「ほら、秋葉もいつまでも柵に捕まってないで来いよ」

秋葉に声をかける。

「は……ははははは、はい……」

柵ごしにウサギを避けるようにして歩いてくる秋葉。

「……駄目だこりゃ」
 

どうやらお嬢様は一度もウサギに触れていないご様子であった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
第五部
姫君と動物園
その33



「ここだってよ」
「……ここが?」

案内されたのは、なんだか関係者以外立ち入り禁止っぽい建物。

「オスは元々一般人に見せるもんじゃないらしいんでな」
「ありゃ、無理言っちゃったかな」
「いや、その辺は上手く誤魔化しといたから大丈夫だ」
「ふーん……」

どうやって誤魔化したのかは気になるけど触れない事にしておこう。

「いよいよオスウサギとのご対面ねっ」
「うーん」

有彦の理屈を信じるならばオスウサギは女性に懐きやすいという事になるけど。

そんなにうまくいくもんかなぁ。

「こちらです」
「あ、はい」

案内され建物の奥の方へ。

「……引き返すなら今の内だよなぁ」

建物の内部には監視カメラ、警報装置と思われる物体が。

なんだか事態が大事になってきている気がする。

「ウチのセキュリティよりは甘いようですね」
「遠野家ってそんなにガード固かったのか?」
「当然です」
「……」

秋葉ご自慢のセキュリティも真祖やら代行者にかかれば形無しと。

まあ琥珀さんがわざと隙を作っている可能性もあるが。

なにせあの人は事件が大好きだからなあ。

「なにぼーっとしてんだよ遠野」
「あ、うん」

いかん、つい変な事を考えてしまった。

動物園なんだから楽しくなきゃなっ。

「どうぞ」
「わーっ」

飼育員さんが案内してくれた先には二、三羽のウサギがいた。

近くにある別の檻には小動物が入れられている。

「触ってもいい?」
「ええ、構わないそうです」
「そうこなくっちゃっ」

ウサギを抱えて檻から出すアルクェイド。

そして自分の足元に置いた。

「ほらほら、なめてなめて」

くいくいと指を振る。

「お」
「あっ」

ぺろぺろぺろぺろ。

「わ、志貴、なめてるっ。わたしのぺろぺろってなめてるよっ?」
「……途中をはしょるんじゃない」

俺が怪しい事をしているみたいじゃないか。

「エロいなぁ……」

有彦はニヤニヤ笑っていた。

ごす。

「イ、イデエッ! テメエ……」
「だらしない顔してるからだ」

まったくどいつもこいつも。

「チッ。けどオレの言った説もあながち間違いじゃなかっただろ?」
「……まぁな」

メスのウサギはアルクェイドに興味を示さなかったのに、オスのウサギはものすごい反応を示していた。

「どれ」

試しに俺も手を差し出してみる。

「……」

無視。完全スルー。アウトオブ眼中。

「あはは、今度は志貴が嫌われちゃったみたいね」
「ぬう」

なんとなく面白くない。

なるほどアルクェイドが機嫌を悪くしたわけだな。

「妹もどう? 触ってみない?」

さて、今やすっかりご機嫌のアルクェイド。

秋葉にそんな事を言う余裕すら生まれたようだ。

「わ、私はその……」

相変わらず部屋の隅っこでウサギを眺めているだけの秋葉。

「アルクェイド、四の五の言ってないで秋葉に渡してやってくれ」

これはもう荒療治でいかなきゃ駄目だろう。

「ん。わかったわ」

琥珀さんみたいな顔で笑うアルクェイド。

「妹いぢめか? 趣味悪いぞおまえ」
「止めても構わんぞ」
「ウェッヘッヘッヘ。そいつぁ無理な提案ですぜお兄様」

そう、今の有彦みたいな顔だ。

「誰がお兄様だ」

呆れつつも秋葉の逃げ道を塞ぐ俺。

「な、何をする気ですかっ?」
「いや、ただおまえにウサギを触らせてやろうという善意の行動をな」
「けけけ、結構ですっ! わ、私は眺めているだけで十分幸せなんですからっ!」

セリフだけ聞いてるとなんだか嫌な物を無理やりけしかけているような感じだが。

「えい」
「ああ、そんな……ふわふわのもこもこが……」

見た事もないような笑顔を浮かべている秋葉。

そう、秋葉は喜んでいるのである。

「いぢめられて喜ぶ女王さまキャラってのはいいと思わないか遠野」
「本気で殴るぞ」
「軽いジョークだっつーに」

冗談に聞こえないから困ってるんだってば。

「うりうり」

ウサギの手を取って秋葉の足に絡ませるアルクェイド。

「ちょ、止め……ああ、そんなっ」

悶える秋葉。

「とりあえず有彦、おまえは帰れ」
「なんだとっ? オレが何をしたっていうんだっ?」
「その視線が犯罪レベルなんだよっ」
「バカな、オレは純粋に動物と戯れる秋葉ちゃんを見て和んでいるだけだっ!」

嘘だ、絶対コイツはあらぬ想像をしているに決まっているっ!

