「前も琥珀に庭掃除頼まれた事があったのよ。その時の方法使えば楽だったのよね」
「……前にも頼まれた……」

言われてみればそんな事があったような気も。

あの時はどういう風に掃除してたんだっけ?

「小型の台風を作ってそれでゴミをまとめて一気に飛ばしちゃえばいいのよっ!」
「ってちょっと待てこらっ!」

そう、すっかり忘れがちだけどこいつは真祖の姫君なのだ。

自然現象を扱うのなんてお手の物だったのである。

「しんくーたつまきせんぷー……」
「駄目駄目駄目駄目ー!」
 

どこぞの必殺技みたいなものを叫ぶアルクェイドを慌てて止める俺であった。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その4





「……何よ。駄目なの?」

アルクェイドが手を下ろすと、周囲に起こっていた大気の振動がぴたりと止まる。

「ふう」

思わず安堵の息を洩らしてしまう俺。

「そういう裏技みたいな真似は却下。普通にやれってば」

そしてもう一度アルクェイドに注意をした。

「どうして? こっちのほうが楽よ?」
「あのなぁ。もし万が一メイドに採用されたとしても、そんな技使ったら即クビだぞ?」

戦うメイドさんなんて言葉がどこかであったけれど。

そんな事をする必要はまったくないのだ。

「その辺は上手くやるから大丈夫」
「……ばか。見ろよ俺の髪型」

巻き起こった風のせいで髪の毛が完全に逆立ってしまった感じがする。

「ぷっ……あ、あはははっ! ほんとだ、凄い事になってる」

そんな俺を見て爆笑しているアルクェイド。

「気付くのが遅いっつーに」

しかしそんなに凄い事になってるんだろうか。

見てみたいような見たくないような。

「ごめんごめん。ちゃんと直してあげるわよ」

アルクェイドは笑いながら近づいてきて俺の髪の毛をいじりだした。

俺の髪にアルクェイドの手が触れるたびにちょっとドキドキする。

「……あー。駄目ね、これ」

しばらく髪をいじくった後、そんな事を言うアルクェイド。

「そんなに酷いのか……」

どうやら手で直しても次の瞬間には逆立ってしまっているようだった。

「でもこれでわかっただろ? これが髪の毛だけだからいいけど、他のものまで巻き込んだら大変だろ」
「ちぇ。わかったわよ。普通に掃除すればいいんでしょ」

渋々ながらアルクェイドは納得したようだった。

「そう。普通が一番なの」

まあ犠牲が俺の髪の毛だけでよかった。

これで秋葉やら琥珀さんやらを巻き込んじゃったらえらい事になってただろうからな。

「とにかく普通にやればすぐに掃除なんて……」

終わるに決まっている。

そう言うつもりで周囲を見回してみると。

「……終わらないかもしれない」

途中で風を止めてしまったせいか、始める前よりもゴミだらけになってしまっていた。

「あーあ」

呆れた顔をしているアルクェイド。

「な、なんだよ。俺は悪くないぞ」

そもそも空想具現化なんて使おうとしなきゃこんな事にはならなかったわけだし。

「……何も無かった事にして逃げちゃわない?」
「駄目。最後までやるの。俺も手伝ってやるから」
「ん、志貴も手伝ってくれるの?」

俺の言葉に表情を変えるアルクェイド。

「仕方ないだろ」

こいつひとりにやらせたら永久に終わらなそうだし。

「えへへ。それならいいや。一緒に頑張ろうね、志貴っ」

それで再びアルクェイドはやる気を取り戻してくれたようだった。

「……はぁ」

別に俺はメイドなんてやるつもりないんだけどなぁ。
 
 
 
 
 

「志貴さんアルクェイドさん終わりましたか〜」
「まあ……大体は」

たかが庭掃除とタカをくくっていたが、琥珀さんが現れた頃には俺の額には汗がにじんでいた。

「どう、結構綺麗になったでしょ?」

アルクェイドが自信満々の顔で尋ねる。

「んー。そうですねー。まあこれでOKでしょう」
「そっか……よかった」

なんとか琥珀さんの合格基準までには達成できたらしい。

「トラブルがなきゃもっと綺麗に出来たんだけどね」

最初の散らかりを片付けるのでだいぶ時間を取られちゃったからなあ。

「はぁ。まあでも予想外のトラブルにうまく対応するのもメイドには必要な事ですので。いい勉強になったのでは?」
「……うん、俺は関係ないはずなんだけどね」

何度も言うけど俺はメイドになるつもりなんてないのだ。

「で、その志貴さんのいかした髪型は一体なんなんでしょう?」
「あえて無視してくれてると思ってたんだけど」

やっぱりそこは気になっていたのか。

「そんなに酷い?」
「ええ。そりゃもう腹を抱えて笑い転げたいのをかろうじて我慢しているくらいに」
「……水でも被ってくる」

自分ではその姿がどうなってるかわからないけど、恥ずかしくてたまらなくなってきた。

「あ。水ですか? ならばお花に水をやりに行きましょう。じょうろを持ってきましたので」

そう言って銀色のじょうろを取り出す琥珀さん。

「鼻に……水?」

自分の鼻を指差すアルクェイド。

「全然違う」
「あはっ。植物に水をあげるんですよー」

琥珀さんはくすくす笑っていた。

「ああ、なるほど。そっちね」

つーか勘違いしないだろう普通。

「翡翠ちゃんの育てている植物とわたしの育てている植物とがあるので、わたしのほうだけやって頂ければ結構です」

さらに言葉を続ける琥珀さん。

「なんで? 一緒にやっちゃったほうが楽じゃない?」
「水をあげすぎてもよくありませんから。それに位置が全然違うんですよ」
「そうなんだ。庭は全部琥珀さんの管轄って訳じゃなかったんだね」

俺はてっきり琥珀さんが全部を手入れしているとばかり思っていたんだけど。

「わたしは超人じゃありませんからー。役割分担しないとくじけちゃいます」
「ふーん」

やっぱり裏で色々苦労してるんだろうなあ、二人とも。

「まあいいや。じゃあ俺も一緒に行こう」

それを知るという意味ではこの機会は丁度いいかもしれない。

「はい。ではこちらへどうぞ〜」

俺たちは琥珀さんに案内されて庭を移動していった。
 
 
 
 

「というわけでここがわたしの花壇です」
「……いや、これ……家庭菜園じゃない?」

案内された先にはトマトやら何やらの野菜が沢山生えていた。

「ええ。どうせ育てるならお料理に使えるものがいいかなーって。それにトマトの花は結構綺麗なんですよ?」
「まあなんでもいいけどさ」

琥珀さんらしいというかなんというか。

「とにかくこれに水をやればいいのね?」
「ええ。つまみ食いは駄目ですよ? 特に志貴さん」
「しないってば。まだあんまり育ってないみたいだし」

トマトだとわかる形状にはなっているが、まだ青い色でとても食べられそうになかった。

「ん? 志貴食べたいの? ちょっと地面に細工すれば育てたり出来るけど?」
「うわ、そんな事出来るんですか?」

アルクェイドの言葉に琥珀さんが興味津々な顔をしていた。

「だーかーら。そういうのはやらないでいいの」

しかもなんで琥珀さんがいる前でそんな事言うかなあ。

「えー。いいじゃないですかー。せっかくなんだからそういう力は有効利用しないと。食費が大幅に節減できちゃいますよ?」

案の定アルクェイドを擁護しだす琥珀さん。

「はぁ……」
 

また厄介な方向に話が進んでしまいそうである。
 

続く


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