「えっ……し、志貴っ?」
「と、遠野君! どうしてここに!」

俺の登場に信じられないといった反応を示す。

「……いや、さすがに気の毒になって……」

明るい音楽がかえって悲哀を誘う。

「もう1000円以上使ってるだろ……?」

空しく何も掴んでいない爪を動かす機械。
 

そう。ここはゲームセンターのUFOキャッチャーコーナーであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その19







「これをこうやって……と」
「あ、掴んだ!」
「欲しいものじゃなくて取れそうなやつを狙うのがポイントなんだよ」

俺は琥珀さんから教わったコツを利用してうまく景品をゲットしていた。

「なるほど。それは盲点だったわ」
「将を討たんとすればまず馬を射よというやつですね」
「そうそう。他にも……」

頼りにされているのが妙に嬉しくて、様々な技術を教えていく。

詳しい内容は秘密だ。

「これで……!」

教えた通りに操作をしていくアルクェイド。

うにょうにょとクレーンが獲物を狙う。

がしっ。

商品を掴んだ。

「これは緩いんじゃないですか?」
「いいんだよ」

先輩の言う通り、商品そのもの自体は爪から落ちてしまう。

「あ」

だかしかし、それについていた輪っかはしっかりと爪に引っかかっているのだ。

そのままクレーンは景品を運んでいき。

「ゲット!」

すとんと穴に落っこちていった。

「やっと手に入ったー!」

やたらと嬉しそうな顔でそれを抱きしめるアルクェイド。

「よかったなあ」
「うん。やっぱりばけねこが一番よね!」

それはガクガク動物ランドでおなじみのばけねこのぬいぐるみだった。

しかしゲーセンのぬいぐるみにまでなっていたとは。

「と、遠野君。わたしも知得留先生のが欲しいんですがアドバイスを」
「あー。あの位置は……えーと……まずあれをどけて……」
「ふんふん」

シエル先輩にも取り方を教えて上げる。

「こうやって……」

先輩は邪魔物を移動させた後、あっさりと目的のモノを手に入れてしまった。

「さすがというかなんというか……」

むしろ何で今まで取れなかったんだって気分である。

「遠野くんのおかげで助かりました。今までは猪突猛進でやってましたからね」

確かにあの位置は他のどけなきゃムリだからなあ。

「先輩も熱くなると周りが見えなくなっちゃうのかな」

なんて珍しく余裕を感じさせる発言をしてみる。

「もう。遠野くん!」
「いや冗談だって」

笑いながら100円を投入。

「まだ何かあるんですか?」
「うん。せっかくだからみんな用にね」

おあつらえ向きに、それぞれが喜びそうなぬいぐるみが転がっていた。
 
 
 
 
 
 
 

「二人でこそこそしてるから何かと思ったら、これだもんな。笑っちゃうよ」

そんなこんなで帰宅した俺は、みんなにその時の事を話していた。

「もう。その話はいいじゃないの」

ぬいぐるみを抱えて口を尖らせているアルクェイド。

「確かに、真祖だかなんだかであるアルクェイドさんがぬいぐるみ程度にてこずるというのはお笑い種ですね」

くすくすと笑っている琥珀さん。

琥珀さんにもきのこの奴を持ってきたのだが、既にコンプ済みだったらしい。

よってアルクェイドのコレクションに追加。

「たまには兄さんもいい事をするんですね」
「たまにで悪かったな」

確かに家に何か貢献するってのはしてなかったけど。

ちなみに傍には教授のぬいぐるみが置かれている。

「みんなが喜んでくれてよかったよ」
「はい。ありがとうございます」

翡翠にはもちろんエト君のぬいぐるみだ。

「めでたしめでたしだ」

これで安心して眠れそうである。

「まったく。くだらない事で心配させないでくれよ」
「はいはい」

どうせまたすぐ忘れて何かしでかすんだろうけどな。
 
 
 
 

「志貴さん志貴さん宜しいですか?」
「ん?」

みんながリビングを後にする中で、琥珀さんが俺を呼び止めてきた。

「わたしの言った事、ちゃんと理解されてます?」
「理解って何が?」
「……はぁ。やはり何もわかっておられませんでしたか」

なんて大きくため息をついている。

「え? 何?」
「志貴さん。人がいいのは結構ですが、そんなんじゃ騙されたまんまですよ?」
「……騙された?」

誰が? 誰に?

「志貴さんがアルクェイドさんに……いえ、今回はシエルさんの差し金でしょうが」
「先輩が……ってどういうこと?」

琥珀さんが何を言ってるのかさっぱりわからない。

「……アルクェイドさんが景品を取れないということが、おかしいと思わなかったんですか?」
「いや。別に……」

アルクェイドにだって出来ない事くらい……

「あれ?」

そこで妙な引っ掛かりを覚えた。

「あいつ何でも出来るはずなんだが」

ついでに言うなら「出来るのにやらない」筆頭である。

「そうですよ。志貴さんがしょっちゅう言ってた事じゃないですか。あいつは万能だって」
「……確かにそうだな」

最近のあいつは何もしない事のほうが多いかったから「出来ない」のイメージで捉えてしまっていたのだ。

「しかも、自分の欲しいモノがあったのにも関わらずですよ?」
「だなぁ」

何らかの能力を使うには格好の餌である。

「で、でも、ほら。あれだよ。俺がいつも使うなって言ってたから」

日常生活でそういうトンデモ能力を発揮する事はほとんどなくなっていた。

「まあアルクェイドさんはそれでいいですが。シエルさんが怪しいって話です」
「……先輩が」
「どうしてわざわざアルクェイドさんと二人でゲームセンターなのか」
「まあ……変な組み合わせではあるけど」
「ゲームセンターの悩みだったらわたしや志貴さんに話したほうが早いでしょう?」
「……うん」

確かにそう考えると何かおかしいような……

「い、いや、何もないって。大丈夫だから」
「そうですか。わたしの心配しすぎですかね」
「……あれ」

琥珀さんはいやにあっさりと食い下がってしまった。

「お騒がせして申し訳ありませんでした」
「……あ、うん」

確かにこれでいいはずなのだが。

散々不安を煽っておいてそれはないと思うんですけど。

「ま、これもわたしのお仕事なんで」
「はぁ」

琥珀さんはよくわからない事を言って去っていった。

「うう……」

また不安のほうが強くなってきてしまった。

俺の知らないところで何か起きているんだろうか。

「……アルクェイドに聞いてみるか……」

昨日は怖くて聞けなかったけど、そんなんじゃダメなのだ。

はっきりと聞けば安心出来るじゃないか、うん。
 
 
 
 

「アルクェイド。今日って最初からゲーセンに行く予定だったのか?」
「そうよ? 行こうって言ったのはシエルだけど」

なんだ。やっぱりそうだったのか。

「よかった……」

俺は安堵の息を吐いた。

「忙しい時に変な事言い出すわよね。まあ面白かったからいいけど」
「……なんだって?」

忙しい?

「何がどう忙しいんだよ」
「あー、そういえばまだ言ってなかったっけ?」

首を傾げるアルクェイド。

そしてそれがさも大した事じゃないような口調で言うのであった。

「なんか死徒っぽいのが現われてるのよ」
「な、なんだってー!」

続く



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