「離して……と」

アルクェイドはウサギを手放し、自由にさせてやった。

「……」

そのままウサギは秋葉の足にじゃれている。

腕とお腹をこすりつけていて、かなりくすぐったさそうな感じだ。

「はうっ……くううっ……ひゃああ……」

秋葉はびくんびくんと小刻みに体を揺らしている。

「……ヤバイ」

すると急に有彦がマジな顔になった。

「秋葉がか?」
「いや、それもあるけど」

そう言って小走りで秋葉に近づいていく。

「うりゃっ」

そしてウサギを秋葉の足から引っぺがした。

「……はっ! な、何をするんですかっ!」

途端に怒り出す秋葉。

さっきまであんなに触るのを怯えていたくせに、ずいぶんな変わりようである。

「いや、まあ色々と事情がありまして」

そう言って有彦は俺の腕を掴んだ。

「こっちゃ来い」
「……なんだよ」

そのままアルクェイドと秋葉に見えない曲がり角の先へ。
 
 
 

「どうしたんだ有彦?」

有彦の行動はさっぱり意味がわからなかった。

「いや、ウサギがやばそうだったからな」
「ウサギが? どういうことだよ」
「……女の子の前でさすがに話すわけにはいかないからこうやって引っ張ってきたわけなんだが」

そう言って地面にウサギを降ろす有彦。

「フーッ……フーッ……」
「な、なんだ、やけに息が荒いな」

ウサギだというのになんだかとても凶暴に見えた。

「発情してんだよ、それは」
「え」

発情ってのはあれだ。

要するに異性に興奮している状態であって。

「特にウサギっつーのは無茶苦茶発情しやすい動物でな」
「そ、そうなのか」

それは驚きの情報である。

「ちょっと絡ませると発情しちまうんだよ」
「……人の足でもか?」
「ああ。んで腹をこすりつけてただろ」
「……」

そこで考える。

発情して体をこすりつける仕草を行う。

つまり前後に体を動かす仕草だ。

「まさか……」
「ああ、おまえの思っている通りだ」
「……」

あまりの事態に眩暈がした。

「まあ発射前に回収できたのは幸いだが」
「や、やめてくれっ! 俺のウサギへの可憐なイメージがっ!」

がらがらと音を立てて崩れ落ちていく。

もう絵本に出ているウサギですら穢れて見えてしまいそうだ。

「とにかく、これ以上は危険だ。二人を説得してさっさとここを出よう」
「……すまん、有彦。恩にきる」

これに関しては心底からの礼であった。

「はっはっは。借りは増えるばかりだな」
「……」

そしてもうひとつ、思う事が。

「テメエ、それを知っていながら何故ここに連れて来た」
「……うぐっ」
「まさか……秋葉の悶える姿を見たかったからとかじゃないだろうな」
「な、何ヲ言ッテルンダイ友ヨ」
「図星かよおいっ!」

半分冗談で言ったつもりだったのにっ?

「遠野。偉い人も言っていただろう。そこに山がある限り登らねばならぬと」
「……」

俺はぎろりと有彦を睨み付けた。

「い、いや、でもちゃんとヤバイところで止めただろっ? そこは評価してくれよっ」
「それでもマイナスの方向に言ってると思うぞ俺は」
「……このことは内緒にして全員にジュース奢るからさ」
「アイスもな」
「御意」

さすがは悪友、交渉が実にスムーズである。

「んじゃ上手く説得しなきゃな」

果たしてあれだけウサギに執着してた二人が納得してくるかどうか。

「そこでオレの出番……」
「は無いから安心してくれ」
「……ち」
「ああもう……」
 

俺の頭痛の種は増えるばかりであった。
 

続く



あとがき
なんかこの話で通算200話らしいです。
記念のはずなのにこんな話とわ(w;
せっかくなんでなんか番外とか書いてみたいんですけどねー。
同人誌のほうのネタがなくなるから難しいところ。
こんなん読んでみたいなんてシチュがありましたら↓でどうぞです。

これからも屋根君を宜しくお願いしますです。


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