なんてことだ。

これは最初からまともな勝負じゃなかったのである。

琥珀さんの気まぐれで全てが決まるものだったのだ。

「……」
 

――俺たちは琥珀さんの掌で躍らされていたのだ。
 

「では、引き分けになってしまったので他の勝負をしましょうかー」
 

俺の感じている恐怖などいざ知らず、琥珀さんは笑顔で次の勝負方法を提案するのであった。
 
 

「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その33











「ねえ、どこまで行くのよ」
「すぐつきますよー。もうしばらくお付き合い下さい」

俺たちはまた道を歩いていた。

次の勝負にはまた場所を移動しなきゃいけないらしいからだ。

「琥珀さん。勝負もいいけど、魚早く仕舞わないとまずいんじゃないかな」

俺はさっき買った食材を両手にぶら下げていた。

まあこれくれいは男として当たり前である。

「はい。ですからそれも解消できる場所を選んでますよー」
「はあ……」

その言葉を聞きながらも俺はなんとなく次の場所の予感がついていた。

何故って、ここはいつも通る通学路なんだから。

ようするに、だ。
 

「では次の勝負はここで行いましょう」
「……なんだ。志貴の家じゃないの」

そう。次の勝負は遠野家でやるらしいのである。
 
 
 
 
 

「はぁ……」

客間に通され力なく腰掛ける。

「琥珀さんの言い分もわかるけどなぁ」

俺は遠野家で勝負なんて反対だった。

秋葉がいるからだ。

遠野家でドンパチなんてやらかしたらたちまち秋葉に酷い目に遭わされるだろう。

でも琥珀さんは「大丈夫ですよ。全て問題なしです」なんて笑っていた。
 

「それに遠野家以外の場所で他の人を巻き込むほうがよっぽど怖いじゃないですか」
 

琥珀さんの言うことは筋が通ってるのである。

さっきの買い物勝負のときも、危うく主婦や子供たちまで巻き込んでしまうところであった。

「……要するに秋葉がここで勝負することを納得してくれればいいんだけどな」

それが一番難しいのである。
 

「何の勝負であろうともわたしは手を抜きませんからね」
「本気出したってわたしには勝てないわよ」

二人は相変わらず俺の心配など知らないといった感じでいがみ合っていた。
 

「失礼いたします」

声と共にドアが開く。

「……翡翠か」
「姉さんから大体の事情は聞きました。苦労されているようですね」
「いや、まあいつものことなんだけどね」

いつものことなんだけどと言えてしまうところが少し悲しかった。

「間もなく姉さんと秋葉さまも参りますので」
「あ、秋葉も来るのかっ?」
「はい。下手に隠してばれるよりも、最初から知らせておいたほうが引きずらないと姉さんは言っていました」
「……う」

それは暗に「屋根裏部屋にアルクェイドさんがいることも話したほうがいいですよー」と言ってたりするんだろうか。

「事と次第によるとは思いますけれど、今回はわたしも同意いたしました」
「そ、そうだよな。事と次第によるよな」

いかん、なんだか付和雷同だぞ俺。

しっかりしなくては。

「お待たせしましたー」

そうして元気ハツラツな琥珀さんの声が響いた。

「ごきげんよう、皆さん」

そして妙に明るい秋葉の声。

背筋に寒気が走る。

怒ってると思ってたのにそんな笑顔で現れるとは実に不気味だ。

琥珀さん、どんな手品を使ったっていうんだろう。

「ちょっと。なんで妹まで出てくるのよ」
「はいはい。アルクェイドさんの言い分ももっともですが、まずはそこにおかけください」
「むぅ」

翡翠と琥珀さんを除いた全員が席へと座る。

「では改めて状況を説明いたしましょうか。志貴さんは有彦さんと遊んで帰宅中、アルクェイドさんとシエルさんに出会ってしまいました」
「……」

アルクェイドもシエル先輩も黙っていた。

まあ大筋は琥珀さんの言う通りである。

正確にはアルクェイドと有彦の家に行った帰りに先輩に出くわした、だけど。

「そこへ出くわしたのが買い物途中のわたしです。わたしはお二人の決着をつけるために公平な勝負方法を提案しました。しかし決着はつかず。遠野家へと場所を移動してきたわけです」
「質問に答えなさいよ琥珀。わたしはなんで妹を呼んだかって聞いてるの」
「黙りなさい。アルクェイドさん。兄さんの帰りを待ち伏せるなんて卑怯の極みですよっ!」

