「暴力ではありません。あそこのゲームセンターで勝負をつけるというのはどうです?」

先輩の指差した先には割と大きいゲームセンターがあった。

映画館の傍にゲーセンがあるのは結構定番である。

「……面白いじゃない。わたしが勝ったらすぐに帰ってもらうわよ」

にやりと笑いながら頷くアルクェイド。

「グッド」

そう答える先輩を見ながら、俺の意思は一体どうなってるんだろうなーとか今更思うのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その21
シエル・ザ・プレイヤー・A








「わーっ。すっごい。そこいらじゅうから音楽が聞こえるね」

ゲーセンに入ったアルクェイドはあっちへいったりこっちへ行ったりはしゃいでいた。

「はぁ。まるで子供ですね」

先輩溜息混じりにが感想を述べる。

「ですねえ」

それに関しては俺も同意する。

「ねえねえ志貴。このパンチングマシーンって面白そうだよ。やってもいい?」

アルクェイドはパンチングマシーンの前でぶんぶん手を振っていた。

この機械は殴ってパンチの威力を確かめるというやつで、ゲームと言うよりは力試しに近い。

「おまえがやるとぶっ壊れそうだから駄目」
「えー。なんでよ」
「当たり前だろ。お前が本気出したらそんな機械じゃ計測できないって」
「そうですよ、あなたはバカ力なんですから」
「むぅ……」

むくれるアルクェイド。

「じゃあ、志貴がやってみて」
「……まあ、別にいいけど」

お金を入れて機械が動き出す。

「グローブつけて……と」

グローブについている紐の許す限り後ろに下がって構える。

「ていっ!」

びしいっ!

出た数字は135。

「これって凄いの?」
「うーん。どうなんだろうな。最高の数字が218とか書いてあるからなあ。平均くらいなんじゃないか?」
「確かこの機械では125くらいが平均だったと思いますね。ですから良いほうだと思いますよ?」

