「……ああもうっ! 鬱陶しいわねっ! 行くわよっ。ええ、みんなで行きましょうっ」

鬱陶しいと言いながらも笑顔の秋葉。

もしかしたら秋葉のやつ、あんまり誰かに誘われることなんてないから実は嬉しくてしょうがなかったのかもしれない。

「決定ね。それじゃあわたしと握手っ!」
 

いつ覚えたんだか、テレビのCMのフレーズを真似してアルクェイドが秋葉の手をぎゅっと握るのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
第五部
姫君と動物園
その3









「えーと、これで俺とアルクェイド、翡翠に琥珀さん、秋葉で五人か」
「そうね。後三枚、誰にあげようかしら」
「時間ないからな……早めに連絡しないと」

とりあえず週末の休みに動物園に行く事になったので、俺たちは残り三枚を渡す相手相手を探すために電話の前に立っていた。

秋葉曰く。

「アルクェイドさんが当てたんですから他の人はアルクェイドさんが呼んで下さい。ただし常識のある人間をお願いしますよ」

とのことだ。

「わたしそんなに知りあいいないんだけどなー」

さてどうしようと腕組みをするアルクェイド。

「シエル先輩でいいんじゃないか?」
「一人はね。ただ、他の人をどうしようかなって」
「それは後で考えればいいだろ。まず先に先輩に連絡だ」
「そうね。それじゃ……」

さっそく電話をかけさせる。

「そういえばシエルに電話するのって初めてね。なんて言えばいいのかな」
「別に普通でいいだろ」
「そうね」

ぷるるるる、ぷるるるる。

「はい。もしもし……」
「あ。シエル? わたしよ。わかる?」
「……アルクェイド?」

先輩の声はとても不信がった声であった。

「ぴんぽーん。大正解。さっすがシエルね」
「バカにしてるんですか貴方は。……何の用です?」
「うん。聞きたいんだけど、シエルって動物好き?」
「動物……まあ嫌いではないですけれど。馬は却下です」

電話の向こう側から酷いですよマスターという声が聞こえた。

そういえば先輩の家にはななこさんもいるんだよな。

「ふーん。ねえシエル。わたしが動物園の券を当てたんだけど。どう? 行かない? 今週末なんだけど」
「週末……ですか。学校でも言いましたがちょっと用事がありまして」
「……そういえばそんな事言ってたな」

この学校というのは俺と先輩が通っている学校ではなくて、アルクェイドに一般教養を身につけさせようと毎週の休みに行っているもののことである。

この前はシエル先輩が先生で『カレーがいかに人を幸せにするか』という講釈を披露してくれた。

一般教養とは粉微塵も関係ないと思う。

ともかく、学校を行う予定だった日が動物園の予定日なので、シエル先輩は行けないというわけだ。

「そっかー。残念ね。志貴も一緒に行くんだけど」
「遠野君が?」
「うん。あーあ。ほんと残念。シエルも来ればきっと楽しかったと思うのに」
「……ちょっと待ってください。セブン。週末の予定はなんでしたっけ? え? ……ああ、それなら後に回せそうですね」
「えええええっ! これさぼったらやばいんじゃないですかっ?」

ななこさんも色々大変そうである。

「いいんですよ。あんな頭の固い連中より遠野君と動物園です」
「あら、来れるの? 学校は駄目なくせに」
「学校はわたしは担当ではなかったからいなくても成立するでしょう。しかし動物園となれば話は別です。誰もが主役になれる可能性があるんですからっ」

先輩の理屈は微妙によくわからない。

けどまあ要するにはそのなんか重要そうな用事より動物園のほうが優先順位が高いってことだろう。

そんなに楽しい場所だったかなあ動物園って。

「じゃあOKなのね。わかったわ。数に入れとく。セブンはどうするの? 連れてく?」
「セブンは動物園よりも頭の固い連中の相手をしたいようですが」
「え、い、いや、そんなことないですよっ? そりゃ動物園のほうが楽しいでしょうけど……本当にいいんですかマスター?」
「いいんですよ。まだ有給だって使ってないし。たまには休息も必要です」

なんだかシエル先輩も俗っぽくなっちゃったなあ。

以前の頭の固い先輩とどっちがいいかと言われたら悩んじゃうけど。

「まあセブンはどうせ人には見えないんで券は不要ですよ。連れて行くかどうかは以後のセブンの態度によりますね」
「シエルばっかり休んじゃセブンがかわいそうじゃないの?」
「いつでもセブンと一緒のわたしのほうがかわいそうですよっ」

まあ、アルクェイドとこうやって仲良く話せるようになったのは間違いなくいいことだと思う。

「あはは。じゃ、詳しい事が決まったらもう一度連絡するわ。またね」
「あ、はい。それでは」

がちゃ。

「行けるって」
「いや、思いっきり会話聞こえてたからわかるよ」
「後は誰にしようか? 志貴の知り合いとか?」
「うーん」

俺の知り合いというのはいいアイディアだ。

だがしかし、高田君とかのごく普通な友人をこの個性豊かな連中と会わせるのには抵抗がある。

人格とか変わってしまうんじゃないだろうか。

「……となると」

呼ぶ人間は人外の人々と接しても動じない人じゃないといけないのである。

「……」

選択肢なんてほとんどなかった。

そんなやつは俺の周りには一人しかいない。

「いっそ残り二枚は余らせておくってのも手だよな」
「えー? それじゃもったいないわよ」
「うーん……」

どうせ呼ぶなら一般常識を持った人間が来て欲しい。

正直俺一人でこのメンバーを統率できる自信がないからだ。

シエル先輩は数少ない常識人だけど、カレーが絡んだら何が起こるかわかったもんじゃないし。

「どうしたもんかなぁ」
「悩んでないで行動あるのみよ。ほら」

アルクェイドが受話器を渡してきた。

「……仕方ない」

あんまり呼びたくないけどあいつを呼ぶか。

「はーい、もしもし乾ですけど?」
「おう。有彦か? 実はちょっと話があるんだが」
「んだ遠野。やぶからぼうに」
「おまえにとっても損な話じゃない。美女と一緒に動物園だ。どうだ?」
「……詳しく話を聞かせろ」

ああ、こいつがバカで助かった。

「実はタダで動物園の入場券が手に入ったんだ。だが、これを渡すには条件がある」
「条件? 逆立ちでラーメン食うぐらいなら余裕だぞ」
「……いや、そんなアホな事は頼まないけど」

俺は有彦に動物園のチケットを渡す条件を説明した。

「あん? そんなんでいいのか?」
「ああ。よろしく頼む」
「まあ別に構わないけど……乗ってくれるかどうかだな」
「そのへんはおまえの話術にかかってくる」
「……わかった。なんとかする。連絡は明日でいいな?」
「おう」

電話を切る。

「ねえ志貴。誰に電話したの?」
「ん。ああ。有彦だよ。俺の友だちの。前に会った事あるだろ?」

あいつだったら美女が揃っているだけでなんとか誤魔化せる。

「ふーん。じゃああと一枚?」
「いや、それも解決済み。有彦がもう一人呼んできてくれるからな」
「そうなの?」
「ああ」

あの人だったら一応アルクェイドと面識もあるし。

何があっても動じやしないだろう。

「ま、いいわ。じゃあわたしたちも準備しましょ」
「ん。ああ」

はてさてこの先どうなることやら。

やるべきことは全てやった。
 

後は天を信じて待つのみである。
 

続く


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