「○×です」
「な、なんだって!」

それってまさか……あれのことか!

「え、何? 何か面白い事?」

それが何を意味しているかわからないアルクェイドはきょとんとしていた。

「そうか……」

こいつは血沸き肉踊る展開に!
 

……は絶対ならないだろうなあ。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
第七部
その7






「じゃあここにマルっとー」

このゲームのルールはものすごく単純で、「丼」みたいな枠に○と×を交互に書き込んでいって3つ揃えば勝ちというものだ。

「えい」

×と。

このゲームは単純なだけに、パターンさえ覚えてしまえばすぐに結果は見えてしまう。

「だあ」

これじゃまた引き分けじゃないか。

「先輩、いくらなんでも冗談ですよね?」

俺は苦笑いしながら尋ねた。

「……まさか本当に始めるとは思ってもいませんでした」

信じられないといった顔で俺たちを見ている先輩。

「え? これじゃないの?」
「当たり前じゃないですか」
「……はっはっは」

それなら始める前に言って欲しかったなあ。

「志貴の番よ?」
「もうおしまい」

わざと負ける位置に×を書く。

「あっは。これでわたしの10勝ねー」

こんなんでも勝てば嬉しそうなんだから羨ましいというかなんというか。

「あ。志貴がわたしの事バカだと思ってる」
「うぐ」

顔に出やすいんだろうか。

「気持ちはわかりますが、遠野君は一部の表情の訓練をするべきですね」
「あ、あはは」
「シエル、さりげなく酷い事言ってない?」
「さあ。いよいよ本番の○×ゲームですよ」

あからさまに話題を逸らせるシエル先輩。

「ちょっと……」
「ここに○と×の二枚のカードがあります」

ぱっと二枚のカードを取り出す。

アルクェイドは文句を言いかけたがそのカードに目線を移して無言になった。

このへんの微妙な扱い方は見習わらなくっちゃなあ。

「これを床に置きまして」

先輩は距離を置いてカードを置いた。

「さて問題です」
「ちょっとタンマ」
「なんでしょう?」
「つまり、先輩が問題を出して正解のカードを取るって事?」
「ええ。察しがいいですね」

というかそれ以外にこの状況で何をしろというんだ。

「それだと一人は間違いになっちゃうんじゃないの?」

アルクェイドが尋ねる。

「はい。確率は1/2ですから」
「あのー、スピード勝負だと俺不利なんですけど」

頭の回転もおそらくあっちのほうが上だ。

「そうねー。最初からわかってる勝負ってのはつまらないわ」
「ぐぅ」

反論したいがその通りなので何も言えない。

「ふむ」

一瞬考える仕草をするシエル先輩。

「ではこうしましょう」
「どうです?」
「そこに押入れがありますよね?」
「ええ」
「右を○、左を×としましょう」
「……なんか嫌な予感がするんですけど」

しかもとてつもなく。

「わたしが問題を読むんで、交互に突っ込んでいってください」
「ああああ」

それはクイズ番組でよくあるアレじゃないか。

「もちろん間違いだったら小麦粉まみれですっ」
「先輩テレビ見て思いつきで行動するのはよくないよ!」

っていうかこっちが本命でカードはダミーか。

完全にやられた。

琥珀さんほどではないけど、先輩もこういうトラップは得意技だったのだ。

「ちっちっち」

指を振るシエル先輩。

「テレビを見る前からこれをやる予定だったんです。遠野君が何を見たかは知りませんが、被ったのはたまたまです」

どうも胡散臭い。

「ねえ、押入れに飛び込むって壊しちゃっていいの?」
「おいおい」

アルクェイドはやる気満々のようだ。

「あれ、そう見えるように細工してるだけなんでいくらでもどうぞ」
「そうなんだ。気合入れないと見破れそうにないわねー、あれ」

また先輩もずいぶんと無駄な事に情熱を注いでるなあ。

「見ちゃ駄目ですよ? つまらないですから」
「わかってるわよ。実力勝負よね」
「うーむ」

これならまあなんとか勝負になるんだろうか。

「では第一問目です。遠野君からどうぞ」
「え? 俺から?」
「志貴、頑張ってー」

アルクェイドに背中を押されてしまう。

「ちょ、ちょっと待ってまだ心の準備が……」
「遠野君がかけているのはメガネである。○か×か」
「へ?」
「はい、考えてください」
「……考えてって」

そんなもんどう考えても○だよな。

いや、実は特殊なメガネだから……

ってメガネに変わりないじゃないか。

「……うーむ」

なんだろうこの問題は。

ひっかけなんだろうか。

「さーん、にーい」
「ああ、もうっ」

アルクェイドがけしかけてくるので押入れに向かって走りだす。

「右の○っ!」

目を閉じてダイブ。
 

ばふっ!
 

「はい、正解です」

目を開けるとフカフカのクッションの上だった。

「よかった」

正解だったようだ。

って当たり前なんだけど。

「……」

隣を見るとそこは見事に小麦粉地獄だった。

「恐ろしい……」

ここに入っていたらどうなっていた事か。

「はい、では次はアルクェイドの番ですね」
「ん」

起き上がって戻るともうアルクェイドの順番だった。

「押入れ直さなくて……って」

俺が飛び込んだ跡なんかどこにもないし。

「見た目を加工しただけだと言ったでしょう? 後ろの仕掛けはアシスタントが移動させてくれます」
「さいですか……」

何にしてもやる時は徹底的なんだよなあ先輩って。

「問題」

さてアルクェイドへの出題はどんなものなんだろう。

「現世に存在する魔法使いの……」
「は?」

シエル先輩はなんだかよくわからない呪文のようなものを呟いた。

「む。それってあの……」

さらにアルクェイドがよくわからない質問を返す。

「これは問題ですからそういった質問には答えかねます。○か×かです」
「ちょっと。ずるいわよそれー」

アルクェイドの反応からするに、かなりの難問のようだ。

「さーん、にーい」

さっきやられた事をそのままやり返す俺。

「もうっ」

アルクェイドは○のほうへと走り出した。

「えいっ!」

ぼんっ!

「うおっ……」

白煙が押入れから吹き出てくる。

「残念でしたねアルクェイド。正解は×だったんです。何故なら……」

とまたよくわからない講釈を始める先輩。

「……」

アルクェイドは足を突っ込んだままの格好でぴくりともしない。

「お、おーい、大丈夫か?」
「うふ、うふふふふ……」
「おおうっ?」

背筋に寒気が走った。

「シエルってばそういう事するんだー?」
「い、いかん」

これはまさか、以前の険悪モード復活の兆しなのか?

「うふふふふ」
 

シエル先輩はただ不敵に笑っているのであった。
 

続く



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