「あ、アルクェイドっ! おまえは素晴らしいやつだなっ!」

思わず手を取って感謝してしまった。

「え? え? ……なんかわかんないけど。えへへ」

アルクェイドは照れくさそうに笑っていた。

アルクェィドさえいればこんなプリント楽勝である。

「よし、アルクェイド。次の問題は?」
「次はね。ええと……」
 

こうして俺は恐るべきスピードで宿題を片付けていくのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その3















「終わったぁっ!」

なんと1時間足らずで宿題が全て終わってしまった。

「お疲れさま」
「ああ。おまえのおかげだよ」

俺は某ネコ型ロボットを手に入れた少年のような気分になっていた。

そう、こいつは万能で何でも出来る。

しかも美人ときたもんだ。

「……俺って実は恵まれてたのかなぁ」

今までいいことなんか全然ないと思ってたけど、そう考えるとかなり恵まれているのかもしれない。

「……」
「ん、なに?」

いや、でもこいつのほうが気まぐれだから役立たずか。

「なんでもないよ」

あんまり過剰に喜ぶと後で痛い目を見る。

アニメでもお決まりのパターンだ。

俺はあえてあまり喜ばないことにした。

「……変な志貴」

アルクェイドは首を傾げていた。

「でも、宿題は終わったんでしょ?」

が、すぐに明るい表情になって尋ねてくる。

「ああ」
「じゃ、遊ぼ」
「うーん……」

それについてはいまいち気乗りしなかった。

「まだ何かあるの?」
「いや、何にも無いけどさ」

俺は溜息をついた。

「じゃあいいじゃない」
「そうなんだけどさ。正直言って、いつもの俺は宿題をやるのに凄い時間がかかってるんだ」
「そうなの? あんなに簡単なのに」

ぐさり。

遠野志貴は心にダメージを受けた。

「……お、俺には難しいんだよ。だから、こんなに早く終わって外を出歩いてたら、怪しまれちまう」
「妹に?」
「ああ。兄さん、宿題は済んだんですか? 済んでないのに遊びに行くなんて許しませんからね? ってさ」

