「な、なんですか。私とアルクェイドさんが同レベルだなんて」
「何よー。わたしと妹が同レベルだなんて」
「ほら」
「……」
「……」

呆気に取られた顔をする二人。

「ふふ、ふふふふ」
「あはは、おっかしいの」
 

それから二人同時に笑い出すのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
第五部
姫君と動物園
その31




「で、話を戻すが可愛いのを見にいくってことでいいのかな」
「そうですね。パンフレットにもラブリーアニマルコーナーというのが書いてありましたし」
「ら、らぶりー……」

なんだその女の子以外は進入禁止みたいなネーミングセンスは。

「じゃあそこに行ってみましょうか?」
「いや、俺はやっぱりライオンとか勇ましいのを……」

そんな場所に俺がいたら浮く。間違いなく浮いてしまう。

「では投票にしましょう。勇ましいものが見たい人挙手」
「は、はーい」

手を挙げるのは俺一人。

「可愛いのが見たい人」
「はーい」
「はい……決定ですね」
「か、数の暴力……」

こんなのどうあがいたって勝てないじゃないか。

「文句言わないの」
「わかってるよ。潔く諦める」

アルクェイドと秋葉の結束した姿なんて始めて見たかもしれない。

「ラブリーアニマルとのふれあいコーナーもあったのよね、確か」
「本当ですか? ふわふわのもこもこに触れるんですか?」
「触り放題でしょ、きっと」
「素晴らしいですね……」
「う、うーむ」

嬉しい事のはずなのにどうしても鳥肌が立ってしまう俺であった。
 
 
 
 

ぴょん。

「わ……」

ぴょんぴょんぴょん。

「わ……わ、わっ」

ぽてん、ごろごろごろ。

「いやぁ〜! か、可愛いいっ!」

身悶えする秋葉。

「……俺は怖い」

あなたは本当に秋葉さんなんですか?

俺の妹の鬼のような性格の秋葉はどこへ?

「うわぁ〜、うわぁ〜! 跳ねてる、跳ねてるよ志貴っ」
「見りゃわかる」

ウサギの何気ない行動に狂喜乱舞する二人。

確かにウサギの動きは可愛いけれど。

そんなに叫ぶようなものなんだろうか。

「あんなに体を伸ばして……きゃ〜っ! きゃーっ!」
「……ぐぐぐ、苦しい、苦しいっつーに!」

悶えるのは構わないが人の首を締めるな人の首をっ!

「わ。あそこ。穴を掘ってるのもいるみたい」
「ど、どこですっ?」
「ぐはっ」

ようやっと開放された。

「ペンギンの時もそうだったけど……可愛いものは人の人格を変えるな……」

特に秋葉の場合普段とのギャップが恐ろしくてたまらない。

「……っていうかふれあいコーナーなんだよな、ここ」

秋葉やアルクェイドは遠くから見てキャーキャー騒いでいるだけだけど。

触れるというのが最大の目玉のはずだ。

いりぐち、と書かれたところに近づく。

「すいません、入ってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」

飼育員のお姉さんに通され中へ。

ぴょん。

「うお」

いきなり足元にウサギが近づいてきた。

やはり動物園のウサギだけあって人に慣れているらしい。

「……」

屈んで眺めてみる。

ゆっくりと俺に近づいてくるウサギ。

「ちっちっち」

猫をあやすように目の前で指を動かしてみた。

「……」

ウサギは興味ありげな様子でその指を眺めていた。

ぺろ。

「うおっ」

一瞬何が起こったのかわからなかった。

「……?」

もう一度手を差し出してみる。

ぺろぺろ、ぺろぺろぺろ。

「うあ……」

一心不乱に俺の指をなめているウサギ。

「か。可愛い……」

不覚にもウサギにときめいてしまった。

「あーっ! 志貴が中にいるっ? どうしてっ?」
「む」

そして今更ながらに俺に気付くアルクェイド。

「そこに入り口があるだろう」

俺は場所を教えてやった。

「は、入って触ってもいいんですかっ?」
「もちろんだ。そのためのコーナーなんだからさ」

指をなめていたウサギを持ち上げてみる。

どっどっどっどっ。

「うお、すげえ」

腕を通して心臓の鼓動が響いてきた。

しかもかなり早いスピードだ。

小さい生き物はそれだけ心臓の動きが早いのである。

知識では知っていたけれど実際に体感するとやはり驚きだった。

「何がすごいのっ? ねえっ?」
「と、とにかく中へ行きましょうっ」
「そ、そうねっ」

二人はわたわたと慌てて入り口へ向かい。

「ウサギウサギウサギっ」

どどどどどどっ!

ものすごい音を立てて俺のところへと駆けてきた。

「こ、こら、ばか」

たたたたたったっ。

「あっ……」

俺の周囲にいたウサギはみんな逃げてしまう。

「駄目じゃないか。ウサギは臆病なんだからな」
「え、あ、す、すいません」
「ご、ごめん」
「……まあ一羽は残ってるけどさ」

それは俺が抱えていたウサギだ。

「一羽って兄さん、鳥じゃないんですから」
「ウサギは匹じゃなくて羽で数えるんだよ」
「そ、そうなんですか?」
「ああ。でも知らない人も結構いるんだよ。恥ずかしい事じゃない」

有彦という雑学マスターがいなければ俺も知らなかった情報である。

「それよりも……ほら」

俺はウサギを下に降ろしてやった。

「触ってみろよ」
「さささささ、触って……触って……」

目をぐるぐるさせている秋葉。

「触っていいの? わーい」

アルクェイドはなんのためらいもなくウサギに手を出した。

なでなで。

「うわー。ふかふかだねー」
「ふかふかだろ」
「それにあったかい」
「ウサギは体温が高いんだよ」

これもまた無駄知識である。

「へぇ、そうなんだ」
「ああ、ある、アルクェイドさんっ。わ、私にも触らせてくださいっ」
「……いや、だったらもっと近づいてこいって」

秋葉は妙に離れて俺たちの様子を伺っていた。

「そうよ妹。可愛いよ?」
「は、はう」

アルクェイドがウサギを抱えて近づけると秋葉は遠のいてしまった。

「……何あれ? 変な妹」
「興奮しすぎておかしくなってるのかもな」
「わ、私は正常です。ウサギが可愛すぎるのがいけないんですっ。ふわふわでもこもこで……あああああ……」
「ありゃ重症だな……」

今度から秋葉を大人しくさせるには可愛いもの攻めでいくことにしよう。

「まあいっか。妹が触れないならわたしがそのぶんかわいがっちちゃお。よしよーし」

再びウサギの頭を撫でまわすアルクェイド。

「よしよし」

俺もまた指であやしてやった。

ぺろぺろぺろ。

「あ、いいなそれ。わたしもなめてなめて」
「……俺の方向を見てそんなセリフを言わないでくれ」

違う方向に考えてしまうじゃないか。

「……」
「あ、あれ?」

さっきまであんなに俺の指をなめていたのにウサギはアルクェイドの指には興味がないようだった。

それどころか。

「また志貴の……なめてる」
「だからその言い方はやめろっつうに」
 

ウサギは何故かまた俺の指をなめはじめてしまうのであった。
 

続く


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