「……ああもう。琥珀さん。コイツ手助けしていいですか?」

見ていられないので俺はアルクェイドを手助けすることにした。

「それはルール違反ですから駄目ですよー。でもカゴを持ってきてあげるのはオッケーです。落として割られたりしたら大変ですし」
「わかった。行ってくる。来いっアルクェイド!」
「え? あ、うん」

俺とアルクェイドはカゴを取りに行くために駆け出した。

しかし。
 

「そう簡単にはいかせませんよ!」
「げっ!」
 

目の前に買い物篭をぶらさげたシエル先輩が立ちはだかるのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その31









「何よ、シエル。邪魔!」

シエル先輩を跳ね除けようとするアルクェイド。

「わあ、ばかっ!」

慌ててアルクェイドの腕を押さえる。

「な、何するのよ志貴っ」
「ばか。そんなことしたら品物が落ちるだろっ」
「大丈夫だって。天井に投げるから」
「そんなもん余計危険だ! 取り損ねたらどうするっ。周りに人だっているんだぞ!」
「……もう、うるさいわねえ志貴は」

まるでアルクェイドは俺が悪いと言わんばかりの態度である。

「おまえが周りを考えなさ過ぎなんだよっ」
「……遠野君。わたしの心配はしてくれないんですね」
「はっ!」

気付くと先輩が目を伏せて悲しそうな顔をしていた。

「い、いやっ、そういうわけじゃなくてそのっ」

慌てて先輩のフォローを考える。

しかしそう簡単にいい言葉なんか浮かばない。

「……いいんですよ無理しなくて。しょせんわたしはお邪魔虫が似合ってる女なんですから」
「そ、そんなことないですって」
「そうよー。お邪魔虫エルー。とっとと帰れー」

そんなところに余計な茶々を入れてくるアルクェイド。

「自覚はしていますが貴方に言われると非常に不快ですね」
「ふんだ」

睨み合う二人。

しかし片方は買い物篭ぶら下げ、もう片方は両手にたくさんの食品なので緊迫感がまるでない。

「ねえ志貴。とにかくわたしが持ってるものが落ちなきゃいいんでしょ?」

アルクェイドは先輩と睨み合ったまま俺に話しかけてくる。

「え? まあ、そうだけど」

なんでだろう。

なんだかとても嫌な予感がする。

「そう。……それじゃあ」

アルクエィドは先輩へ向かって踏みこんだ。

「通さないと言っているでしょうっ……!」

先輩がアルクェイドに向けてゴボウを振りかざす。

「甘いわっ!」

しゅっ!

ゴボウを軽く回避し、頭突きをシエル先輩に仕掛けるアルクェイド。

「当たりませんっ」

先輩、華麗に回避。

「あのー。お二人とも。白熱するのはいいんですけど、周囲の目が痛いんですが……」

俺は苦笑しながら先輩にそう言った。

周りではオバチャンや子供がなんだなんだと集まってきていて「ママー、なにあれ?」「しっ! 目を合わせちゃいけませんっ!」とか素敵な声が聞こえてくる。

「……う」

しまったとばかりに赤面するシエル先輩。

「チャンス」

すると何を思ったのかアルクェイドは先輩のカゴに接近し。

「えい」

どさどさどさ。

「あ、あああっー!」

なんと手に持っていた食材を全て先輩のカゴへと入れてしまった。

「な、なんてことしやがるんですかあなたはっ!」

アルクェイドを怒鳴りつける先輩。

「何ってカゴに食材を入れたのよ。文句ある?」
「大有りです! 人のカゴに勝手にモノを入れないで下さい! 子供じゃあるまいし!」
「いいでしょ。どうせ後で琥珀に渡すんだから。同じことよ」
「……しかしこれでは決着が……」

妙な理屈を引っ張り出すアルクェイドに先輩は戸惑った様子を見せていた。

「……はっ!」

しかしすぐに何かに気付いたような顔へと変わる。

「ということは今このカゴにあるものがあなたの今まで集めた食材なんですか?」
「ええ。そうよ」
「そうですか。ではこの食材はわたしが預かっておきますからどうぞゆっくりとダイコンでも探してください」
「あら。急に物分りがよくなったじゃないの」
「ええ、それはもう。あなたの非常識さに感謝しているところです。それでは」
 

先輩は笑顔でどこかへと走り去ってしまった。
 

「……変なシエル」
「変だよなあ」

あんなにあっさり引き下がるなんて。

「じゃあわたし、ダイコン探してくるから」
「あ、うん」

アルクェイドは上機嫌で歩いていく。

「……いや、ちょっと待て」

そんなアルクェイドを引き止めた。

おかしい。どう考えたっておかしい。

「なあアルクェィド。今、おまえと先輩は勝負してるんだよな?」
「ええ。先に食品を全部買い揃えたほうが勝ちなんでしょ?」
「そうだ。それで、おまえはあと何を買えば全部揃ったんだ?」
「だからダイコンだけよ。それ以外は全部あったわ」
「ほうほう」

そこまではわかる。

そこまでは普通の行動だ。

ただ、カゴに入れてなかったことが問題だったのである。

「で、その集めてきた食材を今さっき、先輩のカゴに入れたんだよな」
「ええ。そうよ。志貴がカゴに入れろってうるさいから」
「ああ。俺はカゴに入れろと言った。だけどさ。それは自分で自分が使うためのカゴを取ってきて入れろってことだったんだけどさ」
「……そうだったの?」
「ああ。そうなんだよ」
「ふーん」

アルクェイドはここまで言っても状況が理解できていないようだ。

「いいか、よく聞けよアルクェイド。先に全部の食材を買ったほうが勝ちってことは、商品の入ったカゴをレジに持って行ったほうが勝ちってことなんだ」
「……そうなの?」

アルクェイドはきょとんとしていた。

「そうなんだよ。だからどういうことだと思う? おまえは今先輩のカゴに全部食品を入れた。さらにそのカゴを持ったまま先輩はどっかに行っちまった」
「だからダイコンを持ってくればわたしの勝ちでしょ?」
「違う! ダイコン持ってさらに先輩のカゴからおまえ担当の食材全部取り戻さなきゃ駄目なんだよっ!」
「えーっ! なによそれ。聞いてないわよ」
「……聞いてないじゃなくて。おまえのせいでそうなっちまったんだよ、ばか」

俺はなんだか脱力感で一杯だった。

なんかもう帰って寝たい。

「あのバカシエル。だからあんなにあっさり引き下がったのね」

ようやくアルクェイドは自分のやったことに気付いたようだ。

「みたいだな。さすがは先輩だよ」

アルクェイドの常識外れの行動にもすぐに対応できていたとは。

さすがに俺なんかと全然年季が違う。

「でも志貴。それってわたしがダイコンとシエルを見つけてカゴごと奪っちゃえばわたしの勝ちってことでしょ?」
「いや、まあそれはそうだけどさ……」

それはつまり、あの神出鬼没の先輩を見つけ、さらにカゴを奪わなきゃならないという難題なのだ。
 

「……なんて厄介なことを」
 

俺はあらためてアルクェイドの行動に呆れてしまうのであった。
 

続く



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