「わたしと翡翠ちゃんだけ仲間外れはずるいですよ。せっかくですし、志貴さん争奪戦に参加させてくださいな」
「……なるほど。結局のところ、あなたはそこへ運んで行きたかったんですか」

琥珀さんを睨みつける先輩。

「上等じゃないの。あなたごとき、大した敵じゃないことを教えてあげるわ」
「ふふふ。それは力ではわたしは勝てませんけれどね。ポーカーでは果たしてどうなるでしょうか?」
「このわたしに小細工は通用しませんよ」
「……」
 

今ここに、俺を賭けた壮絶なバトルが始まろうとしているのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その34











「それではカードを切らせていただきますねー」

華麗にカードをシャッフルする琥珀さん。

「まるでマジシャンみたいだな」
「あはっ。マジカルアンバーと呼んで下さい」
「……いや、それだとなんか酷い目に遭いそうだからやめとく」

タテにシャッフル、ヨコにシャッフルとカードが生き物のように動く。

「はい。こんなものでいかがでしょうか」

そして最後にカードがひとつに重なった。

「無駄なことですよ」
「そうね。無駄なことだわ」

それを見て先輩とアルクェイドがそんなことを言った。

「……どういうことですか?」

疑惑の目で二人を見る秋葉。

「妹。上から何番目でもいいわ。自分の好きなところのカードをめくってみなさい」
「何を言ってるんですか。まったく……」

溜息をつきながらもカードをめくる秋葉。

「当ててみましょうか。ハートの6」
「なっ……?」

秋葉の表情が変わる。

「あ、秋葉っ? 合ってるのか?」
「え、ええ。でも、なんで……」

秋葉がみんなに見えるようにカードを裏返した。

確かにハートの6。

「続けて言ってあげましょう。スペードの5。ダイアのクイーン。スペードのジャック、ハートのエース」
「そ、そんなまさかっ?」

俺も慌ててカードをめくる。

なんと、先輩の言ったカードも全部合っている。

「ど、どういうことなんですかっ!」
「簡単なことですよ。シャッフルする瞬間のカードを見て覚えただけです」
「んなっ……」
「そういうことよ。わたしにもシエルのバカにもそれくらいの芸当は出来るってこと」
「一言余計なんですよ。あなたは」
「……」

改めてこの二人が常軌を逸しているかを実感してしまう。

「あはっ。それはなかなかすごいですねー。でも、それはカードを切るときに見えないように気をつければいいだけですよ」

二人の言動をまるでごく普通のことのように言う琥珀さん。

やはりこの人も恐ろしい。

「わかってないわね琥珀。これからあなたがイカサマをするのが簡単じゃないって警告してるのよ」
「えー? もうわたしイカサマをすることが確定してるんですか?」

酷いですよーと泣きまねをする琥珀さん。

「この中で一番危険なのはあなたですからね。用心に越したことはありません」

先輩はいたって冷静だった。

「……うう。ニブチンの志貴さんや意外と隙だらけの秋葉さまのようにはいかないってことですか」
「ちょっと琥珀。今聞き捨てならない言葉が入ってた気がするけど?」

琥珀さんを睨みつける秋葉。

しかもさりげなく俺への悪口も入ってた気がする。

「気のせいですよー。じゃあ、こうしましょう。わたしではなく翡翠ちゃんにカードを切ってもらいます。それならいいですよね?」
「ええ。翡翠ならいいでしょう」
「琥珀よりは全然信用できるもんね」
「その通りです」
「うう、みんな酷いですよー」
「ではわたしが切らせていただきます」

再び泣きまねをする琥珀さんを完全無視して翡翠はカードを切り始めた。

「……」
「……」

またカードを隙間から暗記しようというのか、アルクェイドと先輩はじっと翡翠の動向に見入っていた。

「うーん」

俺はそんな人外のことは出来ないので適当に切り終わるのを待つことにした。
 

「これでどうぞ」

そして翡翠がカードを中央に置く。

「よし。さっそく勝負だな」

俺は頬を叩いて気合を入れた。

「……で、どうするんだっけ」

べしゃっ。

秋葉がマンガみたいなずっこけかたをしていた。

「兄さんっ! 本気で言ってるんですかっ?」
「だ、だってポーカーなんて滅多にやらないじゃないかっ!」
「あはっ。ポーカーは何かを賭けないとつまらないですからねー。今回は志貴さんというお宝がかかっています。皆さん萌え萌え間違いなしですからね」

