まあ琥珀さんの行動に突っ込んでもしょうがないだろう。
「残念だけど俺たちは……」
「何するのー?」
「って超乗り気だしっ?」
ほんとにこのお姫様ときたらもう!
「さすがはアルクェイドさん。大きな胸をお持ちですねー」
「……」
ぴくっと秋葉のこめかみが動いた。
「ああいえ、間違えました。大きな心ですね」
ああもう、この割烹着の悪魔を誰か何とかしてください。
「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その14
「つまるところ、アルクェイドさんを主軸とした遊びを行うということですか」
翡翠はとてもクールだった。
「そう。これは交友を深めるための試みなのよっ」
いや、この人が暇つぶしをしたいだけだと思う。
「抽象的な文句はいいわ。具体的に何をするのか教えて貰えるかしら」
秋葉がむくれた顔をしている。
「まあそんなに難しい事をするつもりはないですよ」
と琥珀さんが取り出したのはトランプだった。
「ブラックジャックをやりましょう」
「間黒男?」
「違います。カードを引き合って21になったら勝ちというゲームです」
「いや知ってるけどさ」
別にアルクェイドじゃなくても出来るじゃないか、それ。
「アルクィエドさんに親をやって頂きます」
「何か賭けるの?」
「そうですね。負けた人に命令できる権利などいかがでしょうか?」
「却下です」
即座に秋葉が言い放った。
「そんなアルクェイドさん有利のルールを承諾できるわけがないでしょう」
「うん」
琥珀さんがそんな事を言い出すあたりが特に怪しい。
「いえ、公平さを出すためです」
「どういうこと?」
「まず、わたしが親だった場合、負けた人にそれはもうとんでもないことを命令しちゃいます」
うん、それは安易に想像できる。
「秋葉さまもです。この期とばかりに志貴さまに凄い事をさせちゃうに決まってます」
「ええっ?」
「そ、そんな事するわけないでしょうっ!」
顔を真っ赤にして叫ぶ秋葉。
「意見は却下します。次に翡翠ちゃんですが……これはもう言わずともわかりますよね?」
「……」
翡翠は困ったような顔をしていた。
「勝っても命令なんか出来ないわけです」
「じゃあ俺は?」
「えっちなことを命令しそうなので却下です」
「しないってば!」
「ほんとですかー?」
にやにやと笑う琥珀さん。
「うぐっ……」
微妙に反論出来ないのが悲しい。
「アルクェイドさんであれば全ての要素をクリアしていると思いませんか?」
「うーん」
確かに秋葉に対しても物怖じしないし、琥珀さんみたいに変な命令をするとも思えなかった。
「アルクェイド、例えば秋葉に勝ったらどうする?」
試しに尋ねてみる。
「なんでも命令していいって事?」
「そう」
「んー」
少し考え込むような仕草。
「そうね。また一緒に遊んでくれればいいわ」
「……」
「というわけです」
なるほど、害が全くないわけか。
「志貴には顔にラクガキしちゃおうかしら?」
「おいおい……」
なんで俺だけ。
「姉さん」
「はーい翡翠ちゃん?」
「一度勝った負けたでそのように罰ゲームを用意したらキリがないと思うのですが」
「そうよ。ブラックジャックなんて最も回転率いいゲームじゃないの」
「それも解決済みです」
そう言って琥珀さんが取り出したのはオモチャのコインだった。
「これを5枚賭けて勝負するんです。全部無くなったら負けってやつですね」
「なるほど」
「わたしたちの勝ちの定義がないじゃないの」
「では10枚になった時点で勝利。アルクェイドさんへの命令権を得るということでどうでしょう」
「そんな勝手に……」
「いいわよそれで」
いいのかよ。
「ずいぶんな自信ですね……」
その態度が秋葉の闘争心に火をつけたようだった。
「まっけないわよー」
アルクェイドの自信ってのは一体どこから来るんだろうなあ。
「では順番を決めましょう。じゃんけんで勝った人からです」
「上等ですっ!」
順番決めだというのに秋葉はハッスルしていた。
じゃんけんぽんと。
「当然の結果です」
そのおかげなのか、最初に勝負を挑むのは秋葉に。
「わたしで宜しいのでしょうか……」
2番手に翡翠。
「何か策略を感じるな……」
3番手が俺。
「わたしは皆さんに純粋に楽しんで欲しいだけですよー」
ラストが琥珀さんとなった。
「交代で勝負ですよー。どっちが勝っても負けても次に回しです」
「この私の実力を見て恐れおののくがいいわっ!」
いや、ブラックジャックの要素って大半が運だろ。
「じゃあ切るわよー」
しゅっしゅと手際よくトランプを切るアルクェイド。
「妹も切る?」
「当然です」
アルクェイドからトランプを受け取り、念入りに切る秋葉。
「どうぞ」
「はいはーい」
それをもう一度軽く切って、互いに一枚づつ配る。
「お」
「あらあら」
「ふ、ふふふふふ」
秋葉に配られた一枚目はハートのエース。
「最先いいじゃないか」
エースのカードは1にもなるし、11にもなるという万能のカードなのである。
「これが実力です!」
いやだから運だってば。
「やるじゃないの妹」
続いて翡翠にカードが配られる。
「10……ですか」
翡翠もなかなかの強カードだ。
「あらら。なんかてごわーい」
次に俺。
「キングか……これって13? 10?」
「正規のルールに則って10としましょう」
「オッケー」
13をアリにすると一瞬でゲームが終わりかねないからな。
「よっと」
「うわ」
最後の琥珀さんのカードは2。
「これは厳しいですねー」
「だねえ」
最低でも3枚目を引かなきゃ駄目だろうな、あれ。
「わたしは……っと」
アルクェイドは6という実に中途半端なカードだった。
「ねえ琥珀。スプリットとかダブルダウンとかアリなの?」
「ややこしくなるんでナシにしましょう。ブラックジャックの1.5倍だけはアリで」
「おっけー。そういえばベッドも済んでないけど」
「……何気に詳しいですね、アルクェイドさん」
琥珀さんが妙に感心していた。
「知識だけねー」
まあこいつの前歴(?)からするとカジノに入り浸ってたってことはないだろうが。
割とああいう空気が似合いそうな感じはする。
「取り合えず最初だから1枚づつでいっか。みんな文句ない?」
「大ありですっ!」
エースを引いた秋葉は大変強気だった。
「あ、そう? じゃあ何枚?」
「これです!」
ばっとコインを2枚追加する秋葉。
「いきなり3枚も大丈夫?」
「私に敗北はありません!」
なんか秋葉に思いっきり敗北フラグが立ってる気がする。
「他のみんなは平気?」
「問題ありません」
「取り合えず様子見だな」
「志貴さんと同じです」
他のメンバーは無難な選択だった。
「おっけー。じゃあ次のカードねー」
再びカードが配られる。
「うっ!」
カードが配られた瞬間、秋葉がなんともいえない顔をしていた。
「うわー、キツイですね……」
琥珀さんすら苦笑いするカードの正体。
「そ、そんな……」
秋葉の手元に来たのは、ダイヤの2のカードであった。
続く