するとシエル先輩がそんなことを教えてくれた。

「そうなんだ。志貴、凄いね」
「よしてくれよ」

俺は全力でやったけど、きっとアルクェイドが軽くぱんってやるだけで最高値も越えちゃうんだろうな。

「遠野君。後2回出来ますけど」
「あ、そうか」

パンチングマシーンはだいたい三回くらい殴れるのが基本である。

「先輩やってみる? もちろん手加減してだけど」

俺はグローブを外してシエル先輩に手渡した。

「いいんですか?」
「ちょっと。なんでシエルはいいのよ」

するとアルクェイドが不満げにそんなことを言う。

「先輩はちゃんと手加減出来るからだよ」
「むー。わたしだって手加減できるわよ。わたしにやらせてってば」

先輩からグローブを奪おうとするアルクェイド。

「アルクェイド。まだ後一回残っているんですから、次はあなたがやればいいでしょう。ちょっと待っていてください」
「ぶーぶー」

先輩と一緒にいるとアルクェイドがますます子供に見えてしまうのはなんでだろう。

「では……」

先輩は二三歩下がって、シッ!と拳を振ったらしかった。

らしかった、というのはあんまりにも早くて拳を振る音しかわからなかったからだ。

「……ふぅん」

アルクェイドも少し感心したような声を漏らす。

「数値はいくつだ?」

となると気になるのはその数字だ。

さっそく表示されてる数字を見る。
 

『―――』
 

「……あれ?」

数字は表示されていなかった。

「あ、今のは間合いを計っていただけですので。当ててはいませんよ」

すると先輩はそんなことを言った。

「な、なんだそうか」
「ええ。数ミリのところで寸止めしていたわ。シエルのクセに」
「お褒め頂き光栄ですね」

にこりとアルクェイドの嫌味を受け流し、先輩はもう一度構えた。

「せーの。えいっ!」

ぴしっ。

「あ、あれ?」

今度も疾風のような拳が振るわれるものだとばかり思ってたのに、先輩の拳はいやにのろかった。

もちろん、それを受けた機械のほうも全然揺らいでいない。

数値のほうは――52。

「せ、先輩? どうしたの?」

思わず尋ねてしまった。

「何を言っているんですか遠野君。わたしは女の子なんですよ? このくらいの数値が普通じゃないですか」

先輩は少し顔を赤らめてそんなことを言った。

「……ああ」

そうか。そりゃそうだよなあ。

わかっていることとはいえ、数値という明確な形で俺のパンチ力を上回ってしまうのは先輩としては嫌だったわけである。

「うん。そうだね。こんなもんだよ」

だから俺もそう答えた。

「さあ。次はアルクェイドですよ。どうぞ」

先輩は笑顔でアルクェイドにグローブを手渡した。

「……」

アルクェイドは妙に神妙な顔つきでグローブを受け取った。

「アルクェイド。ぶっ壊さない程度にやってくれよ」
「わかってるわよ」

そう言いながらもぶんぶん腕を振りまわしている。

ああ、滅茶苦茶不安だ。

「そお……れっ!」

アルクェイドは大きく振りかぶって第1球――ではなく拳を振りきった。

ぽこっ。

「……え?」

思いっきり振りきったはずなのに当たった音はやけにコミカルだった。

機械はさっきよりも動いていない。

数値は――15。

「あーあ。わたしってシエルなんかよりか弱いから全然数値が出なかったわ」

そうしてにこにこ笑いながらそんな事を言った。

「誰がどうか弱いんですか? このバカ真祖」
「数値が証明してるでしょ? わたしのパンチはあなたより弱いの。あなたより女らしいってことね」

なんて言いながらアルクェイドは俺に擦り寄ってきた。

「こ、こらっ! 遠野君から離れなさいっ!」

アルクェイドを引っ張るシエル先輩。

「嫌よ」

アルクェイドはぎゅーっと俺を抱きしめて離してくれない。

これは気持ちいいっていうか普通に痛い。

「や、やめろこのばか力っ!」

アルクェイドを押してなんとか離れさせる。

「ちぇー」
「まったく油断も隙もありませんね……」

先輩は肩で息をしていた。

「ほんとだよ、もう」

かくいう俺もアルクェイドを離すのにパンチをする以上の力を使ってしまった。

「んー。じゃあ他のゲームやろっか?」

こいつ1人、どこまでも元気である。

「ったく……」
「そうですね。さっさと決着をつけてしまいますか」

先輩はうって変わって怖い表情に変わっていた。

「む」

わざわざゲームセンターで勝負を決めようと言ってきた先輩だ。

ゲームの腕には結構自信があるんだろう。

「……」

となると、俺の心の中にふつふつと闘争心が湧き起こってきた。

「先輩。アルクェイドの前に俺と勝負しないか?」
「……遠野君と、ですか?」
「はい。俺も結構ゲームとかやってるんで、自信あるんですよ」

琥珀さんには一度も勝ったことはないけれど、実力者と戦っているぶん俺も鍛えられているつもりだ。

「なるほど。それも面白いかもしれませんね」
「なに? 志貴とシエルで勝負するの?」
「ああ。とりあえずな」

先輩の実力を知るためにもちょうどいい。

「ふーん。じゃあそれに負けたらシエルはすぐに帰ってよね」
「いいですよ。わたしは負けませんから」

アルクェイドの言葉を簡単に頷くシエル先輩。

間違いない。先輩は実力者だ。

「じゃあ、ええと……」

せっかくだから俺の得意なゲームをやらせてもらおう。

「あのレースゲームはどうです?」

俺は大きいゲームセンターには必ずと言っていいほどあるカーレースゲームを指差した。

「わかりました。さっそくやりましょう」
 

先輩は頷き、俺たちはそのゲームの場所へと向かうのであった。
 

続く



あとがき(?)
このSSを読みに来ている人でジョジョ第3部を知っている人ってどれくらいいるんでしょうかな。
サブタイトルでニヤリとした人は同志ですw
まあ今回の話はジョジョ関係無いですけど(^^;
レースゲームといえばやっぱりアレです。


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