まるっきり某漫画のママである。

「そんなの宿題は終わったんだから堂々としてればいいでしょ」
「うーん」

そのへんが人間心理の難しいところである。

アルクェイドに頼るという、ほとんどイカサマみたいな手段を使った手前、なんとなく後ろめたいのだ。

「部屋の中で遊ぶことなんて限られてるし……」

この部屋にはテレビもゲームも無い。

トランプやら漫画やらはあるけど、そんなんじゃ面白くないだろう。

「むー」

腕組みをするアルクェイド。
 

こんこん。
 

そこへノックの音がした。

「はいはい?」

アルクェイドに合図し、一応上へと逃げる準備をさせる。

「琥珀ですー。宜しいですか?」
「琥珀さんか。いいよ」
「失礼しますー」

琥珀さんが笑顔で入ってくる。

「ア、アルクェイドさん? 何を?」

入ってくるなりそんなことを言った。

アルクェイドがどうしたんだろう。

「む、むー……」

アルクェイドは変なポーズをしていた。

急に飛びあがるのを止めたのでそんな格好になってしまったのかもしれない。

ぱたん。

そのままベッドに転がり込んだ。

「驚かせないでよ、もう」

溜息をつくアルクェイド。

秋葉に見つかるのはまずいとちゃんと自覚してくれているらしい。

「あはっ、申し訳ありません」

琥珀さんは苦笑していた。

「用心するのに越したことはないからな」

俺も苦笑しながらそう言う。

「あらあら志貴さん。本日はそのような心配は無用だと思いますよ?」

すると琥珀さんはそんなことを言った。

「え? なんで?」
「だって、本日は志貴さんは開校記念日でお休みなんですから。あらかじめアルクェイドさんと遊ぶ約束をしていたということにしておけば」

あ、そうか。

「アルクェイドがいてもおかしくないってことか……」

俺が最初に勘違いしたように、こいつは朝っぱらから遊びに来るようなやつなのだ。

「はい。問題なしです」

なるほど、そう考えると外に出ても安全なような気がしてきた。

「まあ、見つからないに越したことはないですけどねー」
「はは……」

遊びに来ただろうとなんだろうと秋葉はアルクェイドがいると機嫌が悪いからなあ。

「それで琥珀さんは何しにきたの?」

ふと、何故琥珀さんがここに来たのか気になって尋ねる。

「はい。先ほどアルクェイドさんに持ってきたコーヒーカップの回収と、志貴さんの監視にですー」
「ああ、そうか、監視に……って。え?」

う、裏切ったのか琥珀さんっ?

「琥珀。あなた……?」

うわあ、アルクェイドが怖い顔をしている。

こいつは味方には甘いけど敵には容赦しないからなあ。

「ああ、勘違いなさらないでくださいね? アルクェイドさんのことではありませんから」

一歩下がって苦笑しながらそんなことを言う琥珀さん。

「そうなんだ。じゃあなに?」
「ええ。宿題をきちんとやっているかを監視して欲しいそうです。翡翠ちゃんだと見逃してしまうかもしれないですからー」
「むぅ」

俺ってそんなに信頼されてないんだろうか。

「ほら、この前の日曜日に宿題をやらずにシエルさんの家に遊びに行ったりなんかするからですよー」
「う」

確かにこの前、俺は宿題をやらずにシエル先輩の家に遊びに行った。

そして帰ってきてから徹夜で宿題を終わらせたのだ。

「翌日の朝、志貴さん酷い顔されてましたからー。秋葉さまは志貴さんのお身体を心配して仰ってっているんです」

さりげなく秋葉のフォローをする琥珀さん。

そういう言われ方をするとちょっと弱かったりする。

「ふぅん。志貴、この間いないと思ったらシエルの家なんかにいたんだ」

見るとアルクェイドが怖い顔をしていた。

「い、いや、それはその……」
「その、何よ」

まずい、言い訳が思いつかない。

「こ、断れなくてつい」

それでかなり情けないことを言ってしまった。

「ふん。シエルったらしつこいからね。いいのよあんなバカシエル無視して。志貴にはわたしがいるんだから」

そんな「わたしがいるんだから」なんて堂々と言われてしまうとなんだか恥ずかしい。

「志貴さんも隅に置けないですねー」

琥珀さんはやたらと楽しそうだった。

くそう、これを見越してわざわざ先輩の家に遊びに行ったことを暴露したのかもしれない。

「ごほん」

このままでは情けない男で終わってしまう。

いいところを見せなくては。

「琥珀さん。悪いけど監視はいらないよ」
「そう言うわけにはいきませんよー。秋葉さまの命令は絶対ですから」

琥珀さんは面白いから命令に従っているだけって感じがする。

「いや、もう宿題は終わってるんだ。ほら」
「え?」

琥珀さんにさっきのプリントを見せる。

アルクェイドのおかげで空欄は全部埋まってることはもちろん、全問正解である。

「ほ、ほんとだ……終わってますね」
「だろ。だからもう監視はいらないんだ」
「はぁー。それでは仕方ないですね」

琥珀さんは心底残念そうだった。

どうやら監視という立場をいいことに、俺をいぢめるつもりだったようだ。

まさに危機一髪である。

「わかりました。これを秋葉さまに見せれば納得してくださるでしょう」

琥珀さんは諦めたような顔をして、ドアを開ける。

「あ、志貴さん。ちょっと」

そうして、ドアを閉じる直前に俺を呼んできた。

「なに?」

俺は琥珀さんの傍に歩いていく。

すると琥珀さんは耳元でこう囁いたのである。
 

「……駄目ですよー。どうするんですか? 離れにシエルさん、まだいるかもしれないんですよ?」
 

あ。
 

その言葉で俺は全てを思い出すのであった。
 

続く



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