そこは射的と大きく書かれた出店だった。

「面白そうでしょ?」
「ああ……」

射的自体は実にいい。

「……けどどっかで見たような人が……?」
 

遠くだから確認し辛いけれど、なんだかどこかで見た事のある人が店を仕切って居るように見えたのだった。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その3






「ちょっとやらせてくれないかしらー?」

人込みの中に紛れ込んでいくアルクェイド。

「こら、順番だろ」

慌てて手を引っ張る。

「ちぇ」
「お。有間発見」

そしてその店のヌシが声をかけてきた。

「ども、お久しぶりです」
「知り合い?」
「ああ。有彦のお姉さんで一子さんだ」
「お姉さんとか止めてくれよ気持ち悪い」

苦笑いをしている一子さん。

ハッピ姿が実に似合っている。

「……ふーん?」

アルクェイドは首をかしげていた。

「ふーん」

一子さんは一子さんでにやにやしてるし。

「ま、いいか。遊んでいくんだろう?」
「いいんですか?」
「いいも悪いも」

そう言って後ろを指差す。

「?」
「あの美人がやるみたいだぜ?」
「上手いのかな?」
「……あー」

なるほど、ギャラリーはアルクェイドの動きに興味津々のようだった。

「どうぞ、お嬢さん」

アルクェイドに鉄砲を差し出す一子さん。

「いいの?」

次の順番待ちだった男に尋ねる。

「ああ、全然構いませんよっ?」

男はデレデレした顔で笑っていた。

「む……」

なんとなくジェラシーを感じてしまう。

「弾は五発だ。景品に当てて倒せばそれが手に入る」
「なーんだ。簡単じゃない」

アルクェイドは肩透かしを食ったような顔をしていた。

「甘いなぁ」

この射的というゲームは一見簡単そうだが、その実とんでもなく難しいゲームなのである。

「何よ」
「最初は何も言わない。とにかくやってみてくれ」
「……わかったわ」

ちゃきっと銃を構えるアルクェイド。

「へえ……」

なかなかサマになっていた。

「えいっ!」

ぽんっ!

景品に向けて放たれるコルク弾。

「あ、あら?」

上手く当たりはしたものの、まるで倒れる様子はなかった。

「ちょっと。これ威力なさすぎじゃない?」
「……どんなのを想像してたんだよ」
「そりゃ、こう、ばきゅーん、どかーんって感じ?」
「そんなに威力あったら景品が壊れちゃうだろうが」
「むー」

