「ところでこの先どこに行くんだ?」
「ん? ワニだ。でかい口の」
「その心は?」
「そりゃその外見で驚いているところに『大丈夫さ。この俺がついてるぜっ!』とだな」
「……ほほう」
「はっ! テメエはめやがったなっ!」
「うるせえこの野郎――っ!」
 

ああ、ほんとまったくいい悪友に出会えたもんだ。
 
 







「屋根裏部屋の姫君」
第五部
姫君と動物園
その35





「ワニってなんて鳴くんでしょうね」
「ワ、ワニーとか?」

結局有彦の提案通りワニを見に来た俺たち。

有彦とこんなところでケンカするのもアホらしいので提案を受け入れることにしたのだ。

もちろんあっさり受け入れたのには理由がある。

「……それはいくらなんでもないでしょう」
「というかそもそもワニは鳴くのか?」

爬虫類が鳴くなんて聞いた事ないけど。

「赤ちゃんワニは鳴くらしいわよ。その泣き声を聞いて土の中から引っ張り出すんだって」
「へえ」
「そうなんですか……」

外見は怖いワニだけど、そういう母性みたいなところもあるんだなぁ。

「……おかしい、こんなはずじゃ」
「何がだよ」

俺たちは純粋にワニを見て楽しんでるのに有彦は浮かない様子であった。

「いや、もっとさあ。キャー怖いとかなんつーか……ないわけ?」

そう、こいつの期待していた展開はそれだ。

だが世の中そんなに甘くはない。

「あのなぁ有彦」
「んだよ」
「こいつらにそれを期待するほうが間違ってると思わないか?」

アルクェイドと秋葉。

可愛いものにはあまり免疫のない二人ではあるが、ゲテモノ系統には耐性が出来ているのだ。

ちなみにワニとどっちが怖いと言われたら俺は即答で二人と答えるだろう。

「……言われてみれば」

有彦も俺の言葉に納得した様子であった。

「何よ失礼ね」
「そうです。私たちをなんだと思ってるんですか」

むくれているアルクェイドと秋葉。

「事実じゃないか」
「きゃー、こわーい」
「……鳥肌が立つから止めてくれ」

げす。

「ぐおお……」

脇腹に真祖ボディブローをかまされた。

「アホだなぁ」
「お、おまえには言われたくないぞ」

俺がそう言い返すと有彦はにやりと笑ってみせた。

「なんだ、いつもの調子に戻ったじゃねえか」
「……バカなやりとりしてたせいだよ」

そう言って笑い返してやる。

「なんか友情パワーって感じ」

アルクェイドがなんだか懐かしい感じの言葉を引っ張り出してきた。

「暑苦しいだけですよ」
「あのなぁ」

もうちょっと言い方ってものがあるだろうに。

「男臭いのはコイツのせいですんで」
「やかましい」

まあこのメンバーじゃ感動云々を期待するのは無理というものだ。

「まあワニはもういいだろう。次はどこ行く?」
「んー。牛!」
「牛なんてつまらない。見るならもっと猛々しい……獅子などがいいです」
「うーん、オレは蟹かな」
「最後動物違う」

しかも何故よりにもよって蟹。

「蟹はいいぞー。のりぴー語とかしゃべるからな」
「……俺しかわからんネタを投下してどうする」

前にもそんなこと言ってたなこいつは。

「みんなバラバラね……うーん。志貴はどこかないの?」
「俺か? 俺はだな」

俺は別にどこでもいいんだけど。

「牛よねっ?」
「ライオンでしょうっ?」
「なんなら魚でもいいぞっ? 技系統似てるからなっ!」
「もうおまえは水族館へ行ってくれ」

有彦はこの際無視するとして。

「牛かライオンね……っておい」

この選択肢って。

俺がさっき二人に与えた選択肢のしっぺ返しみたいじゃないか。

どちらか選べ、ふたつにひとつ。

「わたしと行くわよねっ?」
「私ですよね、兄さんっ?」

もはや牛ライオンではなく、完全にアルクェイドか秋葉を選べという選択肢にされてしまっていた。

「う……」

恋人か、妹か。

これも究極の選択と言えるのではないだろうか。

「……いや」

そんな狭い考え方をしては駄目だ。

ここは動物園なのだ。

「お、俺はキリンとか見たいなあ」
「キ、キリン?」
「ああ、キリンだ」

わざわざ喧嘩になるような選択肢を選ばなくたって他にいくらでも動物はいる。

「……うまく逃げやがったな」
「人聞きの悪い事を言うな。俺は本当にキリンが見たいんだ。あの長い首とかたまらないじゃないかっ」
「それじゃただの変な人ですよ、兄さん」

呆れた顔をしている秋葉。

「いや、まあその……とにかくキリンはいいぞ? キリンは」
「むー。確かに面白そうではあるけど……」
「ライオンのほうが猛々しそうでいいじゃないですか」
「牛もライオンもいずれ回るからさ。たまには俺の提案に乗るってのも面白いんじゃないか?」
「……」

俺が何かをしようと頼む事はあまり多くない。

だから秋葉もアルクェイドも目を丸くしていた。

「そんなにキリン好きなの? わかったわ」
「い、いや、まあ」

単に厄介ごとが苦手なだけなんだけど。

「わかりました。たまには兄さんに従いましょう」
「……あ、ありがとう」

上手くいったはいいけど、確実に俺の感性は誤解されてしまったようであった。
 
 
 
 

「みりんって10回言ってみ?」

キリンの檻まで行く途中、せっかくなので下らないクイズを出してみることにした。

いわゆる「10回クイズ」というやつだ。

「みりんみりんみりんみりんみりん」
「みりんみりんみりんみりんみりん」

二人揃ってみりん連呼。

傍から見たら結構マヌケかもしれない。

「鼻の長い動物は?」
「キリンっ!」
「キリンでしょう?」

即答。

「残念。ゾウだよ」

俺は苦笑しながら正解を教えてやった。

「え? あ、ああーっ!」
「ひ、卑怯ですよ兄さんっ!」

そこで引っ掛け問題だったと気付き叫び声をあげる。

「いや、マジでひっかかるとは思わなかった」
「純粋な二人を騙しおってからに。けしからんぞっ!」
「そうですっ! けしくりかりませんっ!」
「……なんか日本語おかしくないか?」
「け、けしから、けしかり……あれ?」

はて、けしからんの丁寧語は何て言うんだろうな。

「次は失敗しないわよっ! 早くっ」
「え? 次?」

キリン繋がりで出した問題だから次なんて考えてなかったんだけどなぁ。

「ん? 遠野はネタが尽きたのか? ならオレが十回クイズを……」
「おいこら、純粋な二人を騙しおってからにとか言ってなかったか?」
「ふ、コミュニケーションの一環だよ」

こいつほど意見が180度変わる人間もいるまい。

「まったく……」

などとため息をついていると。

ウウウーウウウウウー。

「……ん?」

何やら物騒なサイレンの音が。

「何かあったのかしら?」
「さあ……」

そしてクイズやら何やらと、そんなものとは比べ物にならないネタ……いや、事件が舞い込んできた。
 

『一般客の皆様へ、緊急連絡です! ライオンが檻から逃げ出しました! ただちに監視員の指示へと従って避難を……』
 

続く


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