「で、どうしたんだ翡翠」

なんとなくアルクェイド関連で何かがあったような気がする。

むしろそれ以外では思いつかない。

あのばか、何をしでかしたんだろう。

「あの……その」

翡翠は少し俯き加減で、なんだかもじもじしていた。

「どうしたの? 言いづらいこと?」
「その、秋葉様には内密にしていただきたいのですが」
「ああ。アルクェイドが何かしでかしたんだろ?」
「いえ……その、アルクェイドさんは多分関わっていないと思うんですが」

目の焦点も定まっていない。

翡翠はかなり困っているようだった。

「どうしたんだよ。何があったの」
「その……」

翡翠はほとんど消え入りそうな、小さな声でぽつりと言った。
 

「私の……下着が、盗まれたみたいなんです」
 

その言葉を聞いた瞬間、なんだか俺はくらりと眩暈がしたのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
その8











「し、下着って……その下着?」

思わず訳のわからない質問をしてしまう。

「はい……」

頷く翡翠。

なるほど、下着か。

翡翠の下着。

「……」

いかん、翡翠の下着姿なんて想像してる場合じゃない。

「それは一大事だな……」

俺は思わず腕を組んで呟いた。

翡翠は結構潔癖症なところがある。

人に肌を触られたりするのはかなり苦手なのだ。

もちろん、自分の衣服などに触られるのも極端に嫌う。
 

そんな翡翠が、下着を盗まれた。
 

かなりショックだったんだろう。

俺が食事中だというのに助けを求めてきたくらいなんだから。

秋葉の手前平静を装っていたんだけど、きっとかなり無理したんだろう。

おのれ犯人。

なんて羨まし、もとい非道なヤツだ。

見つけたらタダじゃすまない。

「他に盗まれたものはないのか?」
「一通り調べましたが、他には特に」
「そ、そうなのか……」

この大豪邸に忍び込んで盗んだのが下着だけとは。

どういう神経の持ち主なんだろう。

「そして被害を受けたのは私と姉さんだけのようです」
「こ、琥珀さんも何か盗まれたの?」
「はい……姉さんもやはり下着が」

こ、琥珀さんの下着まで盗むなんて!

おのれ犯人!

生かしては帰さん!

「姉さんの勝負用の黒まで盗まれていました」
「く、黒っ?」

琥珀さんの黒。

勝負用の黒い下着。

「お、おのれええええええっ!」

俺は思わず声を出して叫んでしまった。

びくりと翡翠が身を強張らせる。

「あ、わ、悪い」
「いえ……」

目を伏せる翡翠。

「今のことはその、忘れてください」
「あ、う、うん」

そうか、琥珀さんの勝負用は黒なのか。

いかん、忘れなければ。

「……」

忘れようとするとその黒い下着を纏った琥珀さんがイメージされてしまう。

ああ琥珀さん、なんて悩ましいポーズをっ!

……なんてバカなことを考えていると翡翠が泣きそうな顔になっていた。

「いや、その」

非常にまずい。

何か言わなければ。

「で、でもさ。翡翠と琥珀さんがって言ったけど。秋葉は被害を受けてないのか?」
「はい。私の部屋が荒らされていることに気付いて、真っ先に秋葉さまの部屋を調べに行きました」
「……」

さすがはメイドの鑑。

自分の部屋が荒らされてショックだろうに、まず党首である秋葉の心配をするだなんて。

なんだか感動してしまった。

「秋葉さまの部屋には何物かが侵入した形跡はありませんでした」
「不幸中の幸いだな……」

俯いてしまう翡翠を見て慌てて口を押さえる。

「わ、悪い、その」
「いえ、その通りです。秋葉さまの持ち物に何かあったら、ただではすまないでしょうから」
「……」

それは犯人がだろうか。それとも翡翠や琥珀がだろうか。

どっちにしても秋葉には知らせないほうがよさそうだ。

「志貴さまー。お待たせしました。ご飯出来ましたよー」

そこへ琥珀さんがひょいと顔を覗かせる。

「悪い。ちょっとそれどころじゃなくなったんだ。後で俺の部屋に置いておいてくれよ」
「……何かあったんですか?」

俺の表情を見て、顔を強張らせる琥珀さん。

「いや、実は……」
「私たちの下着が盗まれました」

ぴしっ。

ああ、琥珀さんの顔が怖いっ。

「それはそれは。一体どういうことですか?」
「志貴さんを迎えに行った後、一度部屋に戻ったんですよ。すると部屋からごそごそと物音がするんです」
「ええ、それで?」
「なんだろうとドアを開けたところ、部屋を荒らされていて、下着だけが盗まれていました」
「私と翡翠ちゃんのだけが?」
「ええ」

琥珀さんはしばらく何かを考えていたが、やがてぽつりと言った。

「私の、勝負用も?」
「はい」
「……」

そこまで聞いて琥珀さんは何故かくるりと俺のほうを向いた。

「駄目ですよ、志貴さん。欲求不満なら欲求不満と言ってくださらないと」
「ええっ! お、俺がやったっていうの?」
「し、志貴さまが犯人だったんですか?」

翡翠もそんなに驚かないで欲しい。

「俺じゃないって。翡翠が迎えにくるまで俺はアルクェイドと一緒にいたし」
「そ、そういえばそうでしたね」

安堵の息を漏らす翡翠。

「まあ志貴さんが犯人っていうのは冗談ですけど」

琥珀さんはさらりと言った。

「お、脅かさないでくれよ」

俺はほっと息をつく。

「ですが、私たちの下着は志貴さまの部屋にあると思いますよ?」

なんてことを真顔で言う琥珀さん。

「な、なんでっ?」
「や、やはり志貴さまが……」

翡翠は相変わらず動揺がひどいようだ。

「犯人は志貴さまではないですけど。おそらくは志貴さまのお友達が犯人だと思います」
「俺の?」
「ええ。何日も宿泊つもりであるなら、必要なものが出てきますから」
「必要なもの……」

俺の友達。

必要なもの。

「あ」

あいつの顔を思い出した瞬間、全てが繋がった気がした。

俺がそれを聞くと『えっち』なことで何かは『秘密』。

そして『ご飯の時間の間にはなんとかなる』もので『秋葉のでは無理で、翡翠と琥珀さんのどちらのかがいい』もの。

それはつまり……下着だ。

「わかった。ありがとう琥珀さん。俺ちょっととっちめてくる」
「あはっ、頑張ってくださいねー」
 

俺を送り出してくれた琥珀さんは笑顔なのに、俺はなんだか背筋に寒気を感じてしまうのであった。
 
 

続く



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