なるほど、こいつに仕事をやらせるコツがなんとなくわかった気がした。

つまりなんでも仕事としてではなく、遊びとして考えればいいのである。

それはあらゆる場面で役に立つ考え方だから、覚えておいて損はない。

単語をひとつ覚えたらお菓子を食べられるんだとか、そんな下らない自分ルールでも結構能率はあがるものだ。

「それにしても志貴」
「ん? なんだ?」

アルクェイドはにこにこした顔のままでこう言うのであった。

「志貴って立派なお嫁さんになれそうねっ」
「せ……せめて主夫と言ってくれないかなぁ」
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第六部
姫君とメイド
その7

「主婦って意味同じじゃないの?」
「いや……まあなんでもいいけどさ」

いちいち説明するのも面倒である。

「次は何やる? 料理?」
「うーん、料理でもいいけどな」

今はまだそんなに腹が減っていなかった。

「屋敷内の掃除でもしてみるか?」
「また掃除?」

掃除という言葉に顔をしかめるアルクェイド。

「ああ」
「さっきやったじゃないの」
「あれは外だろう。今度は中」
「屋敷の中なんて毎日掃除しなくたって平気よ。そんなに人が住んでるわけじゃないんだから」
「そりゃそうだけどさ」

実際俺も気にしたことなんてないし。

「それでもやるの。それがメイドの仕事なんだから」
「むー」

やはりアルクェイドは掃除には乗り気でないようだった。

「掃除は外と中じゃ全然違うんだよ。中の掃除は楽しいかもしれないぞ?」

今度はアルクェイドが楽しめるようにうまく考えてやってみよう。

「……じゃあ、やってみる」
「そうか。偉いぞアルクェイドっ」
「や、やめてよ。子供じゃないんだから」

アルクェイドは恥ずかしそうな顔をしている。

「ははは、悪い悪い」

アメとムチは教育の基本らしいけど。

案外俺はいい先生になれるかもしれないなぁ。

「じゃあさっそくハタキを取りに行こう」
「ハタキってたまに翡翠が持ってる?」
「ああ。パタパタやるやつだ」
「どこにあるの?」
「……う」

そういえばどこにあるんだろう、あれは。

「もしかして知らない?」
「……うん」

整頓魔の翡翠が仕舞った道具のありかなんてわかるはずがなかった。

「計画性ないわねえ」
「う、うるさいなあ」
「まあ志貴らしいっていえばらしいけど」
「俺ってどんな扱いなんだよ」

俺の周囲の人はいくらなんでも俺を酷い目で見すぎだと思う。

「分類不能ね。志貴としての扱いじゃない?」
「……いや、そんなマトモに答えられても」

どう反応すればいいんだそれは。

「琥珀に聞けばわかるんじゃないかしら」
「俺としての扱いをか?」
「違うわよ。ハタキの場所」
「……会話を前後させるんじゃない」
「あはは、ごめんごめん」
「まったく……」

アルクェイドに手玉に取られてるようじゃまだまだか。

先生になるのはやはり夢のまた夢のようである。

「じゃあ琥珀のところにレッツゴーっ」
「はいはい、レッツゴー」

琥珀さん、立ち直ってるといいけどなぁ。
 
 
 
 

「こーはーくさーん」

部屋のドアをノックする。

「……はーい」

やはりまだテンションの低い琥珀さんの顔が目の前に現れた。

「やっほー」
「おや?」

ところがアルクェイドの顔をみて表情が少し変わる。

「おやおやおやおや〜? それはある方専用のまな板エプロンじゃないですか〜」

そう言い終えた頃にはすっかりいつもの表情の琥珀さんである。

つーかある方専用って、見せた瞬間に焼き払われるんじゃないだろうか。

「どう? 似合う?」

くいくいと妙なポーズを取るアルクェイド。

「ええ。ふくよかな双丘とまな板という文字の対比が実にいいですね」
「本人が着るよりもダメージでかそうだよな」
「写真とっておく?」
「洒落にならないから止めてくれ」

どうせ被害を食うのは俺なんだから。

「あー。いいですねー。暇な時の起爆剤には最高かもしれません」
「こ、琥珀さんっ」
「冗談ですって」

どうやらアルクェイドとまな板エプロンという奇妙な対比が、琥珀さんを完全に復活させてしまったようだ。

「しかし誰の事か言ってないのに成立している会話も素敵ですねえ」
「まあ……なぁ」

今頃くしゃみでもしているかもしれない。

「でで、何のご用でしょう? 志貴さんもわたしお手製の素敵なエプロンをお付けですけど」
「はっはっは」

思わず苦笑してしまう。

手製だったんかいこれ。

「えーと、ハタキを探してるんだけど」
「ハタキというと翡翠ちゃんのいつも使っているアレですか?」
「うん。あれじゃなくてもなんでもいいから」
「屋敷の中を掃除するのよ」
「あらま。まだやってたんですか?」

意外そうな顔をしている琥珀さん。

「さっきまでは皿を洗ってたんだ。ちゃんと続いてるよ」

つまり琥珀さんはもう飽きてる頃だろうと思ってたわけだ。

「うわ。そんな事まで。すいませんねー。お仕事させちゃって」
「いいんだよ、練習なんだから」
「お皿洗いは結構楽しかったしね」

にこりと笑うアルクェイド。

「おやおや。わたしの仕事がなくなってしまいそうです」
「そしたら悪巧みばっかりしてる琥珀はクビよね」
「……あっはっはー」

琥珀さんは思いっきり苦笑いしていた。

「アルクェイドの方が一枚上手だったみたいだな」
「クビにならないためにはちょいと意地悪でもしたいところですがー」
「いや、素直に教えてください」
「残念ですが翡翠ちゃんの道具一式の場所はわたしでもわかりません」
「……そうなんだ」

ちょっと意外である。

「姉妹といえどもプライベートはありますからねー」
「うわ、ちょっと志貴。琥珀がマトモなこと言ってるわよっ」
「ああ、ほんとだ。熱でもあるのかな」
「そんな事ばっかり言ってると本当に教えませんよー」

むぅっと頬を膨らませる琥珀さん。

「いや冗談だって」
「そうそう。軽いコミュニケーションよ」
「まぁそういうやり取りはキライじゃないですけど」

むしろこういうノリは琥珀さんの独壇場だ。

「じゃあ教えてよ」
「ええ。実はわたしもマイハタキを持っているんですよ」
「あ、そうなんだ」
「ええ。使えもしないのにという野暮なツッコミは不要ですよ?」

やはり琥珀さんはノリノリだった。

「しかしこれをただ渡したのではつまりません」
「いや、つまるもつまらないもないんだけど」

それがなきゃ仕事にならないし。

「まずぞうきんを差し上げましょう。それで軽く拭き掃除をしていて下さい。その間にわたしがハタキを隠しておきます」
「拭き掃除か……」

それをやる事も考えたけれど、ハタキかけ以上にそれはかったるい仕事だ。

「つまりそれを探せってこと?」
「ええ。名付けて『チキチキ! ハタキ大捜索ゲーム』です」
「……おお」

さすがは琥珀さん。ゲーム仕立てにしてやる気を出させるという展開を簡単に持っていった。

これぞプロの仕事というやつである。

「へえ。面白そうじゃない。やりましょ」

アルクェイドの表情も輝き始めていた。

「はい。では準備いたしましょう〜」
「チキチキハタキ大捜索か……」
 

ただ、琥珀さんが考えたゲームである以上、それはとてつもない難易度を誇りそうな予感がするのであった。
 

続く


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