「これから行くのは有彦の家なんだぞ?」
「うん。知ってるよ」

あっさりと答えるアルクェイド。

「さっき言ったじゃないの。わたしは志貴と一緒だったらなんでもいいって」
「い、いや、そうなんだけどさ」

いいんだろうか、それで。

「問題ないでしょ。志貴は何か問題ある?」
「いや……」

まあ、確かにこいつの笑顔が見れるんだったらどこでもいいだろう。

俺もそんな気分になってしまった。

「じゃ、行くか」
「うんっ」
 

そうして俺は、アルクェイドの希望もあって恋人らしく手なんか繋いだりして乾家に向かうのであった。
 
 


「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その11









「ところで志貴。有彦って誰?」

しばらく歩いていると、アルクェイドがそんなことを尋ねてきた。

「昨日会ったやつだよ。ほら、荷物いっぱい持たされてただろ?」
「……ああ、彼ね」

こくこく頷くアルクェイド。
 

「まあ有彦はどっか行ってるらしいから、家にいるのはイチゴさんだけだけどさ」
「イチゴ? それも昨日いた人?」
「そうそう。おまえの下着選んでもらっただろ」
「うん。今日はちゃんと着て見せてあげるからね」
「あ、あのなあ……」

昼前だってのになんて会話をしてるんだか。

「他にも昨日教えてもらったのよ。男の喜ぶエトセトラを色々」
「……」

イチゴさん、一体何を考えてるんだろう。

「興味ある?」
「い、いや、今はいいって」

そんな話をされたらそれこそどうにかなってしまいそうである。

「……と。あそこが乾家だ」

外観が見えてきたので乾家を指差す。

「なんだ。ちっちゃい家なのね」

ローンを抱えているサラリーマンが聞いたら怒りそうなセリフを言うアルクェイド。

かつてお城なんかに住んでたせいで、アルクェイドの屋敷と金銭に関する感覚はかなりおかしい。

「あれくらいが日本じゃ普通なんだって」
「ふーん」

と説明してもわかってくれなさそうだ。

コイツは金銭面で心配したことなんか多分ないんだろう。

いや、家をお金で買う、ということすらわからないかもしれない。

「……はぁ」

なんだか俺の現在の懐加減も加わって落ち込んでしまう。

「どうしたの? 志貴」
「いや、なんでもないよ」

何はともあれ乾家に辿り着いたのだ。
 

ぴんぽーん。
 

インターホンを押し、しばらく待つ。

「はい。乾ですが」

なんだか眠そうなイチゴさんの声が聞こえた。

さっきの電話のときもそうだったから、もしかしたら眠っていたのかもしれない。

「イチゴさん。俺です」
「ん。有間か。開いてるから入りな」
「わかりました」

普段だったらこんなことはせずにいきなりドアを開けるのだが、アルクェイドの手前、正しい訪問の仕方を実行することにした。

「アルクェイド。人の家に入る時はこうしなくちゃいけないんだぞ?」
「えー? そんなの面倒じゃない。直接ドア開けちゃ駄目なの?」

アルクェイドはいかにも不服そうな顔をした。

「普通は駄目だ。勝手に人の家に入ったら泥棒だろ」
「いいじゃない。志貴の部屋の窓から入るのが一番手っ取り早いんだもん」
「だからー」

ああもう、どう説明すればいいんだ。

「それに、普通に入ろうとしたら妹に邪魔されるでしょ? 面倒じゃない」
「むぅ……」

ああ言えばこう言う。
 

「なにしてるん、有間」
「あ、イチゴさ……」

そんな風にアルクェイドと揉めていると、待ちかねたのかイチゴさんがドアを開けていた。

――そうやってドアを開けているのはいいんだけど。

「イ、イチゴさ、ふ、服っ!」
「あん?」

なんていうかその、イチゴさんは下着だけの姿で、服を着ていなかったのだ。

しかも黒のレースときたもんだ。

「ああ、道理で寒いわけだな」

なんて、イチゴさんは自分が服を着ていないことに今更気付いたようなセリフを言った。

「と、とりあえず中に入りましょうっ」
「ん」

イチゴさんは奥へと消える。

慌てて後を追って家の中へ。
 

ばたんっ。
 

ドアを閉める。

とりあえずこれで一安心だ。

「……って俺も入っちゃまずいだろっ!」

思わず自分自身に突っ込みをいれる。

イチゴさんが着替えてくるまで外に出てなきゃ。

「い、今出ますんで」
「あー。気にしなくてもいいさ。すぐ終わるしさ」

というか、俺のほうがどうにかなってしまう。

「じゃっ!」

ドアを開く。

「むー。志貴、勝手にドア閉めないでよ」

するとそこにいたアルクェイドに通せんぼされてしまう。

そういえばあんまりにも慌ててたのでアルクェイドを無視してドアを閉じてしまった。

「ばか、外に出てろ」
「なんでよ。志貴だけ家に入るつもり?」
「だからーっ。イチゴさんが着替えるからっ」
「もう終わったよ」

……ぬう。

「ほら、いいって」
「はあ、もう……驚かせないで下さいよ」

苦笑しながら振り返る。

「別に驚かせる気は無かったんだけどね」
「……って! ズボン履いただけじゃないですかっ!」

イチゴさんはズボンを履いてくれたものの、上は相変わらずブラジャーだけの姿であった。

「別に構わんだろ。あたしは困らんし」
「俺が困るんですってばっ!」
「はっはっは。冗談だよ」

イチゴさんはそんなことを言いながらなんとかシャツを羽織ってくれた。

「まったくもう……」

来た早々だが帰りたくなってしまった。

「いやさ。そっちの彼女の理屈によると可愛い下着は見られてもいいらしいんだけどね。有間が教えたんじゃないのかい?」

ニヤニヤ笑いながら俺を見るイチゴさん。

「ち、違いますよっ。それはこいつが勝手に言ってるんです」
「ほー」

駄目だ、あの顔は丸っきり信用してくれてない。

「え? 何? まさか貴方まで志貴を狙ってるとか言わないわよね?」
「だあ、おまえは黙ってろっ! 話がややこしくなる」

イチゴさんは確かに大人の女性だし、憧れたこともあったけど、今は別にそういう感情は無い。

ただ、時々こうやって俺のことをからかうので困ってしまう。

「おいおい。彼女に向かってその言いぐさは無いだろう?」
「う」
「そうよそうよ。志貴ってば何かと言えばわたしのことばかばかって言うんだから」
「それはおまえが……」
「人ん家で痴話ゲンカは止めてくれよ」
「……」
 

なんだか敵が増えてしまっただけのような気がしてしまう俺なのであった。
 
 
 

続く



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