「ヘンな志貴さんですねー」
「いつもの事でしょう?」
「……はっはっはっはっは」
 

これで後は俺の待遇がよくなってくれればなあ。

というのは我侭なんだろうか。
 

複雑な心境の俺であった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その6

「たっだいまー」

開けっぱなしにしておいた窓からアルクェイドが入ってくる。

「どこ行ってたんだ?」
「えへへ」

アルクェイドはやたらと上機嫌だった。

「シエルのとこに行ってたのよ」
「先輩の? 何か迷惑かけたんじゃないだろうな」
「全然? シエルも喜んでたわ」
「喜んでた?」

一体何をしていたんだろう。

あれか、やっぱりあれなのか。

「ちょっと空想具現化とかそっち関係の話をね」
「……あ、そ、そうなんだ?」

安心したようなそうでないような。

「志貴に話しても通じないでしょ? ちょっと面白いネタを発見したから」
「ふーん」

いわゆる身内系ネタみたいなもんだろうか。

「そしたらそれがビンゴ。シエルったら興味深々でね」
「ほうほう」

先輩との会話を身振り手ぶりで説明してくれるアルクェイド。

途中出てくる専門用語はよくわからなかったが、とにかく楽しそうだという事は伝わってきた。

「お礼にってカレーを作ってもらったの。びっくりしたわ」
「専門家だからなあ」

さぞかしハイレベルのものが出てきたに違いない。

「シエルがはまってる理由もわかっちゃったかも」
「あはははは……」

そいつはまたなんとも。

「でもよかったな」
「何が?」
「いや、楽しんできたみたいでさ」

昔だったらとても考えられなかっただろう。

二人は犬猿の仲で相容れる事なんかあり得ないと思っていた。

もちろん今だって喧嘩はするけれど。

「そうね。楽しかったわ」

こんなに満足そうに笑えるようになったのだ。

「よかったよかった……」

ケンカから始まる友達というのもあるという証明である。

俺自身経験からそれをよく知っていた。

「でね」
「うん?」

感慨に浸っているとアルクェイドが何か言いたげな顔をしている。

「志貴を誘いに来たのよ」
「誘いって……どこへ?」
「にっぶいわねー」

くすくすと笑うアルクェイド。

「シエルの家によ」
「でも魔法とかわからないぞ?」
「ああ、うん、それはもう終わったから、普通に遊ぼうって話になったのよ」
「そうなのか」
「せっかくだから遠野君も呼んだらどうですって」
「先輩の家か……」

そういえば久しく遊びに行ってない気がする。

「こないだおまえと行ったっきりかな?」

こないだと行ってもかなり前の話だが。

「かもね」
「そっかー」

なら尚の事いかなきゃな。

「よし、行くか!」
「そうこなくっちゃ」

がしっと腕を掴まれる。

「いや、窓からは行かないからな?」
「あ、そうなの? てっきり」
「翡翠とかにも声かけなきゃいけないからさ」

単に空中大ジャンプショーをやりたくないというだけであるが、それは言わない。

「そう? じゃあ外で待ってるわ」

アルクェイドは大人しく一人で外に出て行った。

「ふっ」

見よこの俺の進歩ぶりを。

これが愛の力なのだ!

「……ちょっと違うかな」

苦笑しつつ部屋を出る。
 
 
 
 

「翡翠ー」
「志貴さま」

ちょうど上手い具合に一階を歩いていた翡翠を捕まえる事が出来た。

「アルクェイドさまは見つかりましたか?」
「あ、うん。なんか先輩の家に行ってたらしい」
「そうなのですか」
「うん。それでこれから俺もちょっと先輩の家に出かける事になったんだ」
「かしこまりました」

ぺこりと会釈する翡翠。

「夕食までに戻られる予定ですか?」
「うん。それまでには帰るよ」

アルクェイドだって二連続カレーじゃ飽きるだろう流石に。

「姉さんにも伝えておきます」
「ありがとう」
「では、おみやげも宜しくお願いいたします」
「わかった……って」
「冗談です」
「……はは」

翡翠がこんな冗談を言うなんて。

「ま。期待しないで待っててくれよ」

お兄さんなんだか嬉しくなってきましたよ?

「行ってらっしゃいませ」
「ああ」

気分は上々、足取り軽く玄関を出る。

「おでかけですか?」

玄関を出てすぐのところで琥珀さんが掃除をしていた。

「うん。詳しくは翡翠に聞いて」
「おやおや内緒の話ですか?」
「そういうわけじゃないけど」

こういう言い方をすると琥珀さんは喜ぶのである。

「わっかりましたー。ごゆっくり楽しんで来てくださいねー」
「うん」

帰ってきたらあれこれ茶化されるんだろうが、それもまたよし。

琥珀さんがイタズラするのは平和の証みたいなもんだ。

見よこの余裕!

「……あ、志貴さん?」
「なに? ごわっ!」

べちん!

何かに足をひっかけて倒れてしまった。

「危ないですよーって言おうと思ったんですが」
「あ、あはは……」

肝心なところで抜けてるのは俺の宿命らしかった。
 
 
 
 

「しーえーるー。あそーぼー」

丸っきり子供そのもののセリフを言いながらインターホンを鳴らすアルクェイド。

「はいはーい」

ぱたぱたと小走りする音が聞こえ、ドアが開いた。

「こんにちわ、遠野君」
「はい、どうも」

思わず頭を下げる俺。

「ちょっとシエルー。わたしを無視して志貴に挨拶ってどういうことよー」

むくれた顔をしているアルクェイド。

「あなたへはさっき挨拶したじゃないですか?」
「あ、そっか」

先輩の方が一枚上手のようだ。

「あがってください。ちょうどお茶の用意が出来たところですので」
「ありがとうございます」

忘れがちだが先輩は茶道部である。

よって煎れるお茶の味も。

「おいしー」

アルクェイドは大層ご満悦だった。

「お粗末さまです」

先輩はにこにこと嬉しそうである。

「で、呼んでくれたのはありがたいんだけど」

俺には気になる事があった。

「何でしょう?」
「なにして遊ぶの?」
「そうですね……」

この間はウォーリーを探せとか死ぬほど懐かしいモノをやった気がするけど。

「そういえば第七聖典いないわね」

アルクェイドがきょろきょろ周囲を見回している。

「セブンは外出中でして」
「物騒ねー。ちゃんと管理しなさいよ?」
「大丈夫ですよ。後始末とかはちゃんとしてますから」

後始末ということは先に何かをやらかしてるって事なんですが。

「先輩も大変だね」
「まあ、いつもの事です」

この余裕はさすがだった。

「で、このメンバーで楽しめそうな遊びなんですけどね」
「うん」

一体なにをやるというのか。

「……」

先輩は一瞬照れくさそうな顔をしてこう言った。

「○×です」
「な、なんだって!」

それってまさか……あれのことか!

「え、何? 何か面白い事?」

それが何を意味しているかわからないアルクェイドはきょとんとしていた。

「そうか……」

こいつは血沸き肉踊る展開に!
 

……は絶対ならないだろうなあ。
 

続く



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