「……げ」

そして愕然とした。

俺は何故忘れていたんだろう。

そのゲームで100連勝できるような実力を持った女性が知り合いにいるってことを。
 

「こここ、琥珀さんっ?」
「……え? あ。志貴さんじゃないですかー」
 

そこには伝説のゲーマー琥珀さんがいるのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その29










「こ、琥珀さん、何でこんなところに?」

俺は思わず近寄って尋ねた。

琥珀さんは遠野家の家政婦である。

だから家の掃除や家事に追われているはずで、ゲームセンターにいるはずなんかないのだ。

「あ、はい。ちょっと待ってくださいね。今終わりますんで」

恐ろしいことに琥珀さんは俺と話している間、全く画面を見ずに操作をしていた。

「……音だけで判断してますね、あれは」
「ええ。あの家政婦、実は格闘技なんかも出来るんじゃないかしら?」

冷静な分析をしているシエル先輩とアルクェイドの言葉が、なお恐ろしさを助長する。

「はい、終わりましたー」

琥珀さんの言葉と共にでかでかとスクリーンに表示されるKOの文字。

そしてエンディングが始まった。

「……あれ? エンディング?」

格闘ゲームのエンディングというのはラスボスを倒さなきゃ見れないもので、対戦で勝っても表示はされないはずなのだが。

「ええ。あんまり勝ちすぎちゃったんで誰も乱入してくれなくなっちゃったんですよ。残念です」

琥珀さんは席から立つとそんなことを言いながら歩いてきた。

「あ、あはは……」

そりゃ100連勝してるような相手に乱入したくないよなあ。

「で、なんでこんなところにいるかと言いますと、お買い物の途中だったんですよー」
「ああ、そうなんだ」
「はい。それで帰り道にこのゲームセンターがありまして、ついふらふらーっと」

照れくさそうに笑う琥珀さん。

「あはは、気持ちはわかるよ」

俺もゲームセンターの賑やかな様子を見るとつい入りたくなってしまう。

琥珀さんみたいな凄腕なら尚更なんだろう。

「ねえ志貴。このゲームもう出来るの?」
「あ、ん?」

アルクェイドがゲームの台を指している。

琥珀さんのやっていたゲームはエンディングが流れているままであった。

周囲のギャラリーも減り始めている。

「ああ。アルクェイドさん。ちょっと待ってください。ランキングを入れないと……」

席に座ろうとしているアルクェイドを止めて、琥珀さんは優れた成績を出すと出てくるランキングへ謎の記号を登録していた。

「AMBって……KOHとかじゃないの? 普通」

琥珀さんの登録したのはその三文字であった。

こういうランキングには自分の名前の最初の三文字や、イニシャルを入れるのが普通だ。

「あはっ。それだとなんだか流行りのゲームの略称みたいですし。琥珀を英語にしてアンバー(amber)。その頭文字なんですよ」
「なるほど」

そういうわけか。

「さあシエル。対戦しましょ」

さっそくとばかりに席に座って意気揚々としているアルクェイド。

「……無理ですよ」

それに対してやれやれと首を振るシエル先輩。

「え? なんでです?」

俺はシエル先輩に尋ねた。

「反対側を見てくださいな」
「え? ……あ」

なるほど。

これが乱入する人間がいなくなった真の理由だったわけである。

「どうしたんですか……? ってああっ?」

琥珀さんもそれを見て目をぱちくりさせている。
 

『ただいま調整中』
 

なんと反対側の台ではレバーが折れていた。

「多分、ちょうど100人目の相手の人の後にいかれちゃったんだろうね。ガタが来てたんじゃないのかな」
「はぁ。言われてみれば100人目のお相手さんはプロレスラーみたいな人でしたね。途中で動かなくなっちゃったんですが、そういうことだったんですかー」

能天気に笑っている琥珀さん。

「ぷ、プロレスラーみたいな人って、こ、怖くなかったの?」

格闘ゲームをゲーセンでやっていると、時々対戦相手が怒って絡んで来たりする。

特に一方的な試合展開なんかだと確率が高い。

そして琥珀さんの連携はほとんど脱出不能なのである。

「ええ。格闘ゲーム自体は大した腕ではなかったですし。ギャラリーもたくさんいましたからわたしに絡んでくることはありませんでしたよー」
「あ、あはは……」

琥珀さんの真の恐ろしさはこういう精神の強さにあると思う。

そしてそれに加えて諸葛亮孔明のような策略。

力でも技でもない、頭脳のエキスパートなのだ。

「……ところで志貴さん。アルクェイドさんはわかりますけど何故シエルさんも一緒にいるんですか?」
「あ、いや、それがその、色々あってさ」
「シエルが負けたらさっさと帰ってもらうのよ。……ああもう。これで対戦出来ないの? 使えないわねー」

ばんばんと台を叩くアルクェイド。

「こ、こらっ!」

慌ててアルクィドを台から引き剥がす。

「うー。さっさと勝負しましょうよ。わたしはこんな女と1秒も一緒にいたくないんだからっ」
「それはわたしも同意しますね」

二人はバチバチと視線でぶつかり合っていた。

「はぁ。要するにアルクェイドさんとシエルさんはなんでもいいから勝負がしたいわけなんですか」
「……まあ、微妙に違う気がするけどそうなんだ」
「それで、勝った方が志貴さんと過ごす、と」
「……多分そんなノリになってると思う」

最初は先輩が勝ったら3人で遊ぶ、負けたら先輩は帰るというルールだったのだが。

「アルクェイド。さっきからわたしが勝ったらわたしが勝ったらと言っていますが。もし貴方が負けたら貴方に帰ってもらいますからね!」
「ふーんだ。いいわよ。どうせわたしは負けないもん」

とまあ、こんな風にルールが変えられてしまっていた。

「うーん。志貴さん。皆さんで一緒に仲良くというのは無理なんでしょうか?」

苦笑している琥珀さん。

「それは俺も思ったよ。でも無理だって。こんなにぶつかり合ってるんだからさ」
「このバカシエル」
「……アホネコ」

アルクェイドと先輩は殺気剥き出しであった。

なんだか放っておいたらこの二人は実力行使に移りそうである。

「わかりました。この琥珀が一肌脱ぎましょう。お二人とも、いい勝負方法を提案しますよ?」
「え? ほんと?」

琥珀さんの言葉を聞き、アルクェイドの殺気が薄れる。

「琥珀さん。そんな方法あるの?」
「はい。やっぱりこういうのは実力勝負じゃなく、ある程度運が関わるものだと思うんですよ。そういう勝負方法です」
「……ふむ。それは面白そうですね」

先輩も少し興味を惹かれたようだ。

「それで宜しいですか?」
「ええ」
「それでいきましょう」
「わかりました。では場所を移動しましょう」

そう言ってにこりと笑う琥珀さん。

なんていうか「にやり」という言葉がとても合う笑い方である。

どうやらまたも何やら企んでいるらしい。

「こ、ここで出来るものじゃないの?」
「はい。まあちょっと色々ありまして。とにかくついて来てくださいな」
「……ああ。わかった」
 

俺は不安を抱えながらも琥珀さんの言うがままに移動していくのであった。
 

続く



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