「は、はい……れ……連立方程式」
「……もっと普通の言葉を選びなさいよ……鏡面反射」
「いや、それも普通じゃないと思うんだけど」
「これもやですか? しですか?」
「しで採用。死亡遊戯」
「ブルースリーの作品ですね。あれは完成しなかったのが残念でなりませんよー」
「細かいところをついてくるなあ……」
 

こうしてお互いのマニアックな知識を披露する(?)しりとりは動物園到着まで続くのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
第五部
姫君と動物園
その11





「はい、到着」

そうしてついに動物園の駐車場へとワゴンは辿り着いた。

「イースター島。……あ、ついたの?」

ちなみにしりとりのほうはほとんどがリタイア。

イチゴさん、アルクェイド、琥珀さんの三人で続いていたのだ。

「あらら。ではこの続きは帰りということでー」
「帰りは疲れてそれどころじゃないだろうさ」

苦笑するイチゴさん。

「そういえば俺、全然道案内とか出来なかったですね。すいません」

ふと思い出して頭を下げる。

「あー、いやいや。あれは口実だから気にしなくていいよ」

するとイチゴさんはそな事を言った。

「え? じゃあどうして俺を助手席に?」
「車内でイチャイチャされるのもケンカされるのもゴメンだからさ」
「……なるほど」

それで二人を離させたわけか。

「志貴っ。何してるのよっ。早く行こうよっ」

むぎゅっ。

イチゴさんと話しているというのにアルクェイドが俺に抱き付いてきた。

「こ、こら、やめろっ」

アルクェイドのふくよかな双丘がむにむにとなんともいえぬ感触を。

「ちょっとアルクェイドさんっ! 兄さんから離れなさいっ!」

そんなアルクェイドをみて叫び声をあげる秋葉。

「……まーワゴンから出た先はあたしゃ関与しないがね」
「そ、そんな」
「姉貴。年長者なんだからもうちょい引率……うごっ」

余計な事を言った有彦は裏拳を食らっていた。

「とりあえず中入って集合場所だけ決めとくか。後は各々自由行動って事で」

そう言ってイチゴさんは歩き出す。

「そうですねー。さすがにこの人数で動くのは難しそうですし」
「わたしはペンギンが見たいです」
「うんうん。一緒に行こうねー。翡翠ちゃん」

どうやら琥珀さんはアルクェイド&秋葉の間に入るつもりはないらしい。

姉妹で仲良く歩いていった。

「わたしはわたしでちょっと研究がありますんで」

シエル先輩は俺が捕まっているのをみて苦笑している。

「……」
「ではでは」

俺一人でアルクェイドと秋葉をなんとかしろってことなのか?

「先輩。回るんならご一緒しますよ」

有彦がシエル先輩の隣へ。

「ああ。乾くんにはこれあげますんでどうぞ」
「はい?」

先輩が何かを渡すと有彦の表情が変わった。

「……厄介払いって奴ですか?」
「いえいえそんなことはありませんよ。楽しんできてください」

一体何を渡したんだろう。

「ほらほら志貴、ぼーっとしてないで行くわよっ」
「うわっ」
「待ちなさい! 兄さんは私と一緒に……」

いかん、有彦の事なんか気にしている場合じゃなかったんだ。

とにかくなんとかしないとっ。

「あ、アルクェイド、離せ、おーい、こらっ」
「何見よっか。やっぱりゾウ? ライオンとかもいいわよね?」

てんで聞いちゃいない。

「人の話を聞けっ!」

半ばアルクェイドに引きずられる形で動物園内へ。
 
 
 

