だからどのタイミングで当身を出せばよいかもわかっているんだろう。
「技が全部覚えられてるんじゃ……」
どんな技を出しても通用しないんじゃ、勝てないんじゃないだろうか。
「ど、どうするんだ? アルクェイド」
そう尋ねてもアルクェイドはただ難しい顔をして黙っているだけなのであった。
「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その26
シエル・ザ・プレイヤー・F
「ふふふ、あっという間にひっくり返しますよ……」
当身の成功で調子が良くなったのか、シエル先輩は積極的に攻め始めていた。
「くっ……このっ!」
アルクェイドは攻撃をガードして反撃する。
「無駄なことですよ」
その反撃を当身。
ぽいっとアルクェイドは投げ捨てられてしまった。
「あーもう! 鬱陶しいわね!」
ばしんと台を叩くアルクェイド。
「お、落ち着けよ」
だけどアルクェイドの気持ちはわからなくもない。
俺もそうだ。
琥珀さんと何度もゲームで対戦したことがあるけど、全くもって俺の技は通用せず、毎回絶望的な感覚を味わってしまう。
「何かないのか……? 何か……」
俺は琥珀さんに未だに勝てないでいるけど、アルクェイドならシエル先輩に打ち勝てると思う。
根拠は全くないけど、なぜだかそう感じてしまうのだ。
普段は天然ばかおんなでも、やるときはやってくれる。
「ねえ志貴。頼みがあるんだけど」
するとアルクェイドは何かを思いついたような顔でそんなことを言ってきた。
「ああ。俺で出来ることだったら協力するぞ」
「じゃあ……」
アルクェイドは俺にだけ聞こえるように小声で囁き、俺はそのアルクェイドの頼みを実行することにした。
「やあ、先輩」
「……なんのつもりですか?」
俺はさっきまでアルクェイドの後ろで試合を見守っていたのだが、アルクェイドの台とシエル先輩の台との中央の位置に移動していた。
ここからだと画面は見えないけど、二人の顔や様子がよくわかる。
「いや、アルクェイドに邪魔だって言われたからさ。移動してきたんだ」
「遠野君。アルクェイドに何を言われたかは知りませんが、話しかけて操作をミスさせようというのなら無駄ですよ」
「そんなつもりじゃないって」
この位置に来るように言ったのは確かにアルクェイドだが、俺はそれしか聞いていないのだ。
まさかここに俺がここに来るだけで事態が好転するわけでもないだろうし、きっと別の何かがあるんだろう。
「……」
俺はアルクェイドの座っている席のほうを見た。
「シエル。もう当身とやらは通用しないわ。わたしの勝ちよ」
「何を言っているんですか? アルクェイド。わたしにはどんな攻撃も……」
途端に、ばきい! というヒット音が聞こえた。
「なっ……?」
先輩の驚愕の表情。
攻撃を食らったのはシエル先輩のようだ。
「……あ、アルクェイド……」
それよりも、俺はアルクェイドのほうを見て驚きを隠せなかった。
あいつ、まさかこんなことをやるなんて。
「ば、ばかなっ! い、今の技はなんですっ!」
「……さあね」
飄々とした様子で答えるアルクェイド。
「答えなさいっ! 前作にはこんな技ありませんでしたよっ!」
「へえ。前作。なるほどね。あなたがやり込んでいたのはこのゲームの前作のほうで、こっちはまだやり込んでないんだ?」
「はっ……!」
慌てて口を塞ぐシエル先輩。
「だったらこっちのゲームで増えた新技のモーションはわからないわよね……?」
「くっ……」
画面が見えないのでややシエル先輩のほうへと移動して状況を見る。
アルクェイドのキャラは俺も見たことがない新しい動きで攻撃を仕掛けている。
「こんな攻撃……」
しかもそれに加えて先ほどとはうって変わったような素早い動きとコンビネーション。
先輩はアルクェイドのキャラの攻撃を受けきれずにいた。
「な、何故ですっ! あなたはさっきまで間違いなく初心者だった! なのにわたしですらまだ知らない新技を出すことが出来るんです!」
「さあね」
先輩を挑発するような口調のアルクェイド。
「わかりました! 何かイカサマをやっていますね! あなたは卑怯ですから!」
「シエルに卑怯よばわりされなくはないわね。それに、マンガで言ってたわよ?『ばれなきゃイカサマじゃない』って」
「くうっ……」
先輩は悔しそうな声を出した後、俺に顔を向けた。
「遠野君! アルクェイドはどんなイカサマをしやがってるんですかっ!」
「ははは、はいっ!」
先輩の迫力に思わずたじろぐ。
「え、ええと……イカサマっていうかその……なんていうか、ネロを倒した時と似たような感じで」
「ネロ・カオスを……? わ、わかりました! 空想具現化ですねっ! それで何かやったんでしょう!」
「そんなわけないでしょバカシエル。空想具現化は自然現象しか再現できないの。知ってるはずじゃない?」
「くううっ……」
額の汗を拭うシエル先輩。
かなりあせっているようだ。
「イカサマをしているのはわかってるんです……そうじゃなきゃこんなっ……!」
あんなに正確無比だった先輩の操作が乱れてきている。
何の変哲のないただの攻撃まで食らってしまう始末だ。
「わからない……何故ですっ、何故なんですっ……!」
先輩だけに言えることじゃないけど、こういう予測不能な事態に陥ってしまうと人はあせってしまうのだ。
落ち着こう落ち着こうと思えば尚更である。
「次は正面へストレート」
「……くっ!」
起死回生とばかりに先輩は上段当身を取る。
ばきっ!
