「誰が愚かな吸血鬼よ。わたしは真祖。それくらいわからないの? バカシエル」
「真祖だって吸血鬼の一種でしょう? あなたこそなにをほざいてるんですか」
「……なるほど。この映画に難癖をつけてわたしの評価を下げようって言うのね?」
「わたしは真実を述べるだけですよ。ねえ」

俺に同意を求めてくる先輩。

「あ、ええと」
「頷かないでよ志貴」

途端にアルクェイドが過剰な反応をする。

「どう感じるかは遠野君の自由でしょう? そんなに束縛したがる女は嫌われますよ」
「……このでかしり女」
「聞こえませんね」

ああ、なんてことだ。
 

俺を挟んで二人はバチバチと火花を散らしているのであった。
 
 


「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その20












それからの俺は、そりゃあもう映画どころじゃなかった。

「あんなチャチな武器しか持っていないんじゃ教会の機関も大したこと無いわよね。それとも凶暴なのはシエルだけなのかしら?」
「これは教会の武器は内部の機密です。それを知らない人が作った映画ですから無理は無いでしょう。それに凶暴なのはあなたでしょう? ほら」

スクリーンでは吸血鬼のボスが大暴れしている。

「だからあれは真祖じゃないって何度も言ってるでしょう。シエルってば聞いたことをすぐ忘れちゃうのね」
「この映画の設定ではあれが真祖です。つまりあれが世間一般の真祖のイメージ。あなたのイメージだということです」
「普通の人は真祖なんて言葉知らないわよ」

うふふふふと笑いあう二人。

こんなやりとりを俺を挟んでずっと続けているんだから、そりゃもうたまったものじゃない。

「だいたい、この映画主役がよくないわよね。シエルに似てるあたりがもう最悪」
「それは光栄な言葉ですね。この映画の主役は世界的に有名な俳優なんです。アルクェイドには美的感覚が無いからそこがわからないんですね」
「それは自分が美人だと言っているつもり? 自信過剰にも程があるわよ」
「何を言っているんですか? あなたがわたしに似ていると言ったんでしょう」

こうやって口論を続けているとだんだん二人の言い分が支離滅裂なことになってくる。

「うわっ、シエル似のクセにカレー以外なんか食べてるっ。信じられない」

映画での食事シーンを見てそんなことを言うアルクェイド。

「わたしはカレー以外だってちゃんと食べますっ。なんですかその偏見はっ」

でも俺の知っている限り、先輩はカレーしか食べてないと思う。

「カレー星からやってきたカレーの王女さまなんでしょ? 隠したってわかるんだから」
「そんなわけないでしょう! じゃああなたは吸血鬼星からやってきた吸血鬼星人なんですかっ!」
「何言ってるのシエル。バカじゃない?」
「……っ!」

アルクェイドのやっている、口論中に急に冷静になって相手をバカにする作戦はかなり相手の神経を逆なでする。

「……ふっ。負け惜しみを」

しかしさすがに先輩は人間が出来ているのか、なんとか耐えていた。

「でか尻」
「なあんですってぇ!」

だが一瞬で終わってしまう。

「あなたのほうがサイズは大きいでしょうっ?」
「そりゃあね。だけどわたしは胸もあるしくびれもあるもん。バランスがいいの」
「くうっ……」

余裕癪癪アルクェイド。

「……大きければいいというものではありません。しょせん胸なんかただの脂肪の塊なんですから」

先輩のセリフはなんだか秋葉も同じことを言いそうなものあった。

「やーい、負け惜しみ」
「ああ、映画がいいところですね」

その話題は不利だと感じたのか、あからさまな話題転換をするシエル先輩。

「どこがいいところよ。ただ二人が話しているだけでしょ」

アルクェイドの言う通り、今の場面は主人公と男が話しているシーンである。

「何を言っているんですか。この二人は最後に結ばれるんですよ。今は互いの愛を確認しあっているんです」

そういえばこの男はエンディングで主人公と結婚した男のような気がする。

セリフも愛してるよ、私もよ、みたいなものであった。

「シエルは永久にそんなこと言われることがなさそうね」
「そんな心配される筋合いはありません」

ふふんと余裕の笑みを浮かべる先輩。

「……むう?」

アルクェイドは首を傾げていた。

「ふふふ」

先輩は何故か俺を見て笑っている。

なんだかものすごくプレッシャーを感じてしまうのはなんでだろう。

「それにしてもこういうシーンをいいと感じないなんて、所詮あなたは真祖ですね。教養とか常識がまるで欠けています」
「何言ってるのよ。あなた、わたしより常識が無いんじゃない?」
「あなたが常識を語る自体が常識外のことですね」

やれやれと首を振るシエル先輩。

「遠野君ももそう思いますよね?」

今まで無視されてきたのに急に意見を求められてしまった。

関わるのが怖いからずっと黙ってたんだけど、そう言わてしまうと何か言わざるを得ない。

「あ、ええと」
「シエルのほうが常識ないわよね?」
「アルクェイドのほうですよね?」
「その、なんていうか……」

この質問の答えはとりあえず。

「……とりあえず、映画中にしゃべりまくるのは常識があるとは言えないと思うよ」
「う」
「ぐ」

それでようやく二人は大人しくなってくれるのであった。
 
 
 
 
 

「やれやれ……」

映画館を出て外の空気を吸う。

「ほら。シエルはさっさと帰りなさいよ」
「そんなことを聞く理由も義務はありません」

二人はまたケンカを始めてしまった。

「まあまあまあまあ……」

二人の間に割って入る。

「志貴は今日わたしとデートなんだから。シエルなんかに邪魔させないんだからね」
「デート? それは恋人同士がやるものですよ。遠野君は仕方ないから付き合っているだけなんです」
「何よ。わたしと志貴は……」
「わーっ! わーっ! アルクェイド。いいじゃないかっ! 二人より三人のほうが楽しいぞっ!」

大声でアルクェイドの言葉を遮る。

「……納得いかないわよ」

アルクェイドはかなりむくれていた。

「確かにアルクェイドの言葉も一理ありますね。わたしは後から出てきたお邪魔虫です。わたしもアルクェイドに邪魔をされたら嫌ですから」

意外なことにシエル先輩はアルクェイドの心情を弁護するようなことを言った。

「ですから、勝負をしましょう。わたしが勝ったらこの後三人で遊ぶ。負けたら大人しく帰る。それでどうですか?」

そうして、そんな提案をする。

「勝負ってそんな。暴力はまずいよ」

二人がケンカしたらこの周囲一体が廃墟と化すんじゃないだろうか。

「暴力ではありません。あそこのゲームセンターで勝負をつけるというのはどうです?」

先輩の指差した先には割と大きいゲームセンターがあった。

映画館の傍にゲーセンがあるのは結構定番である。

「……面白いじゃない。わたしが勝ったらすぐに帰ってもらうわよ」

にやりと笑いながら頷くアルクェイド。

「グッド」
 

そう答える先輩を見ながら、俺の意思は一体どうなってるんだろうなーとか今更思うのであった。
 

続く



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