どうやら琥珀さんお得意の情報捏造によってアルクェイドはそんな設定にされているようだった。

「まあまあお二人とも。話を聞いてください。アルクェイドさんとシエルさんは、互いにこの後どちらが志貴さんと過ごすかで争っていたわけですよね?」
「ええ、そうよ」
「……最初はみんなで仲良くと言っていたのにこのバカアルクェイドが譲らないものですから」
「なんですってっ」

きしゃーと先輩を威嚇するアルクェイド。

「落ち着けアルクェイド。話が進まない」

どうどうとアルクェイドをなだめる。

「はい。ですがここで今朝のことを思い出してください。アルクェイドさん、シエルさん。そして秋葉さまで本日誰が志貴さんと過ごすかを争いましたね?」
「はい。ですが遠野君は乾君を選びました」
「う」

先輩の言葉がちくちくと胸に刺さる。

先輩は真実を知っているから尚更である。

「まったく志貴さんってばいけませんよねー。3人の美女の誘いを断ってまで友情を選ぶんですから」
「わ、悪かったよ」

琥珀さんまで俺をいじめる。

「でもそれは約束があったのですから仕方がなかったことではないでしょうか」

そこへ翡翠が俺のフォローを入れてくれた。

まったく翡翠には感謝せずにはいられない。

「はい、翡翠ちゃんフォローありがとうございますー。そうです。約束でしたから仕方がありませんでした。でもでも。もう約束は果たしたんですから問題はないわけですね」
「なるほど。言いたいことがわかりました」

シエル先輩のメガネがキラリと光る。

「どういうことなの?」
「つまり、これからわたしたちでこの後誰が遠野君と過ごすかを争うわけですね」
「そういうことです。勝利したものが兄さんと過ごすことが出来る。わかりやすい形式です」

秋葉は不敵に微笑んでいた。

なるほど、妙に機嫌がよかったのはそのせいか。

「ちなみに俺の意思はどうなるの?」
「はい。ですから志貴さんも参加してくださいね。志貴さんが勝ったら好きな相手を選べるということで」
「……なるほど」

それならばちゃんと俺の意思も尊重されるわけだ。

「それで、何の勝負をするの琥珀」
「はい。ポーカーで決着をつけようと思いますー」
「ぽーかーってなに?」

アルクェイドが尋ねる。

「ポーカーっていうのはな。特定の役を揃えて、強いほうが勝ちっていうゲームなんだよ」
「ふーん。聞いたことあるようなないような感じね」
「簡単ですよ。ルールを説明しますとですね……」

琥珀さんは大雑把にポーカーのルールを説明した。

「……なるほど。でもそれじゃあすぐに終わっちゃうんじゃない?」
「いえいえ。ひとりにつき、コインを12枚差し上げますので。……翡翠ちゃん?」
「はい」

翡翠がそれぞれの目の前に白いコインを12枚づつ置いていく。

「ポーカーは勝てないと思ったら降りてもいいゲームです。ただし参加費を毎回1枚頂きます。チェンジにも1枚。この手はいいなと思ったらコインを上乗せしても結構です」
「……」

最後に翡翠は空いている席2つにもコインを置いていた。

「翡翠。そのコインはなに?」

秋葉が尋ねる。

「わたしと姉さんのぶんです」
「な?」
「えっ?」
「ちょ……どういうこと? 琥珀っ!」

全員の視線が琥珀さんへと集中した。

「わたしと翡翠ちゃんだけ仲間外れはずるいですよ。せっかくですし、志貴さん争奪戦に参加させてくださいな」
「……なるほど。結局のところ、あなたはそこへ運んで行きたかったんですか」

琥珀さんを睨みつけるシエル先輩。

「上等じゃないの。あなたごとき、大した敵じゃないことを教えてあげるわ」

アルクェイドも敵意丸出しだった。

「ふふふ。それは力ではわたしは勝てませんけれどね。ポーカーでは果たしてどうなるでしょうか?」
 

今ここに、俺を賭けた壮絶なバトルが始まろうとしているのであった。
 

続く



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