「じゃあまあとりあえず最初ってことで親は俺で……いいね?」
「構いません」
「兄さんならば」
「イカサマは出来なさそうですが駆け引きなら負けませんよー」

いつの間にやら琥珀さんも復活していた。

「教会のルールに背いていいのかしら?」
「これはわたし個人としての勝負です。教会は関係ありません」

あいからわずいがみ合う先輩とアルクェイド。
 

「じゃあ改めて……オープン・ザ・ゲームだ」
 

ようやっと勝負の開始である。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その36








俺はまずカードをくるりと円形に並べた。

「なんでそんな置きかたするの?」
「インディアンポーカーは上から順番じゃなくて好きなところからカードを取っていいゲームなんだよ」
「なるほど」

俺は適当なところからカードを1枚引いた。

テーブルに伏せたままで、数字は見ない。

「カードを引く順番は親から時計回り。アルクェイド、シエル先輩、琥珀さん、翡翠、秋葉の順番だ」
「なんでわたしが最後なんですかっ」

秋葉が不満そうな声を上げる。

「……いいだろ、別に早く引けばいいってゲームでもないんだから」
「むう……」

ふくれっつらの秋葉。

「じゃ、おっ先にー」

アルクェイドがカードを取る。

「見るなよ。そのまま伏せておけ」
「わ、わかってるわよそれくらい」

とか言いながらも危うくカードをめくる寸前であった。

「まったくアルクェイドときたら……」

先輩が溜息をつきながらカードを取る。

「だ、だからめくっちゃ駄目なんですってば!」
「うっ」

シエル先輩までカードをめくりそうであった。

どうにもトランプってやつは引いた後数字を見たくなってしまうものなのである。

「あはっ。わたしはめくったりしませんよー」

中央付近からカードを抜き取る琥珀さん。

「失礼します」

端のほうを取る翡翠。

「やっとわたしの番ですか……」

そうして最後に秋葉がカードを引く。

「よし。みんなカードを引いたな。じゃあ参加費を1枚払ってくれ」
「了解」

ぱらぱらと中央にコインが置かれていく。

「参加費に志貴さんを1枚。……ふふふ」
「……」

意味としては合ってるんだろうけどなんだか複雑な気分である。

「じゃあみんなカードを見ないようにおでこあたりにかざして」

みんなに表が見えるようにしてカードをかざした。

「……」

全員がきょろきょろとそれぞれのカードを確認している。

秋葉は3。相手にならない。

翡翠は11。かなり強い。

琥珀さんは7。微妙な強さだ。

先輩は8。これも微妙。

そして最後にアルクェイドが……A。

いきなり最強のAを出すなんてずいぶんな強運である。

「みんな、それぞれのカードを確認したね?」
「ええ。問題ないわ」
「皆さんなかなか強いカードをお持ちのようで……」
「これは難しいですね」

それぞれに何かしらの思惑を含んだような言葉。

「……」

俺は全員の表情から自分のカードの数字がどれくらいなのかを予想することにした。

「賭け金を増やす人はレイズ、そのまま勝負する人はコール、降りる人はドロップっていって降りてくれ。降りた人は自分のカードを確認していい」

しーん。

誰も動かない。

うーん、みんなやり方がよくわかってないからしょうがないのかもな。

「ここは駆け引きの時間なんだ。互いに話し合って自分のカードがいくつくらいなのか予想して、勝てると踏んだらレイズとかコール。無理だと思ったら降りればいい」

俺はそう言って動くことを促した。

「なら、質問させていただきます」

すると翡翠が口を開く。

「なに? 翡翠」
「相手の数字を告げて、降りるように薦めるのはルール違反でしょうか?」
「……ん、いや、別にルール違反じゃないよ。その数字が嘘かもしれないからね。そういう作戦もありだ」