言葉だからわからないけどなんとなく字が間違っている気がする。

「まずは親を決めるために1枚づつカードを引きます」
「じゃあわたしいっちばーん」

アルクェイドがさっそくとばかりに1番上のカードを取る。

「まったく。こういうのは早ければいいというものではないですよ」

と言いながらも2番目にカードを取る先輩。

「ではわたしも……」

3番手が翡翠。

「親になれれば有利ですしね……」

4番秋葉。

「……えーと」

あとは俺と琥珀さんだけだ。

「志貴さんお先にどうぞ」
「あ、うん」

言われてカードを取る。

「では最後にわたしですねー」

最後に琥珀さん。

「それではカードオープン!」

全員がカードを前に出す。

アルクェイドが3。

シエル先輩が11。

翡翠が7。

秋葉が4。

そして俺が12。
 

琥珀さんが――13。
 

「あはっ。わたしが親のようですねー」
「ちょっと! 琥珀! また何かイカサマをしたでしょう!」

怒鳴る秋葉。

「何を仰っているんですか秋葉さま。カードを切ったのは翡翠ちゃんです。わたしにはイカサマなんて出来ませんよー」

秋葉をさらに逆上させるように笑う琥珀さん。

「まあまあまあまあ。とりあえず話が進まないからやるだけやろうよ。な?」
「むう……兄さんがそう言うのでしたら」

ああもう、親を決めるだけでこれじゃあ先が思いやられる。

「では今のカードを混ぜて翡翠ちゃんに切ってもらって……」

親決めのカードを戻し、もう一度カードが混ぜられる。

「皆さん準備はオッケーですね? ではオープン・ザ・ゲーム。ゲームを始めますよー」

琥珀さんはそう宣言し、時計回りにカードを配り始めた。

「わたし、翡翠ちゃん。秋葉さま、志貴さん、アルクェイドさん、シエルさん、わたし……」

ぱたぱたとそれぞれの前にカードが重ねられていく。

2枚目……3枚目。

「アルクェイドさん、シエ……」

ガシイっ!

「わわっ?」

すると、シエル先輩が自分のところにカードを配る寸前の琥珀さんの指を捕んでいた。

「琥珀さん。これからのイカサマは見逃さないと言ったはずですが……」

先輩は淡々とした様子でそんなことを言う。

「ええっ? イ、イカサマをやってる素振りなんて見えなかったけど?」
「遠野君。琥珀さんの左手に持っているカードをよく見てください」
「えっ……あっ!」

琥珀さんの左手に持ったカードは、2枚目のカードが大きくはみ出ていた。

「今琥珀さんは1番上のカードではなく2枚目のカードをわたしに配ろうとしていました。そして1番上のカードは次の琥珀さんのところにいく仕組みですね」

先輩は1枚目のカードと琥珀さんのカードをめくって置いた。

「あっ……10のスリーカードが出来てる」

なんと琥珀さんは1枚目と合わせて既にスリーカードが完成していたのである。

どうも気付かない間に何かイカサマをしていたようだ。

「ひ、酷いですね……指が折れちゃうかと思いましたよ」
「いえいえ慈悲深いですよ。教会では嘘は重罪ですから。指を折らなかっただけよしと思ってください」

先輩が何気に怖いことを言っている。

「……やっぱり琥珀に親をやらせること自体間違いだったんですよ」

むくれている秋葉。

「えーん、えーん」

なんかもうつっこむ気ににもならないほど嘘っぽい泣きまねをしている琥珀さん。

「あーもう。じゃあアルクェイドに配ってもらおう。アルクェイドだったらイカサマなんて思いつかないだろうからさ」

埒があかないので俺はそう叫んだ。

「……そうしましょうか。このバカなら安全そうです」
「誰がバカよ誰が」
「ではアルクェイドさんが配りなおしということでもう一度始めますか……」
「むー」

アルクェイドがカードを手に取る。

「待ってください」

そこへ翡翠が声をかけた。

「な、なに? どうしたの翡翠ちゃん」

そう尋ねる琥珀さんの声はどことなくあせっているように聞こえた。

「ずっと黙っていましたが……もう我慢できません!」
「ひ、翡翠ちゃん!」

珍しく声を張り上げる翡翠。

そしてそんな翡翠を見てさらにあせった様子の琥珀さん。

「……うーん」
 

ちっとも勝負が先に進まないのであった。
 

続く



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