「みんな、もっと大人になるべきだよな」
「そうよね。寛大な心を持たないと」
「……複雑です」
「ん? 何か言った?」
「いえ、どうぞお食事を楽しんでください」
「そっか。じゃあもう一度食べさせてやろうかな」
「えー。やだもう、ばかー」
「……」
 

多分この頃は俺とアルクェイドにとって最も幸せな時間だった。
 

だがそれがひょんな事で崩れてしまうとは。
 

この時は微塵も考えてもいなかったのである。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その2










そんなこんなで数日が過ぎて。

「えへへー」
「何笑ってるんだ?」

遊びに行って帰ってきたアルクェイドは妙に上機嫌だった。

最近はすっかりラブラブだからこういう調子の時のほうが多いんだけど。

「……うっわ」

なんつー恥ずい事考えてるんだ俺。

ああでも、傍から見たらバカップルなんだろうか。

いやあれくらい普通だよな?

「どうしたの?」
「ああ、いや。何かあったのか?」
「あのね。お祭りがあるんだって」
「祭り?」
「ポスターが貼ってあったのよ」
「あー」

そういえば毎年神社でやってたっけな。

「もちろん行くわよね?」
「そりゃもちろん」

行かないはずがないじゃないか。

「でもあれって浴衣を着なきゃいけないんでしょ?」
「着なきゃいけないってわけじゃないけどさ」

より雰囲気を味わうには重要なアイテムだと思うけど。

「あ」
「なに?」
「うってつけの人材がいるじゃないか」

困った時には頼るべき人が。
 
 
 
 
 

「で、わたしのところに来たと?」
「うん」
「こういう時ばっかり頼りにされるのは嬉しくないですねえ」

苦笑いしている琥珀さん。

「そんな事言わないでさ」
「お願いよ」
「もー、しょうがないですねー」

しかし、なんだかんだで頼られるのはイヤではないようだ。

「こんなこともあろうかと、既に用意しておきました」
「……うわ、ホントにあるの?」
「ふっふっふ。志貴さん、このわたしを甘く見てもらっては困りますねー」
「さっすが琥珀。頼りになるー」
「ああ、なんか嬉しいですね。秋葉さまなんかちっとも感謝してくれないですもんっ!」

アルクェイドに褒められすっかりご満悦の琥珀さん。

「では浴衣を着せてあげますよ。志貴さんは部屋で待ってて下さいな」
「ありがとう」
「いえいえー」

後は琥珀さんに任せておけば大丈夫だろう。

「覗いちゃダメですよー?」
「しないってば」
「覗いてもいいわよー?」
「……何言ってるんだ、このう」
「えへへへ」
「はーい、いちゃつくの禁止でーす。退出退出ー」

追い出されてしまった。
 

「……はっはっはっは」

なんか変なキャラになってきてるよな、俺。

いや、これくらい恋をしている男だったら当然なのさ。

「いや変だって」

自分にツッコミを入れる。

「……」
「う」

そんな姿を翡翠に見られてしまった。

「あ、え、これは、その」
「……」
「い、いや、せめて何か言ってくれると嬉しいなあ?」

それはそれで悲しい反応なんだけど。

「苦言を申し上げようで恐縮ですが、上ばかり見ていると足元をすくわれるかと」
「……そ、そうだよね、あ、あはは」

いかんなあ。

翡翠にまであんな顔されるなんて。

やっぱり浮かれすぎてるようだ。

もうちょっと冷静にならないとなあ。

「志貴ー」
「お」

だがそんな気持ちも一瞬でどこかに行ってしまった。

「おおおお……」

浴衣姿のアルクェイド。

金髪美人と浴衣。

これほどまでにアンバランスで、これほどまでに絶妙の組み合わせが他にあるだろうか。

浴衣ってのは長身が映えると聞いた事があったけど。

「最高じゃないか!」
「え? そ、そう? あははは」

俺の褒め言葉にアルクェイドは顔を赤くしていた。

「いやまいった。さすがは琥珀さんだ。恐れ入った」

ここまで似合う浴衣を用意してくれるだなんて。

「ちょっとー。それじゃ琥珀の腕のおかげみたいじゃないの?」
「ああ、もちろん中身がいいからだってば」
「そう? あは、あはははっ」

自分で言わせておいて照れてるんだから世話ないよな。

「俺も浴衣欲しいなあ。どっかににないかな」
「ああ。それなら」

ひょいと手に持っていた何かを見せるアルクェイド。

「……こんなこともあろうかと?」
「ええ」

さすがは琥珀さん。

手抜かりがなかった。

「じゃあこれ着て……」
「行きましょ」
「おう」
 
 
 
 
 

「ここを昇ればすぐだよ」
「すぐって結構昇ってるけど」
「まあまあ」

階段を昇っているうちに賑やかな雰囲気が伝わってくる。

活気に溢れた声。

「わあっ……」

どんどん、どん。

ちゃんちきちゃんちき。

囃子太鼓の音が響いてくる。

「すっごいね。これがお祭り?」
「ああ」

道を左右で囲むたくさんの出店。

溢れる笑顔。

「本番は夜の花火だけどな」
「そうなの?」
「ああ、でもこっちも十分メインだよ」

色んなものがあって楽しめるからな。

「何か食べたい物あるか? 買ってやるぞ?」

貧乏な俺ではあるが、こういう時ばかりはかっこつけてみたかった。

「そう? じゃあね……」

きょろきょろと周りを見回すアルクェイド。

「あれがいいな」
「お」

それはお祭りといえば基本のアイテムだった。

「やっきそばー、やきそばー」
「静かに食えって」

そう、祭りといえばこれだ。

「昔ヤキソバンってヒーローがいてな?」
「えー? なにそれ?」

などと下らない会話をして楽しみつつ。

「はい、あーん」
「……おいおい、こんなところでかよ」
「いいじゃないの」
「あ、あはははは」

照れくさいながらもその雰囲気を楽しんだり。

「こういう焼きそばって凄い美味く感じるんだよな」
「外で食べるからかな?」
「それもあるだろうけど、やっぱ空気だよな」

周囲の活気と、場の雰囲気がその美味しさを大幅に上昇させている。

「持ち帰って食べるとアレ?って感じになったりもする」
「ふーん……」
「他に何かないか? 何でもいいぞ」

今日の俺はさながら秋葉の気分である。

いや、秋葉はこんなに色々買ってくれないかな?

「食べ物もいいけど、なんか遊べそうなものないかな?」
「遊びか。いっぱいあるぞ? 射的にヨーヨー、金魚すくいにカタ抜き」
「色々あるんだ?」
「おう。どうせだから全部やってみるか?」
「わ。ほんと? 志貴太っ腹ー!」
「はっはっは」

普段の俺だったら絶対言わないセリフだなあ。

「じゃあ、お願いしてもいい?」
「おう、なんでもかかってこい!」
「じゃあ……あれっ!」

アルクェイドが差した出店。

「お……」

そこは射的と大きく書かれた出店だった。

「面白そうでしょ?」
「ああ……」

射的自体は実にいい。

「……けどどっかで見たような人が……?」
 

遠くだから確認し辛いけれど、なんだかどこかで見た事のある人が店を仕切って居るように見えたのだった。
 

続く



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