の名前とは。
 

「ああ。『必勝! これで今日から貴方もメイドさん大全集』だ」
 

秋葉が引きつった笑いを浮かべていた。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その31









「兄さん……そんないかがわしそうな本を……」
「ち、違うって!」
「その本で兄さんは……イヤッ!」

どんな想像してるんだこいつ。

「だから違うの! これは琥珀さんの本だから!」
「……琥珀の?」
「ああ」
「本当でしょうね?」
「神に誓って」
「……」

しばらくの沈黙。

「まあいいでしょう、ここで兄さんとにらみ合っていても時間の無駄です」

全く持ってその通りである。

そんな誤解をされたらたまったもんじゃない。

「じゃあ持ってくるよ」
「はい」

秋葉の部屋を出る。

「話は終わられたのですか?」

外で待っていた翡翠が話しかけてきた。

「いや、もうちょっと続くかな」
「……」

心配そうな顔をしている翡翠。

「ああ、うん、大丈夫。怒られてるわけじゃないから」
「そうでしたか」
「……ちぇー」
「そこで隠れてる人、舌打ちしない」

もちろんそれは琥珀さんである。

「ホーホケキョ」
「……せめて猫の鳴き声にしてくれない?」

もはや突っ込むのもアホらしかった。
 
 
 
 

「持って来たぞ」

本を持って再び秋葉の元へ。

「昨日はこの本を見ながら訓練してたんだよ」
「そうなんですか」
「意外とまともな事も書いてあるんだ」

秋葉に手渡し最初のほうのページを読ませてみる。

「……なるほど、胡散臭い本題の割にはまともですね」
「だろう」

一体誰のために作ってるんだか。

「しかしこの最初のほうに書かれている基礎の仕事をただやらせたのでは面白くありません」
「面白いも面白くないもないだろ。実際雇ったらその基礎がメインなんだしさ」

俺がそう言うと秋葉はため息をついた。

「甘いですね。テストというのは実技もありますが、まずは筆記試験からでしょう」
「……まあ確かにそれはそうだけど」

学校の入試にしろなんにしろ筆記試験はつきものである。

「メイドの筆記試験ってなんだよ」
「それはもちろんメイドの正しい知識を……」
「わかるのか?」
「……いえ」

正しい解答がわからないのに問題が作れるはずがなかった。

「そ、その本に何か書かれていないのですか?」
「そんな都合よく……」

と言いつつ一応目次を眺めてみる。

『メイド適性テスト』

「あるし」
「……あるんですか」
「まあ心理分析みたいなもんだろうけど……」

ページをめくってみる。

「どれどれ」

このメイド適正テストは、あなたがメイドに適性しているかどうか、またどのようなタイプであるかを分析します。

「つまりまあ……問題に答えていく事でメイド適性がわかると」

書いてある事をそのまんま説明する俺。

「こういうのは実際やってみないとわからないなあ」

秋葉の顔を見る。

「な、何ですか。私はやりませんよっ」

露骨に嫌そうだった。

「でも誰かがやらないとこのテストが使えるかどうかわからないじゃないか」
「……むぅ」
「他にいいアイディアもないだろ?」
「……」

しばらく秋葉は黙っていたが。

「仕方ありませんね」

渋々と言った感じで頷いた。

「サンキュー」

俺はこのテストの実用性云々よりも、秋葉がどんな結果を出してくれるか興味深々だった。

「えー……次の問いに○か×で答えなさい……?」

さっそく問題を始める秋葉。

「回答は別の紙に書いておけよ」
「それくらい当然です」

さっそく第一問。

「あなたは誰に対しても分け隔てなく接する事が出来る……○」
「え」
「何ですか兄さん」
「……あ、いや、なんでもない。続けてくれ」

こういうテストの回答を判断するのは己自身だ。

例え周りの人間がそれはないだろうと思っていても、本人がそう思っている限りはそれは正しい解答なのである。

「滅多に怒る事はない……○」

このテストがどこまで信憑性があるかわからないけど。

「次は四択問題ですか……」

ちゃんとした回答、出てくれるのかなあ。
 
 
 
 
 

「終わりましたよ」
「お、そうか」

回答の書かれた紙を受け取る俺。

「ふーん」
「……あんまり見ないで下さい」
「いや、書いてあるの記号ばっかりだから見たって何もわからないよ」

さてここからが面倒な仕事だ。

「えーと○の数は……と」

普通こういうテストはコンピューターで答えを集計するんだろうが、この家にはそんなものはない。

直接目で数をカウントしていくしかないのだ。

「Aが……」

なかなかしんどい。

「大変そうですね」
「まあ、そのぶん細かい結果が出るんだろ」

果たしてどうなってる事やら。

「……えーと」

何分かして、ようやく集計が終わった。

「どうですか?」
「おまえのタイプはJだってさ」
「……それじゃ何の事だかわかりませんよ」
「まあ待てって」

後ろのほうにそれぞれの記号について細かく書かれているのだ。

しかし「J」があるってことは、結構なタイプがあるんだなあ。

ページをめくる。

「どれどれ」

Jのあなたは女王様タイプです。

あなたはメイドをやるよりも女王様をやっているほうが似合います。

タカビーな態度でメイドをこき使ってやりましょう。

どうしてもメイドをやりたい場合は、メイドをいびるメイド長などがお奨めです。

「……すげえ」

秋葉が俺の思っているのとは違う回答をしていたのに、出てきた答えは完璧に秋葉そのものだった。

「な、なんですかこれは!」

まあ、秋葉は納得いってないみたいだったけど。

「これは書き方が悪いだけだよ。ほら、女王様を女当主に書きかえれば納得できなくもないだろ?」
「む……」

じっと文章を睨み付ける秋葉。

「秋葉はメイドをやるより人を使役する立場のほうが合ってるって事だよ」
「……まあ、確かに」

それで一応納得したらしい。

ものは言いようである。

「結構このテスト信用出来るんじゃないか?」

あれだけ想像と違う回答をしていたのに、出てきた結果がズバリとは。

「……タカビーというのは納得出来ません」
「多少の誤差はしょうがないさ。そんなに言うなら翡翠や琥珀さんにもやってもらう?」
「わかりました。いいでしょう」
「……」

最初協力してもらうのは嫌だと言っていたのはどこへやら。

そう思っていても口に出さないのが正しい選択である。
 

「翡翠ー。それと隠れて話を聞いてる琥珀さーん」
 

俺はドアを開けて二人を呼ぶのであった。

続く



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