「多少の誤差はしょうがないさ。そんなに言うなら翡翠や琥珀さんにもやってもらう?」
「わかりました。いいでしょう」
「……」

最初協力してもらうのは嫌だと言っていたのはどこへやら。

そう思っていても口に出さないのが正しい選択である。
 

「翡翠ー。それと隠れて話を聞いてる琥珀さーん」
 

俺はドアを開けて二人を呼ぶのであった。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その32





「実は二人にやってもらいたいものがあるんだ」

そう言って本を見せる。

「げげっ、その本は……」

琥珀さんは露骨に嫌そうな顔をした。

そりゃそうだろう。

この本は琥珀さんが内容を認めずに捨てた本なのだ。

「志貴さん、その本はインチキ極まりないので参考にするのはよくありませんよ」
「ほら、兄さん」

見た事かと俺の顔を見る秋葉。

「主人を罠にはめるメイドは悪いメイドだとか書いてあるんだ」
「……なるほど、琥珀にとっては痛い文章なのですね」
「あははははは……」

乾いた笑いをする琥珀さん。

「結果が全てを証明してくれるはずです」

翡翠がそんな事を言った。

「そうだな」

翡翠だったらかなり優秀な評価が出そうな気がする。

「うー。翡翠ちゃんには負けませんよーだ」
「地球がひっくり返っても無理だと思うけどね……」

とにもかくにもテスト開始。
 
 
 
 
 

「終わりましたー」
「こちらもです」
「よし。じゃあ答案用紙を交換してチェックだ」

さっき俺がやったように数を集計してもらう。

「翡翠ちゃん○が結構多い……わたし×ばっかりだったのに」
「姉さんは選択問題で点を落とすタイプです」
「そんな事ないってー。きっと優秀なメイドとしての結果が……」

かきかきかきかき。

「集計終了です」
「なかなか面倒な作業でしたねぇ」
「よーしチェックだ」

早速出た結果と照らし合わせてみる。

「翡翠はCで、琥珀さんはHだって」
「見てみましょう」
「どっちからにする?」

尋ねると二人は顔を見合わせた。

「では、わたしからで」

一歩前に出る翡翠。

「Cだな」

ページをめくる。

「えーと」

Cのタイプのあなたは寡黙タイプです。

黙々と、しかし着実に仕事をこなす事が出来るでしょう。

メイドとしては非常に優秀ですが、積極性にやや欠けるようです。

時には弾けてみるのもいかが?

「……積極性」

結果に思うところがあったのか、翡翠は神妙な顔つきをしていた。

「ほとんど合ってますね……」

そこに秋葉の追い討ち。

「秋葉」
「す、すいません」
「いえ、秋葉さまの仰られる事は正しいと思います」
「……」
「これからは姉さんを見習ってはっちゃけることにします」
「そ、それは困るなあ」

今だって苦労してるのに。

「冗談です」

翡翠はくすりと笑った。

「……翡翠はそこまで寡黙ってわけでもありませんしね」
「そうだな」

こういう冗談も言える事だし。

「とにかく、メイドとして優秀という文章は見逃せません。わたしの結果を見ましょう」

琥珀さんが無駄に対抗心を燃やしていた。

「わかった」

ページをめくる。

Hタイプのあなたは策士タイプです。

主人に忠実に仕えているふりをしながら内心ではよからぬ事を考えていたりするでしょう。

演技が上手いのでばれる事は少ないですが、発覚してしまうと大変な事に……。

莫大な財産を継続する可能性がある反面、破滅する可能性もある危険なタイプです。

どうせなら政治家などを目指してみれば?

「……あは、あはははははは」
「琥珀」
「わたし、急用を思い出しましたので」

踵を返しドアへと向かう琥珀さん。

「待ちなさい!」
「ちょ、こんな結果信じちゃいけませんよ? こういうのはインチキですっ!」
「なら何故逃げるんですかっ!」
「秋葉さまが追いかけてくるからですよ〜っ」

どたどたどたどた。

「……何やってるんだか」

二人は鬼ごっこをはじめてしまった。

「アルクェイドさんへのテストはいかがいたしましょうか」
「取り合えず二人を止めないとまずいだろう」
「志貴さまは世話女房タイプという結果が出そうですね」
「ははは……」

俺、こんなに世話焼くタイプじゃなかったんだけどなあ。

いつからこうなったんだろう。

「……」

そういえば昔は翡翠も明るかったんだよな。

「どうなさいました?」
「あ、いや、なんでもないよ」

あまり深く考える事は止めて、二人を追いかけていった。
 
 
 
 
 

「あれ、どうしたの志貴」
「アルクェイド、秋葉たちを見なかったか?」
「見てないけど? 何かあったの?」
「いや、まあいつもの事なんだけど」

ごく大雑把に事情を話す。

「ふーん。そのテストは面白そうね」
「いや、今そこに興味を示されてもなぁ」
「ほっとけば勝手に解決するでしょ?」
「それはそうなんだけどさぁ」

要するにあれは二人がじゃれついてるみたいなもんだし。

「止めなきゃ止めないで秋葉がうるさいだろう?」
「妹もまだまだ子供よねー」
「……」

おまえが言うなっつーに。

「志貴さま」
「え、あ、うん?」
「屋敷内のどこかにいる主人を探すというのもメイドには必要な技能です」
「……そうなの?」
「主人が呼んでいてもその居場所がわからなければ意味がないでしょう」

そりゃまあ確かにそうだ。

「って事はこれもテストに出来るかな」
「えー?」

露骨に嫌そうな顔をするアルクェイド。

「おまえはメイドになりたいのか、なりたくないのかどっちだ」

そう尋ねるとアルクェイドは口を尖らせた。

「メイドになりたいんじゃなくて、志貴と一緒にいたいだけ」
「……そ、そうだったな」

こういう事をさくっと言えるからこいつは凄いと思う。

「志貴さま、いちゃついてる場合ではありません」
「は、はい、すいません」

翡翠が不機嫌そうな顔をしていた。

「……えーと、どうしよう。三手に分かれて探す?」
「志貴さまは秋葉さまを止める事が出来るんですか?」
「無理」

むしろとばっちりを食らうだけだと思う。

「では三人で行動するのが良策だと思います」
「……そうだね」

分かれてもまるで意味がないわけだからなぁ。

「ちょっと。わたしも数に入ってるの?」
「話聞いたんだからおまえも一蓮托生。メイドのテストにもなるんだから」
「ただ巻き込んだだけじゃないの」
「はははは」
「笑って誤魔化さないでよ」
「……すいません」

とことん情けない俺であった。

「まあいいわ。どうせヒマだったし。妹を探せばいいのよね?」
「左様です」
「すぐ見つかればいいけどなぁ」

なんせ無駄に広いのがこの屋敷だ。

未だに入った事のない部屋とか結構あるし。

「ついに追い詰めたわよ琥珀っ!」

下からそんな声が聞こえた。

「一階みたいだ。行こう」
「はいはい」
「かしこまりました」
 

珍しいトリオで揃って声のした方へと急ぐのであった。
 

続く



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