今日はあいつの行ってそうな場所を探すとしよう。
案外、王子様が自分を見つけてくれるみたいな展開を望んでいるのかもしれない。
「……やっぱ寝不足かな」
本当にどうかしてる。
どうにも調子の狂ってしまっている俺であった。
「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その12
「誤字や誤植というのは文字を扱う場合避けられない問題でして」
「はぁ」
「有名なのはアレですね。ガクガク動物ランドのエト君。今でこそ『貴方を犯人です』は名言とされていますが」
「ほぉ」
「あれはエト君の台本に書かれていた文字が間違っていた事から生まれた……あ、これ翡翠ちゃんには内緒ですよ?」
「へぇ」
「……もう志貴さん。ちゃんと聞かれてますか?」
「……」
「もう……」
アルクェイドのやつ、今どこにいるんだろう。
「そんなに気になるなら探しに行けばいいじゃないですか」
「う」
琥珀さんの言う通りである。
「……最初は探しに行こうと思ってたんだけど」
「いざ行動しようとすると出来なくなってしまったと?」
「まあ……うん」
アルクェイドを見つけたおして、それからどうするんだろう。
「色々考えてたらわけがわからなくなっちゃってさ」
「まあ志貴さんにしては珍しい」
「あははは」
自分でもそう思ってる。
「志貴さんは選択問題は得意だと思ったんですが」
「え?」
「何事も物事の優先順位をつけるといいますか」
「……よくわからないんだけど」
「まあそれだけアルクェイドさんが特別なんでしょうね」
「うーん」
琥珀さんの言ってる事は今いち要領を得ない。
「時には悩む事も大事だということですよ。といいますかですね」
「何?」
「わたしにこういう事を言わせる事自体が間違ってるんです」
「いや、よくわからないけど琥珀さんが喋りだしたんじゃない?」
「あはははははは」
琥珀さんは苦笑いして立ち上がった。
「取り合えず行動してみるのがいいんじゃないですか?」
「ん」
「そうジメジメしてるのはらしくないですよ」
「そっか」
そうだな。
難しい事を考えるのは止めよう。
会って悪かったと伝える。
それだけでいい。
「ありがとう琥珀さん」
「いえいえ」
琥珀さんはぺこりと頭を下げて去っていった。
「よし!」
俺も行動開始だ。
「……いないか」
取り合えず屋敷周辺を見回ってみたがどこにも姿はなかった。
「アルクェイドと行ったことがある場所……」
結構色んな場所に行ったから検討もつかないが。
「ええい片っ端からだ!」
下手な鉄砲も数打てば当たる!
「ラーメン屋!」
いるわけない。
「ゲームセンター!」
ここもいない。
「映画館!」
は金がかかるから入らないだろう!
「……いやいや」
一応入り口の人に聞いて見たがアルクェイドは来てないようだった。
そのまま商店街をひたすら駆け回る。
ケーキ屋、レストラン、ペットショップにおもちゃ屋。
「くそう」
こういう時はあいつの立場になって考えるんだ。
あいつだったらどこに行く?
「……わかるかっ!」
アルクェイドほど予測不能なやつが他にいるかってんだ。
「いや!」
こういう時は専門家に頼るに限る。
俺は駆け足であの人のところへと向かった。
「で、わたしですか?」
先輩は俺の話を聞くなり渋い顔をしていた。
「知らないかな?」
「知りませんよ」
なんだかものすごくつっけんどんな態度の先輩。
「き、機嫌悪いですか?」
「どうしてだと思います?」
「あ、あはははは」
そうだった。
さっき琥珀さんにも同じような顔されたっけ。
「少なくともうちには来ていませんよ」
「そ、そうですか」
ここにも来てないとなると、本当にどこにいるんだろう。
「何なら手伝いましょうか?」
「あ……はい」
先輩が一緒に探してくれればこれほど頼りになる存在はない。
「では分担を……」
が。
「いやタンマ」
俺とアルクェイドの問題なのに、誰かを頼りにするのが間違ってるのだ。
「はい?」
「自分で頑張って探してみますよ」
「……そうですか」
それを聞いた先輩はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「どうしようもなくなったら頼りに来て来て下さいな」
「ありがとう」
俺は先輩と別れ、再び街を駆けだした。
「……いない」
こんなところにはいないだろうという場所をも探したのだが、どこにもいない。
入れ違いになっているんだろうか。
アイツは気まぐれだからずっと一箇所にいるとは限らない。
そうなると俺のやっている事は無駄なんだろうか。
「いや」
無駄なことあるもんか。
アルクェイドを探すって決めたんだ。
そのために出来る事を全力でやる。
今の俺に出来るのはそれだけだ。
「……日も暮れてきた」
もう一度今まで回ってきたところを回るか?
「よし!」
来た道を丸っきり同じように逆走する。
おもちゃ屋、ペットショップ、レストラン、ケーキ屋。
やはりどこにもアイツはいない。
「はぁ……はぁ」
息が苦しい。
こんなに走り回ったのは久しぶりだ。
「……でもないな」
アルクェイドと一緒の時はあちこち走り回っている。
今疲れを感じるのは、アイツがいないから。
「ははは……」
なんだ。
アルクェイドから離れられなくなってるのは、俺のほうじゃないか。
「もしかしたら家に戻ってるかも……な」
何か連絡が入っているかもしれない。
「……希望に過ぎないけどな」
それでも見つからなかったらまた探しに行こう。
こうなったら意地だ。
絶対にあいつを探し出してやる。
「おかりなさいませ、志貴さま」
「ただいまっ。アルクェイドは?」
「いらっしゃいませんが、乾さまから連絡がありました」
「有彦? なんだよ一体」
こんな忙しい時に。
「はい。『アルクェイドさんは確保した。公園にいる。標識のある曲がり角まで走って来やがれ』との事です」
「あ、有彦だって?」
一体何がどうなってアルクェイドと?
「連絡がありましたのは少し前ですので、急がれたほうが宜しいかと」
「わ、わかった! ありがとう!」
夜の街を駆ける。
どうして有彦という気持ちは確かにある。
けれど、あいつが見つかったという気持ちのほうが強くて。
思う事はひとつ。
早く会いたい。
ひたすらに駆ける。
公園への曲がり角が見えてきた。
「はあっ……はあ」
有彦はまだいなかった。
アルクェイドと何を話しているんだろうか。
いや、あいつなら大丈夫だろう。
理屈じゃない。
そう思う。
「はぁ……」
呼吸が整った頃。
「友人思いのオレに感謝しろよ」
そんな事を言いながら有彦が現われた。
「恩に着る」
「おう」
頭を下げて、それから走り出す。
「あ……有彦!」
いや待て。
確認しなくちゃいけないだろう。
有彦がどうというより、アルクェイドの事を。
「ん?」
「あいつ、何か変な事言ってなかったか?」
「んー? 別に? 何か言ってた気もしないでもないけど忘れた」
「……そっか」
真実はわからない。
だが有彦がこういう以上、他の誰にも他言はしないだろう。
「つくづくすまない」
「なぁに」
手でしっしと俺を追っ払う仕草をする有彦。
俺はもう一度頭を下げて、公園へと向かっていった。
続く