「ハズレよ。残念だったわね」
だがアルクェイドのキャラが出したのは下段の足払い。
見事に先輩は転ばされてしまった。
「なっ……!」
先輩はばたんと台を叩くと、かなり怒った表情で立ちあがった。
「ちょ、ちょっと先輩っ」
慌てて先輩を押さえる。
「どいてください遠野君! アルクェイドが何かイカサマをしているのは明らかです! 台を調べさせてもらいますっ!」
「ででで、でもっ!」
「力づくでも通させてもらいますっ!」
「……ど、どうぞ」
先輩に本気を出されたらまずいので俺は大人しく道をゆずった。
「……」
アルクェイドは悠然と席に腰掛けている。
「どうやってあの技を出したんですかっ! ここのインストにもあんな技のことは書いてありませんっ!」
「そんなこと答える必要は無いわ」
ぷいとそっぽを向くアルクェイド。
「答えなさい! まさか滅茶苦茶に動かしたら偶然出たなんて言うんじゃないでしょうね!」
「そうかもねー。どうなんだろ」
「くううっ……」
アルクェイドが挑発的な態度を取るもんだから、先輩はかなり苛立っていた。
「せ、先輩。落ち着いて。ほら。子供が怖がってるよ」
「……はっ」
アルクェイドのすぐ隣で、さっきのゲーム天才少年が困ったような顔をしていた。
「ごめんねー。このメガネのバカシエルったら怒りっぽくて」
「……メガネは関係ないでしょう」
拳を強く握り締めてはいたが、なんとか先輩は怒りを押さえることができたようだ。
「それより先輩」
「なんですか、遠野君」
「……あの、言い辛いことなんですけど」
「はぁ。どんなことです?」
俺は画面のほうを見た。
「残り時間、あと2秒」
「……はっ!」
そう。格闘ゲームには制限時間というものがあるのだ。
時間の終わりが来たら、体力の多いキャラクターが勝利となる。
そして現在の体力は。
「わたしのほうが多いみたいね。このラウンド、頂くわ」
先輩が台の反対側に戻る間もなく、時間切れとなってアルクェイドの勝利となった。
「ひひひ、卑怯ですよアルクェイド!」
「何言ってるのよ。シエルが勝手にこっちに来たんでしょ? それに、わたしはシエルがこっちに来てから一度も操作してないわよ」
「……くっ」
それは確かにそうだ。
アルクェイドのキャラは先輩がこっちに来てから一度も動いていない。
つまりそれまでの攻撃で先輩に押し勝っていたと言える。
「わたしとしたことが……迂闊でした」
びしいっ! と自分の手のひらに拳を打ちつける先輩。
「ですが納得いきません。なんであなたは突然新しい技を出せるようになったんですか。しかもそれを加えた連携まで」
「あー。それ? 簡単なことじゃないの。ねえ?」
俺に同意を求めてくるアルクェイド。
「いや、まあその……ははは」
なんていうか返答に困ってしまう。
「遠野君。どういうことなんです?」
「いや、だからつまり……」
俺が答えあぐねていると、アルクェイドの隣にいる少年が口を開いた。
「ねえお姉ちゃん。ボク他のゲームやりたいからもう行ってもいい?」
「ん? ああ。もういいわよ。お疲れさま」
「うん。じゃあね」
少年はそう言ってメダルゲームのほうへと走っていった。
「……い、今のどういうことなんですか?」
先輩は、まさかまさか、といった表情で尋ねてきた。
俺としてもこれを教えるのはかなり心苦しい。
っていうか、反則だよなあ。
「だからその、つまり……アルクェイドは途中から、あのゲームが上手い子供にゲームをやってもらってたんだよ」
先輩は知らないけれど、ネロ・カオスを倒したのは遠野志貴。
つまりこの俺なのだ。
「イ、イカサマと言うのは……そんなくだらないこと? ゲームを操作していたのはアルクェイドじゃなくて……あの子供だったんですかっ!」
先輩の信じられないというか、もうやってられないわコンチクショーと言った口調が痛々しくてたまらない。
「答えたくないけど……イエスだ」
アルクェイド最終奥義。
自分でどうにかならなかったら、他に凄い能力を持った人になんとかしてもらう大作戦炸裂であった。
続く
そしてシエル・ザ・プレイヤー編しゅうりょー(ぇ
うぐぅ、あんまり原作と代わり映えしない結末に(汗
まだ二人の戦いは第3ラウンドは残ってますけど、短い感じで終わりそうです。
ジョジョを知っている人には評判が良かったこのシエル・ザ・プレイヤー編でしたが、そうでない人にはどうだったんでしょうか(^^;
もう少しジョジョネタをやってみたい気もしますが普通のほうがいいのかなーとも。
ので下の感想フォームにちょっとそんな項目を入れてみたので宜しければそこのところだけでもお答え下さいませー。