「どうやら上手くまとまったみたいですねー」

そうして琥珀さんがぽんと手を叩き、嬉しそうな顔をしている。

「はは……」

今までの展開を一番、というか唯一楽しんでたのはこの人だけだろう。

「では志貴さんは乾さんのお家へお出かけするとして……いかがです? せっかくですしご一緒に仲良くお茶というのは」
 

『結構ですっ』
 

二人の声が綺麗にハモるのであった。
 
 


「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その10









「では、遠野君。また明日、学校で」
「はい。どうもすいませんでした」
「いえいえ」

門の前で先輩を送り出す。

「じゃあね、志貴」
「あ、うん」

そしてアルクェイドもどこかへと行ってしまった。

なんであいつまで外に出ていったんだろう。

まあ、とりあえずでも外に出てくれないと秋葉に怪しまれるからありがたいのだが。

ちなみに秋葉は部屋に戻ってしまった。

「……琥珀さんに聞いてみるか」

どうやら琥珀さんがアルクェイドに渡した紙に鍵がありそうである。
 
 
 
 
 
 

「あ、はい。あの紙ですか」
「うん。アルクェイドのやつ、どっか行っちゃったから何かあるのかなと思って」

琥珀さんはさっきまで俺たちのいた客間の掃除をしていた。

と言っても掃除をしているのは翡翠で、琥珀さんはそれを見ているだけである。

姉さんが室内の装飾品を触られると危険だからと、やらせてくれないのだそうだ。

琥珀さんが触るだけでツボが壊れるとか翡翠は言ってたけど、一度見てみたいものである。

「一応確認しますけど。有彦さんとの約束と言うのは嘘ですよね?」
「あ、うん」

さすが琥珀さんだ。

あっさり見切られていた。

「ですから、まずそのことを書きました。『有彦さんとの約束は嘘です。志貴さんを信じてお待ち下さい』と」
「そうなんだ。どうもありがとう」
「あはっ。志貴さんを信じて〜のあたりは翡翠ちゃんが考えたんですけどね」
「え? そうなの?」
「はい。ドア越しにわたしたち会話をしてましたから」

秋葉たちに夢中で翡翠のほうには目がいかなかったからなあ。

翡翠と琥珀さんは視線だけで意思疎通できるような姉妹なので、俺たちに気づかれないで会話をするくらい簡単なんだろう。

「それで、最終的にアルクェイドさんを選ばれるということもわかっていましたので。話が終わり次第公園で待ち合わせ、ということを書いておきました」
「そうなんだ。色々ありがとう」

結局なんだかんだで翡翠や琥珀さんの力を借りてしまった。

「いえいえ、こちらも好きでやっているわけですから」

琥珀さんはいつものように笑顔で答えてくれる。

「本当に感謝してる」

俺はもう一度お礼を言った。

「あはっ。でも志貴さんってば、嘘をつくのが下手なんですから。聞いていて冷や冷やしましたよー」

すると琥珀さんはそんなことを言った。

「そ、そうかな」
「はい。志貴さんはやっぱり正直者ですから」
「うーん……」

本職にかかっては俺はヒヨッコ同然らしい。

「まあ、そういう志貴さんを知っているからこそシエルさんも秋葉さまも志貴さまの言葉を信じてくれたわけですし、結果オーライです」
「だ、だよね」

結果よければ全て良しだ。

「一子さんが電話に出てきた時なんてもう絶体絶命だと思いました」
「え? 琥珀さん、電話の声聞こえてたの?」
「いえ。でも志貴さんの様子だけでわかりましたよ。ああ、有彦さんがいなかったんだろうなって」
「志貴さまはかなり動揺されていましたから」

いつの間にやら翡翠まで会話に加わってきた。

「そ、そうなんだ」

やっぱりわかりやすい態度取っちゃうんだなあ、俺って。

「でもなんとかなっちゃうあたり、志貴さんパワーの恐ろしさを感じましたね」
「そ、そんなことないって」
「志貴さまの本領が発揮されたといったところでしょうか」
「うー……」

なんだか閉口してしまう。

「……それで志貴さま。そろそろ公園に向かわれたほうがいいと思います」

すると、翡翠がそんなことを言った。

「え? なんで?」
「はい。アルクェイドさまが『家を出てから30分以内に志貴が現れなかったら無理やりにでもとっ捕まえるから』と仰っていましたので」
「……そりゃまずいなあ」

アルクェイドだったら本気でやりかねない。

そんなことになったらまた騒動が起きてしまう。

「わかった。急いでいくことにするよ」

そうして部屋を出ようとすると「志貴さま。門まで見送らせていただきます」と翡翠が言った。

「いや、いいって。片づけがあるんだろ?」
「ですが、それがわたしの仕事ですので」
「……む」

こうなると翡翠はテコでも譲ってくれないだろう。

「わかった。頼むよ」

そうして俺は翡翠と共に再び門へと向かった。
 
 
 
 
 

「それじゃあ、行ってくる」
「はい。お昼はどういたしますか?」
「昼飯かぁ」

どうしたもんだろう。

乾家に昼頃に行った場合、大抵俺が昼飯を作ることになる。

それは有彦でもイチゴさんでも二人揃っていても同じである。

そのおかげで結構料理の腕には自信があったりするのだ。

「わからないな。もしかしたら戻ってくるかもしれないし、どこかで食べてくるかもしれない」

だがこればっかりはなんとも言えない。

全てはアルクェイド次第なのだ。

「かしこまりました。用意はしておきますので」
「悪いな、何から何まで」
「いえ。志貴さまのためですから」

そんなことを言う翡翠の顔は少し赤かった。

「ありがとう。じゃ」

俺は翡翠に礼を言って駆け出すのであった。
 
 
 
 
 

「はぁ……はぁ」

全力で駆けていくと、なんとか早い時間で公園に辿り着くことが出来た。

これなら余裕で30分以内のはずだ。

「ええと……」

さて、アルクェイドはどこにいるんだろう。

周囲を見まわしてみる。

「お」

すぐに見つかった。

アルクェイドはブランコに座って、鎖をきぃきぃさせている。

「……あ」

アルクェイドも俺に気付いたのか、俺に向かってにこりと微笑んだ。

「えへへ」

そうしてそのままの笑顔で俺に近づいてくる。

「……待ったか?」
「ううん、今来たところ」

今来たところ、というのは本気なのか冗談なのか。

わからないけどひとつ確かなのは、なんだかわからないけどアルクェイドが妙に嬉しそうだということである。

「なんでそんな嬉しそうなんだ?」

なのでついそんなことを尋ねてしまった。

「ん? だってこれってデートの待ち合わせじゃない? だから」
「……デートって」

日常生活でまず聞かないようなセリフに俺は面食らってしまった。

いや、確かに彼氏と彼女がどこかに一緒に遊びに行くというのはデートなんだろうけど。

「これから行くのは有彦の家なんだぞ?」
「うん。知ってるよ」

あっさりと答えるアルクェイド。

「さっき言ったじゃないの。わたしは志貴と一緒だったらなんでもいいって」
「い、いや、そうなんだけどさ」

いいんだろうか、それで。

「問題ないでしょ。志貴は何か問題ある?」
「いや……」

まあ、確かにこいつの笑顔が見れるんだったらどこでもいいだろう。

俺もそんな気分になってしまった。

「じゃ、行くか」
「うんっ」
 

そうして俺は、アルクェイドの希望もあって恋人らしく手なんか繋いだりして乾家に向かうのであった。
 
 

続く



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