それはかなり効果的な作戦なのである。

真実を言っても嘘を言っても効果的。

相手の心理を揺さぶることが出来るのだ。

「なるほど……。秋葉さま」
「な、なにっ?」

翡翠に声をかけられ、秋葉がびくついた表情をする。

「秋葉さまのカードは3です。勝てるとは思えないので降りたほうがよいと思います」

翡翠の言っていることは事実だ。

秋葉のカードは3である。

だが。

「そ、そんな言葉に騙されませんよっ。ほんとは私のカードは強いんでしょう? 私に勝てないと思うからそんなことを言うんですっ!」

そう、そんなことを言われて信じるやつはいない。

「秋葉さま。本当ですよー。降りたほうが懸命ですっ」

ここぞとばかりに琥珀さんも乗じて秋葉を攻撃し出す。

「そ、そんな誘惑に負けませんよっ! ……兄さん! レイズですっ! 1枚増やしますっ!」
「……い、いいのか?」

秋葉のカード、3が勝てるのは2だけなのである。

「構いませんっ。私は騙されませんよっ!」
「……そうか」

この辺が秋葉がカードゲームに弱いと思われる原因だと思う。

要するにまるっきり人の意見を聞かないのだ。

まあそこにはもう何も言わないことにする。

「んじゃ秋葉がレイズしたからみんな1枚づつコインを出してくれ」
「何でよ。妹だけが出せばいいんじゃないの?」

アルクェイドが顔をしかめていた。

「いや。このまま賭けに参加するやつは出さなきゃいけないんだ。出したくなかったら降りればいい」
「降りた場合、参加費はどうなるんです?」
「帰ってこないよ。もしこのままコールして秋葉が勝った場合、中央にあるコインが全部秋葉ものになる」
「……なるほど。多くかけたら多く取られるリスクを持つ代わりに得られるコインも多くなるわけですか」

先輩が神妙な顔つきをしていた。

「だからコインを多く賭けて降ろさせる作戦もアリだ。それで負けちゃったら全部無くなっちゃうけどさ」
「ハイリスクハイリターンですねー」

琥珀さんはなんだかわからないけどやたらと嬉しそうである。

根っからのギャンブラーなんだろうか。

「さあ。降りる人はいない?」

俺はみんなに尋ねた。

「わたしは降ろさせていただきます」

翡翠はそう言ってカードを降ろした。

「そっか」

翡翠の判断は懸命ともいえる。

もしこのまま掛け金が増えていって、誰も降りなかったとしたら、勝利するのはアルクェイドである。

何故なら最強のカードであるAを持っているのだから。

アルクェイドが降りないと踏んだらすぐに降りたほうがいいわけである。

俺ももう少し様子を見たら降りると思う。

「じゃあ翡翠は自分のカードを見ていいよ」
「はい」

翡翠は自分のカードを見た。

「やはり懸命な判断だったようです」

そうして安堵の息を漏らす。

翡翠のカードではアルクェイドに勝てなかったから、それでよかったのだ。

「降りたって言っても、他の人の邪魔をするのはアリだから。いろんなこと言っちゃっていいよ」
「かしこまりました」

降りた人間はもう何にもデメリットがないのでかなり好き勝手なことを言えるのである。

実はさっさと降りてそれをやっていたほうが面白いという説も。

「他にはいない?」

俺はもう一度尋ねた。

「まだ思考中です」
「考えたって無駄よバカシエルー」
「黙っててくださいっ」

先輩はかなり真剣な表情であった。

どうも考えすぎて自滅するタイプのようである。

「はぁ。じゃあ琥珀さんは?」
「わたしも保留中ということでー。ほんとにいいんですかー? 秋葉さま」
「しつこいわねっ! あなたこそ降りたらどうなのっ?」
「わたしはまだ勝てると思っていますしー」

ころころと笑っている琥珀さん。

「……うーん」

考える時間に制限時間をつけたほうがよかったなあ。

これじゃあキリがない。

「みんな賭けないの? じゃあわたしレイズするよ?」

するとアルクェイドがそんなことを言った。

「そうか。何枚賭ける?」
「5枚」
「ぶっ」

思わずひっくり返りそうになってしまう。

「……マジで5枚?」
「うん。大マジ」
 

そう言い切るアルクェイドは妙に自信満々なのであった。
 

続く



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