「犯人は志貴さまではないですけど。おそらくは志貴さまのお友達が犯人だと思います」
「俺の?」
「ええ。何日も宿泊つもりであるなら、必要なものが出てきますから」
「必要なもの……」

俺の友達。

必要なもの。

「あ」

あいつの顔を思い出した瞬間、全てが繋がった気がした。

俺がそれを聞くと『えっち』なことで何かは『秘密』。

そして『ご飯の時間の間にはなんとかなる』もので『秋葉のでは無理で、翡翠と琥珀さんのどちらのかがいい』もの。

それはつまり……下着だ。

「わかった。ありがとう琥珀さん。俺ちょっととっちめてくる」
「あはっ、頑張ってくださいねー」
 

俺を送り出してくれた琥珀さんは笑顔なのに、俺はなんだか背筋に寒気を感じてしまうのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
その9











「アルクェイドぉっ!」

名前を叫びながらばたんと俺の部屋のドアを開ける。

今度は俺が降りてきた状態のまま、屋根裏部屋へのはしごが出しっぱなしになっていた。

「え、志貴、もうご飯終わったのっ?」

上から聞こえてくるアルクェイドの声はどこか慌てているようだ。

「登るぞ」
「え、ちょっと、駄目、駄目っ」

無視してなわばしごをあがっていく。

「う」
「あ……」

ちょうど慌てて扉を閉めようとしたアルクェイドと目が合う。

上半身、ハダカの。

「きゃ、きゃーっ!」

わめき声を上げるアルクェイド。

「ば、ばかっ! なんでおまえ、ハダカなんだっ!」

と言いながらもしっかり両の目はアルクェイドのふくよかな胸に釘付けである。

「ちょっと、見ないでってば!」

慌てて腕で胸を隠すアルクェイド。

うーむ、残念。

じゃない。

「おまえ、翡翠や琥珀さんの下着盗んだだろっ!」

後ろを向いてごそごそと上着を着ているアルクェイドに向かって叫ぶ。

その傍には確かに翡翠や琥珀さんのものだと思われる下着が散乱していた。

もちろん、例の勝負用の黒も。

「ぬ、盗んでないもん。ちゃんと書きおきしたよ?」

顔だけ振り向いて答えるアルクェイド。

「え?」

そんなことは翡翠は一言も言ってなかったけど。

「なんて書いたんだよ」
「えーと、なんだっけ」

ようやく上着を着終わりくるりと振り返るアルクェイド。

「うー、ちょっとスースーする……」

そうか。慌てて上着を着たからノーブラなのか。

「……」

いかん、そういう考えをしてる場合じゃないのだ。

「と、とにかく、ちゃんと書置きしたよ?」
「うーん……」

アルクェイドが嘘を言っているとも思えない。

それは後で翡翠に聞かなきゃいけないだろう。

そしてやはり書置きしたとはいえ、翡翠と琥珀さんの下着を持ち出したのはアルクェイドだったわけだ。

「まったく人騒がせなことするなよ。翡翠なんか凄い動揺してたし、琥珀さんだって怖い顔してたんだからな」
「うー。だって、毎日同じ下着じゃやだもん」

アルクェイドは顔を赤くしていた。

まあ下着の話なんか普通しないからなあ。

「そ、それはわかるけど。書置きとかじゃなくて直接許可をとってから借りろよ。そうしたら問題起きないんだからさ」
「問題……うー。問題確かにあるのよ」
「ん?」

俺はアルクェイドが問題を起こしているということを怒っているのに、彼女は問題という言葉の意味を履き違えてるようだった。

「なんだよ、問題って」

しかし気になるので聞いておく。

「サイズ」

アルクェイドはぶっきらぼうに言った。

「サイズ?」
「うん。ぱんつはいいけど、胸が……」
「……あー」

だから秋葉は問題外だったのか。

確かにアルクェイドはその、なんていうか……でかいからな。

「そんなこと翡翠や琥珀に言ったら、やっぱりイヤな顔されるだろうし」
「ぬ」

なるほど、書置きだけで持っていったのも、一応コイツなりの考えがあったからなのか。

「でもどうしよう。下着無いと困っちゃうな」

そんな事俺に聞かれたって困る。

「とりあえず全部元に返して来い。それから翡翠と琥珀さんに謝れ」
「えー。でも下手に外に出ると妹に見つかっちゃうかもしれないよ?」
「だ、だからって俺がこれを返しに行くわけにもいかないだろ」

下手したらアルクェイドが見つかるよりも酷い仕打ちを受けてしまいそうだ。

「志貴さーん。お食事をお持ちしましたよー」

そこへ琥珀さんの声。

「そ、そうだ。琥珀さんに持って帰ってもらえば問題無いな。うん」

アルクェイドに謝らせて琥珀さんに持っていってもらおう。

「アルクェイド、先に行って謝れ」
「う、うん」

アルクェイドはなわばしごを使わずにしゅたっと下へ着地した。

「よし」

俺も後を追って下へと。

ひょいっ。

「あ、あれ?」

しかしすぐにアルクェイドは上へと戻ってきてしまった。

「ど、どうしたんだアルクェイド」

何故か顔面蒼白のアルクェイドに尋ねる。

「し、志貴〜。琥珀がいじめるよ〜」

そんなことを言うアルクェイドはまるっきり涙目になっていた。

そんな表情は可愛らしくてときめいてしまうが、そんなことよりも驚きが優先した。

「な、なんだ? 何があったんだ?」

アルクェイドは目をウルウルさせたままうわ言のように呟く。

「に、にんにくが〜。にんにくが一杯……」
「ニンニク?」

下を覗くと、にこにこと笑う琥珀さんがいた。
 

「あはっ、どうしたんですかアルクェイドさん? 大好物のニンニクを用意しましたよー」
 

笑顔。

そう、琥珀さんは笑顔だっていうのに。

冷たい汗が、俺の背中を背中を流れた。

「あ、アルクェイドっ! おまえ行けっ! 犠牲になれ!」
「や、やだよぅ。にんにくはイヤ、ニンニクはイヤなの〜!」

部屋の隅っこにうずくまってしまうアルクェイド。

「志貴さーん。早くアルクェイドさんを下に降ろしてくれませんかー? でないと大変なことになっちゃうかもしれませんよー?」
「う……あ」
 

ど、どうしよう。

琥珀さん、絶対怒ってる。

「ちょ、ちょっと待って」

とりあえずなんとか琥珀さんの機嫌を直すよう努力してみよう。

かなり無謀かもしれないけど。
 

ゆっきりと下へと降りていく。

ぴしり、ぴしりと痛い空気が肌に触れる。

なんて恐怖。

だが俺は引くわけにはいかないのだ。

「こ、琥珀さん。その、さ。アルクェイドも悪いやつじゃないんだ。ただ、ちょっと常識に欠けてるだけで」
「あはっ。何の事ですか? 私はそんなこと気にしてませんから、早くアルクェイドさんを呼んでください」

怖い。

琥珀さんが凄く怖い。

ニンニクばかりがおそらく9割以上入っているニンニクチャーハンを笑顔で持ってる琥珀さんは、凍てつくようなオーラを放っていた。

「あ、いや、その、でも。なんていうか、あの、書置き置いたってアルクェイド言ってたし」
「はぁ。書置きとはこれのことでしょうか?」
「う」

琥珀さんの差し出した紙には。
 

『かいとーねこむすめけんざん。下着はありがたくちょーだいしていく』
 

とか書かれていたのであった。

続く



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