「ん? 志貴食べたいの? ちょっと地面に細工すれば育てたり出来るけど?」
「うわ、そんな事出来るんですか?」

アルクェイドの言葉に琥珀さんが興味津々な顔をしていた。

「だーかーら。そういうのはやらないでいいの」

しかもなんで琥珀さんがいる前でそんな事言うかなあ。

「えー。いいじゃないですかー。せっかくなんだからそういう力は有効利用しないと。食費が大幅に節減できちゃいますよ?」

案の定アルクェイドを擁護しだす琥珀さん。

「はぁ……」
 

また厄介な方向に話が進んでしまいそうである。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その5




「浮いた食費のぶんを志貴さんのお小遣いにプラスして差し上げますからっ」

さらに琥珀さんはそんな事を言ってきた。

「……そ、そそそ、そんな誘惑に惑わされる俺じゃないぜ」
「思いっきり惑わされてるじゃないの」
「うるさいなあ」

誰のせいで前より極貧生活を送る事になったと思ってるんだ。

「まあものは試しということでいかがでしょうか」
「うーん……でもなあ」
「わたしは志貴がイヤだって言うならやらないけど」

アルクェイドは俺の頼みを聞いてくれるつもりらしい。

「何も悪い事をしようとしているんじゃないんですからー。ねっねっ」

さらにアピールを続ける琥珀さん。

この人は興味のある事ならとことん追求するタイプである。

「と言いますか、志貴さんは関係なしでお願いしますよ」
「俺抜きで?」
「ええ。この場に志貴さんがいなかったと想定して、わたしからアルクェイドさんへお願いしたということで」

もしこの場に俺がいなかったら、アルクェイドは琥珀さんのお願いをあっさり承諾しただろう。

「要するに……何が起きても琥珀さんが責任を取るって事?」
「ええ、それで構いませんよ。志貴さんには一切迷惑をかけませんからー」
「……まあ、それならいいんじゃないかな」

そこまで言うなら何が起きても琥珀さんの責任なわけだし。

「はい。ではアルクェイドさんお願いしますっ」
「いいの? 後悔しない?」
「ええ。やっちゃってくださいっ」
「はいはい」

アルクェイドはかがみこんで、モールス信号でも打つようにとんとんと地面を叩いた。

「これでいいはずだけど」
「なんだかあっさりしてるな」
「そういうものよ」
「……よくわからない」

まあ植物を育てるって効果が派手派手な演出でも嫌だけど。

「楽しみですねー」
「うーん」

三人でしばらくトマトを眺めていたけれど、何も変化はなかった。

「……何も起きませんよ?」
「時間がかかるのよ、これは」
「ふーん」

なおもトマトを眺めていると。

「ん?」

緑色の果実に変化が起き始めていた。

「こ、これは……」

まるでビデオの高速再生のように、トマトが赤く染まっていく。

「わ、なんか面白いですね」

じっとトマトの変化を見つめる琥珀さん。

「へぇ……」

俺も思わずその光景に見とれてしまった。

「あ。回収するなら急いだほうがいいかもよ」

するとアルクェイドがそんな事を言う。

「はい?」
「なんでだ?」

何の事やらと二人してアルクェイドの方へ顔を向けて。

「……ほら」
「何がほらなんだよ」
「見ればわかるでしょ」
「見れば?」

もう一度トマトの方へと顔を戻すと。

「あ、あああああああっ!」

トマトが物凄い勢いで枯れ始めているのであった。

「しおしおのぱーって感じよね」
「わ、わたしの家庭菜園がっ!」

さすがにこの事態には琥珀さんも慌てふためいている。

「アルクェイドさんっ! 今すぐ止めてくださいっ!」
「それは無理」
「あ、ああっ! どんどん被害が広がってっ!」

手前から奥の方へ向けてへなへなと枯れていく植物。

「……やっぱり無理やり植物を育てるなんて良くない事よね」

アルクェイドはその光景を見てそんな事を言った。

「おまえ、こうなるってわかっててやったのか?」
「地面をいじるのは出来るけど、植物のがどう育つかまで責任は取れないわよ。それに琥珀が責任取るって言ったでしょ?」
「まあそうなんだけどさ」
「あ、ああ……」

もはや琥珀さんの家庭菜園は全滅状態である。

琥珀さんはがっくりとうなだれていた。

「……まあ、たまにはいい薬かもしれない」
「でしょ?」

といってもあの琥珀さんだ。

これくらいでへこたれなさそうな気もする。

「ま、まだまだですっ」

そう言って立ち上がる琥珀さん。

「はやっ!」

そのタフさは見習うべきものがあった。

「まだまだってどういうこと?」

アルクェイドが尋ねる。

「まだ裏の菜園がありますっ。そっちをうまく成長させれば……!」
「はいはい、止めようね」

今度はさすがに止めなきゃ駄目だろう。

俺は琥珀さんの頭を軽く小突いた。

「……うまくやれば小遣い稼ぎが出来ると思ったんですけど」

琥珀さんは頬を膨らませてそんな事を言っている。

「そういうヨコシマな思いでやることは大体失敗するの。少しは反省してください」
「はーい」

渋々ながらという感じで頷く琥珀さん。

本当に反省してるんだろうかこの人は。

「はぁ。なんかもうやる気なくなっちゃいました。不貞寝してきてもいいですか?」
「どうぞご自由に」

琥珀さんがいると話が厄介になるだけである。

「チョウセンアサガオ……レアだったのに……」

琥珀さんはふらふらしながら屋敷へと戻っていった。

「志貴、琥珀がいなきゃメイドの練習出来ないじゃないの。どうするの?」
「今までのみたいのだったら俺だって指導できるよ」

いきなりプロの仕事をやろうってんじゃないんだ。

まずはメイドのイメージみたいなものから固めていかないとな。

「……おまえのメイドのイメージは間違いすぎてるし」

なんせ『奉仕するにゃんとかご主人さま〜とか言ってればいいんでしょ?』だからな。

「失礼ね。琥珀みたいに悪巧みしたり翡翠みたいに貴方を犯人ですとか言ってればいいんでしょ」
「だから全然違う」

どうしてそんな悪いところばっかり抜き出してくるんだこいつは。

「メイドってのは要するに家の仕事全般をやるんだ。早く言えば何でも屋だな」
「何でも屋ねえ」
「そういう意味ではおまえに最も向いてる職業かもしれない」

なんせアルクェイドは何をやらせても上手いのである。

「そうでしょ? えへへ」

俺の言葉に気を良くしたのかにこりと笑うアルクェイド。

「……飽きっぽくさえなきゃな」

そこだけが欠点であり、そして最大の問題でもあった。

「むぅ」
「とりあえず屋敷内の仕事をやってみよう。庭掃除はつまらなかったかもしれないけど家の中はまた違うからな」

とにかく、アルクェイドに興味のある仕事がひとつでもあればなんとか大丈夫だろう。

「楽しい仕事、あるかな?」
「さあ……」
 

従者の仕事が姫君のお気に召すかどうかなんて、庶民の俺にわかるはずがなかった。
 

続く


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