「えー、じゃあ集合場所だがこの……」

さてどうやってアルクェイドと秋葉の二人をかちあわないようにしようか。

「動物園っ。すごいっ。人も動物もいっぱいだねっ」
「あ、こらちょっと!」

考える前にアルクェイドは一人で駆けだして行ってしまった。

「……虎の檻の前にしようと思うんだが有間はあれを追いかけてその旨を伝える事。いいね」
「は、はい」

アルクェイドのやつめ、勝手な行動するなって散々言っておいたのに。

これじゃ抱きつかれてたさっきのほうがまだマシだ。

「兄さん。あんな人放っておいて私と回りませんか?」
「そういうわけにもいかないだろ」
「ちなみにあたしはほぼ一日ずっとここにいるから」

そう言ってイチゴさんはどこに持っていたんだか、大きなスケッチブックを取り出した。

「……ああ、絵を描くんですね」
「ん。そゆこと」

意外に思われるかもしれないけれどイチゴさんの趣味は絵画なのだ。

滅多に見せてもらえないけれどその絵は無茶苦茶に上手い。

「そういうわけで後は任せたぞ有間。妹さんも彼女も上手にエスコートしてやれ」
「は、はぁ」

正直かなり自信ないんですけど。

「では話もまとまったことですし、解散ってことで〜」
「え、ちょ、琥珀さん? 今回は干渉して来ないの?」
「そりゃもう翡翠ちゃんとの思い出作りが大事ですからー」
「……むぅ」

それじゃ琥珀さんに助けてもらうわけにもいかないか。

「俺の分まで楽しんできてくれよ」

いよいよもって覚悟を決めた。

人に頼ってばかりじゃ駄目なのだ。

俺自身の力でなんとかしないと。

「まずはアルクェイドを探すことからだな……」
「頑張ってくださいね遠野君」
「へーい。先輩も頑張ってください。行くぞ秋葉」
「え、ちょ、兄さん……」

ちなみに有彦はあらぬ方向に向かって独り言を呟いていて怖いので放置しておいた。

あいつも疲れてるのかなあ。
 
 
 

「さてあいつがやってきそうなゾウのところに来たはいいが」
「いませんね」

なんだかんだで秋葉もアルクェイド捜索に協力してくれることになった。

「本当に仕方なくですからねっ? 兄さんが探すって聞かないから……」
「わかってるよ。感謝してる」
「……別に気になさらなくて結構です」

礼を言うとそっぽを向いてしまう秋葉。

ほんと素直じゃないんだよなあ。

アルクェイドの素直さをちょっとでも分けて欲しいくらいだ。

「ぱお〜ん!」
「きゃあっ!」

突如ゾウが鼻を動かしながら鳴き声をあげた。

秋葉はよほどびっくりしたのか俺にぴたりとくっついてしまっている。

「なんだよ秋葉。おまえゾウが怖いのか?」
「そ、そういうわけではないです。ただびっくりして」
「ぱーおーん!」
「きゃ、きゃあっ」
「ほら、怖いんじゃないか」
「ちっち、ちがいますっ!」
「ははは……」

いつも気丈な秋葉がこんな風に怖がるのを見ると、秋葉も女の子なんだなあと妙に実感してしまう。

「ぱーおーん!」

ゾウは管理のおじさんからリンゴを鼻で受け取り、器用に口に運んで食べていた。

「へえ……」

話には聞いていたけど大したもんだ。

「……」

秋葉もようやくゾウに対する警戒心を解いたようである。

「怖くなくなったか?」
「もう! 兄さんっ!」
「はっはっは、悪い悪い」

いつも秋葉にいじめられてばっかりだからこれくらいはなぁ。

とか下らない事をやっていると。

ぴんぽんぱんぽーん。

『お客様のお呼び出しをいたします』

園内アナウンスの声が響いた。

「迷子の呼び出しか……」

アルクェイドを呼んでもらいたい所だけど、あれって恥ずかしいからな。

『遠野志貴さま。遠野志貴さま。お連れ様がお待ちです。管理室まで……』
『志貴ーっ。何迷子になってるのよーっ! 早く来なさ……』

がちゃ。

「……」
「……」
「兄さん……」
「……あんのばっかおんなーっ!」
 

我ながら久々に使うフレーズを叫びながら俺は大急ぎで管理室とやらに向かうのであった。
 

続く


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