銃と景品を交互に見つめるアルクェイド。

「……なるほど、そういうことね?」
「うん?」

何か気付いたらしい。

「まず落しやすそうな景品を探すのよ」
「ほほう」

大抵において失敗する原因は無理して大物を狙うからなのである。

「それで当てる場所を見極めて……」
「ふんふん」

再び銃を構えるアルクェイド。

「えいっ!」

ぽんっ。

「あ、あれ?」
「ダメだったな」

景品が揺れていけそうな感じはしたけど。

「んー。やっぱり威力不足をどうにかしなきゃ……」
「それもコツがあるんだぞ」
「そうなの?」
「ああ」

一子さんに聞かれるとヤバそうなのでこっそり耳打ちしてやった。

「なるほど。意外な盲点だわ」
「だろ?」

これは常識に囚われると損をするという典型である。

「おー、なんか意味深だねえ」

それにしても一子さんは楽しそうだ。

「見てなさいよー」

コルク弾を詰め込むアルクェイド。

「お?」

しかしこのコルク弾はさっきまでと違う。

入れ方を逆にするのだ。

もちろん入りづらいけど、強引に押し込んでしまう。

「こうやって……」

景品との距離が遠すぎても近すぎてもいけない。

銃口を景品に向けて。

「それっ!」

ぱこんっ。

「お」

落ちた。

「おめでとさん」

それを拾って手渡してくれる一子さん。

箱に入ったラムネのお菓子だった。

「えへへー。一個ゲット」
「よかったな」

アルクェイドはなんとも嬉しそうだった。

「さらにいくわよー!」

残りの弾も続けて景品を落していくアルクェイド。

「おお〜!」

ギャラリーもノリがよく、拍手喝采だった。

「あ、あはははは」

照れくさそうに笑うアルクェイド。

「ほいほい。次に挑戦するのは誰だい?」
「俺だっ!」
「いやわたしがっ!」

アルクェイドが去った後も大盛況のようだった。

「一子さん、ありがとうございます」
「いや別に何もしてないけどね」

ひらひらと手を振ってくれる一子さん。

「しかし、タイミングがいいんだか、悪いんだかね」
「え?」
「ああいや、祭りを楽しんでってくれよ」
「はい」

頭を下げてその場を離れた。
 
 
 
 

「志貴、どれが欲しい?」
「ん?」

アルクェイドがさっきの景品を見せてくる。

ラムネ菓子とオモチャの時計、それから……

「なんだこれ?」

最後のものは何も書かれていない真っ白い箱だった。

「お……」

開けてみるとそこには。

「ヨーヨー釣り無料券……」

他にも祭り定番のモノが無料というチケットが盛りだくさん。

「これ、凄いじゃないか!」

今日という日には最良のアイテムである。

「ほんと? やったあ!」

手を取って喜び合う。

「これで遊びまくれるぞ!」
「そうね、これでもかってくらいに遊んじゃうんだから!」

改めて一子さんに感謝し、俺たちは片っ端から出店を回り始めた。

ヨーヨー釣り、くじ引き、金魚すくい。

あんず飴、じゃがバター、フランクフルト。

「志貴、これ欲しいー」
「おう」

ばけねこっぽいお面をプレゼント。

「えへへへ」

アルクェイドは終始笑顔だった。
 
 
 
 

「大分回ったね」
「そうだな」

もうほとんどの出店は網羅してしまったんじゃないだろうか。

「あ」
「ん?」
「志貴、あれやってみれば?」
「……お」

そこは型抜きの出店だった。

「懐かしいな」

昔有彦と競ってやってたっけ。

「やってみるか……」

これのチケットはなかったので自腹を支払う。

「あいよ」

おじさんから型を貰って開く。

「げ」

いきなり難易度の高い奴だった。

「これ、どうやって遊ぶの?」
「ああ、この型のラインにそって削っていくんだ」

そして上手く削れたら賞金をゲット。

「難しいヤツほど賞金は高いんだが」

それだけあってまず成功はしない。

「ふーん」
「まあとりあえず」

やってみるとしましょうか。

ぱき。

「……げ」

いきなり割れた。

「え? まさか」
「……これでおしまい」
「えー?」

さも不満そうな顔をするアルクェイド。

「わ、わかってるよ。もう一回だ」

こんな結果じゃ俺だって不満である。

しかし、この考えが型抜きでは地獄のループを作り出してしまう。

「もう一回!」
「まだまだ!」
「次こそは!」

あっという間に消えうせていく小銭。

「くっ……」

俺の財布は大ピンチだった。

せっかくチケットのおかげで節約できると思ったのに。

「こ、こうなったら……」

使うしかないのか、アレを。

「志貴?」
「切り札を使う!」

俺はメガネを外した。

「あ」

これぞ最後の切り札、直死の魔眼。

この目にかかればどんな物体の線だって。

「見えた……っ!」

すっと線をなぞる。

すると型は。

ぱらぱらぱら……

一瞬でコナゴナになってしまった。

「ああっ! なんてこった!」

しまった、死をなぞったらこうなるに決まってるじゃないか。

なんて無駄な力の使い方をしているんだ俺。

「……なにやってんだおまえ」
「うん?」

すると後ろからいやに聞き覚えのある声が聞こえた。

この忘れたくても忘れられない声は。

「有彦?」
「彼女連れで祭りたあいいご身分だな」
 

そこにはにやにや笑った顔の有彦がいたのであった。
 

続く



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