先輩の信じられないというか、もうやってられないわコンチクショーと言った口調が痛々しくてたまらない。
「答えたくないけど……イエスだ」
アルクェイド最終奥義。
自分でどうにかならなかったら、他に凄い能力を持った人になんとかしてもらう大作戦炸裂であった。
「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その27
「くっ、このっ!」
「無駄よシエル! さっきの子供のおかげで色々な連続技を覚えたわ!」
第3ラウンド、ふたりはかなりの熱戦を繰り広げていた。
子供の連続技を学習し、さらなるパワーアップを遂げたアルクェイドとだんだんと新技にも慣れてきたシエル先輩。
そして。
ばきいっ!
「ク、クロスカウンターっ?」
最後に全く同じタイミングで攻撃がぶつかりあい、ダブルKOとなった。
このゲームはダブルKOになったばあいは強制的に両方の負けとなる。
画面にはゲームオーバーの文字が写っていた。
「認めませんこんなのっ! 2ラウンドは途中からあなたが操作してなかったじゃないですかっ!」
シエル先輩が席を立ってアルクェイドのほうへと歩いてくる。
「ふーんだ。負け惜しみにしか聞こえないわね」
アルクェイドは溜息まじりにそんな事を言った。
「ま、まあまあ。結局引き分けだったんだし、いいじゃないか」
そんな二人の間に割って入る。
「しかし……これでは決着がついてないじゃないですか」
「ならもう一度やる? もうわたしは絶対負けないわよ」
「結構です。またイカサマをやられたらたまりませんから」
そうして俺を睨みつける先輩。
「遠野君。次はアルクェイドのイカサマを見逃さないで下さいよ。勝負は公平につけるべきです」
シエル先輩の言葉は正論である。
「でも、先輩はどのゲームもやり込んでそうだしな。それくらいしないと勝負にならなかったと思うよ」
「……それは、その」
目線を反らせるシエル先輩。
ゲームに自信があるからゲーセンでの勝負を提案したんだろうからな。
まあ、それをあっさり承諾したアルクェイドも問題である。
「でも先輩がこんなにゲームが上手いなんてちょっと以外だな。びっくりしたよ」
なのでちょっと話題を逸らすことにした。
「あ、はい。夜の見まわりをやるまでの時間って退屈ですからね。最初は軽く時間をつぶすつもりで入ったんですけど。いつの間にやらのめりこんでしまって」
「なるほどなぁ」
先輩の夜の巡回は日課だ。
だからそのぶんゲームセンターにも来ているわけで、上達するのも頷ける。
「ゲームセンターなら大人びた格好をしていれば夜遅くまでいても不自然ではありませんし。いい場所なんですよ」
確かに学生服を着ていたらいくらゲーセンでも夜遅くまではいられない。
「大人びたもへったくれも、シエルって高校生の年齢じゃないでしょ?」
そこへアルクェイドが茶々を入れる。
「い、いいんですよっ! 失われた青春を謳歌してるんですっ!」
先輩は恥ずかしそうな顔でアルクェイドに怒鳴っていた。
「セイシュンをオウカだって。年よりみたい」
「ぬっ……くぅっ……」
「ま、まあまあまあっ! ほ、ほらっ。あれなんかどうかなっ。クレーンゲームっ! 先に商品を取ったほうの勝ちとかさ!」
どんな話題だろうがアルクェイドと先輩はぶつかり合うので困ってしまう。
「……クレーンゲームですか?」
「ああ」
「何それ。どんなゲーム?」
アルクェイドも関心を示したようだった。
「あそこの端のほうにあるだろ。教えてやるよ」
「先輩、これもやりこんでたりする?」
とりあえずクレーンゲームの前まで移動してきた。
「いえ。人がやっているのを見たことはありますが自分でやったことはないですね」
「そっか。それならお互い始めて同士でいい勝負になるかもな」
さっそく俺はコインを入れる。
「いいかアルクェイド。クレーンゲームは中にある景品を取るゲームなんだ。普通は勝ち負けとかじゃなくて、まあ欲しい商品があったらやるゲームだな」
「ふーん。どうやって動かすの?」
「ボタンが2つあるだろ? ひとつでタテ、もうひとつでヨコに動かせるんだ。最後のひとつが決定ボタン。取れるなーと思う場所に自分で移動させて、商品をクレーンに掴ませるんだ」
さっそく言葉通りクレーンを動かす。
目指すは商品のど真ん中にある、可愛くない猫のぬいぐるみだ。
クレーンゲームの鉄則として欲しいものからではなく「取りやすいものから取る」というのがある。
そしてこのぬいぐるみは他のぬいぐるみに囲まれている上に、一個だけ抜き出ていて掴みやすそうだったのだ。
クレーンの爪が入りこむ隙間も十分にある。
さらにヒモまでついているのでそこに爪をからませることができればもう勝ったも同然である。
「よし、ここだっ!」
ポイントは狙った商品の重心を見つけ出すことだ。
重心がど真ん中にくるようにすれば落ちることはまずない。
俺はボタンを押して、猫を掴みにかかった。
ういーん。がし。
「よしっ」
クレーンはぬいぐるみの脇を抱えるようにして掴んでくれた。
これなら確実だ。
ういーん……
クレーンが商品が出てくる穴にくるまでの時間、じっとクレーンを見守る。
この僅かな時間がとても長く感じてしまう。
ぽて。
「よしっ!」
俺は可愛くない猫のぬいぐるみをゲットした。
「へえ。上手いんですね、遠野君」
「ああ。なんかの本でクレーンゲーム必勝法ってのを読んだんだよ。ほんとに上手くいった」
そうして改めてぬいぐるみを見る。
猫と言ったけど、性格には猫娘人形といった感じである。
でっかい両目にまんまる手足、頭にネコミミ、金髪、白服、紫スカート。
なんだかアルクェイドを簡略化したようなぬいぐるみだった。
「可愛くないぬいぐるみですねえ」
先輩も俺と同じ感想をもったようだ。
「そう? 可愛いじゃないの」
アルクェイドは感性がおかしい気がする。
「じゃあおまえにやるよ」
持っていてもしょうがないのでアルクェイドにやることにした。
「ほんと? ありがとっ」
可愛くないぬいぐるみなのに、やたらと嬉しそうな顔をして受け取るアルクェイド。
「えへへー。プレゼント貰っちゃった」
そうしてそのぬいぐるみをシエル先輩に見せつける。
「……あっ!」
してやられたというような顔をするシエル先輩。
「ず、ずるいですよっ! アルクェイドばかり」
「いや、そんなこと俺に言われても。先輩いらないでしょ?」
「自分でやるならいらないですけど。……遠野君からなら欲しいです」
なんだか意味を履き違えるといやらしい響きをもつような言葉を先輩に言われ、俺は困ってしまうのであった。
続く