「みんな賭けないの? じゃあわたしレイズするよ?」

するとアルクェイドがそんなことを言った。

「そうか。何枚賭ける?」
「5枚」
「ぶっ」

思わずひっくり返りそうになってしまう。

「……マジで5枚?」
「うん。大マジ」
 

そう言い切るアルクェイドは妙に自信満々なのであった。
 
 


「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その37














「わ、わかった……じゃあ、5枚で。5枚賭けたやつがいるからレイズはストップだ。あとはコールかドロップかだけになるけど、どうする?」

しかしみんなは黙ったままである。
 

「な、なんなんですかその自信はっ……」

やがて沈黙に耐えきれなかったように秋葉が叫んだ。

「アルクェイド。あなた何かしましたか?」

シエル先輩が尋ねる。

「何をしたって……なんのことかしら?」

首を傾げているアルクェイド。

「……」

俺はアルクェイドを知っているからよくわかる。

こいつは別になんか自信があるわけじゃあないのだ。

単にたくさん賭ければたくさん戻ってくるなーっことだけを考えてるだけなんだろう。

自分のカードが強いカードかとか、負けたら全部取られるとかそういうことをさっぱり考えてないのだ。

たまたま今回に限って最強のカードが出てしまっただけであって。

「とぼけないでくださいっ! その自信……あなたまさかカードのすり替えをしましたねっ!」
「……いえ、それはあり得ませんよ。わたしと琥珀さんに気付かれずにそんなことをするなんて」

秋葉と対称的にやたらと先輩は冷静である。

さすがにアルクェイドのことをよく知っている。

「さて、どうするのみんな。降りるの? やるの?」

自分で5枚賭けたくらいなんだから当然アルクェイドは降りない。

「……降ろさせていただきます」

堅実無難、先輩は素早く身を引いた。

「先輩はドロップね。……俺も降ろさせてもらうよ」

俺もカードを降ろした。

「げっ」

なんと俺の数字もA。

同点の場合、親が勝利なので掛け金は全部俺のものになったわけである。

くそう、惜しいことをした。

「あはっ。志貴さんプレッシャーに負けちゃいましたねー」

にこにこ笑っている琥珀さん。

「俺はそんな度胸ないからね……琥珀さんはまだやるの?」
「まさか。降りますよー」

琥珀さんもドロップ。

「じゃあ残ったのは秋葉とアルクェイドか……」

最弱のカードを持った秋葉と最強のカードを持ったアルクェイドの勝負。

なんだか秋葉がかわいそうでもあった。

「……私は降りませんよ」

ぽつりと秋葉が呟く。

「あ、秋葉?」

秋葉の目はマジである。

「わたしと勝負するっていうの? 妹」
「当然です。遠野の党主たる者があなたごときに屈するわけにはいきません」
「秋葉……悪いことは言わないから止めておけよ。な?」
「そうですよー。降りたほうがいいですよー」
「秋葉さま。そのほうが懸命です」

3人で秋葉を説得にかかる。

「何を言ってるんですか。このままではアルクェイドさんに勝たれてしまうんですよっ? それでいいんですかっ?」
「秋葉さん。時には大きな力に立ち向かう勇気も必要です。……ですが力無き勇気は無謀というんですよ。止めたほうが懸命です」
「せ、先輩までそんな情けないことを……どうしてしまったんですかみなさん!」

秋葉はちっとも譲ってくれなかった。

それどころか俺たちを怒り出す始末である。

「断固わたしはコールしますっ」

そう言ってコインを中央に投げた。

「……本当にやるのか」
「当然ですっ。アルクェイドさんのカードは1なんですよ? たとえどんなカードだろうと負けませんっ!」

をい。

「……あ、秋葉さま……」

翡翠はなんとも言いづらそうに顔を伏せている。

「あはっ、あははははは……」

琥珀さんは完全に苦笑していた。

「……な、なんですかっ?」

さすがに戸惑った表情をする秋葉。

「秋葉さん。これ、もう一度読んだほうがいいと思いますよ?」

シエル先輩が秋葉に俺の書いたルール一覧を見せる。

特に『Aが最強で2が最弱だが、Aは2に負ける』のところを指差して。

「い、1って最も弱いんじゃないんですか?」
「いや、だから最強のカードなんだって」
「……こほん」

わざとらしい咳払いをする秋葉。

「仕方ありませんね。降ろさせていただきます」

そうして照れくさそうにそんなことを言った。

「いや、もうコールしたから無理」
「そそそ、そんなっ?」
「そうですよー。遠野の当主でしたら一度言ったことを最後まで守ってくださいねー」

琥珀さんは笑顔で中央のコインをアルクェイドのほうへと移動させた。

「あれ? わたしの勝ちでいいの?」

アルクェイドはきょとんとしている。

「……ああ。おまえの勝ちだよ」
「ふーん。なんだか実感沸かないけど、いいや」

なんだか秋葉の自滅で漁夫の利を得たアルクェイドであった。
 
 
 
 

「んじゃー第2回戦ね」

アルクェイドが勝利したので親となり、カードを切っている。

「……ふ、ふふふ……」

秋葉はなんだか燃え尽きてしまっていた。

「秋葉さまー。そんな落ち込むことはありませんよー。ルールをよく見てなかったのがいけないんですからー」
「琥珀さん、それ全然フォローになってない」
「あはっ。そうでもないですよ」
「……」

なるほど、秋葉は怖い目で琥珀さんを睨んでいる。

「琥珀……あなたも死んでもらいますからね」
「うわー、秋葉様が怖いこといってますよー」

さすがは琥珀さんである。

秋葉はもう復活してしまった。

「秋葉、大丈夫か?」

一応心配なので尋ねてみる。

「ええ。今の負けを取り戻さなくてはいけませんからね。大丈夫です。次は負けません」
「そうか」

と言っても秋葉は今の負けで7枚もコインを失ってしまっているのだ。

次に誰かがコインを大量に賭けた場合、秋葉は窮地に立ってしまうのである。

「はい。切り終わったわよ。好きなところから取ってね」

一方勝ちによって16枚のコインを得たアルクェイドは余裕綽々だった。

まあ、こいつはいつでもそうだけど。

「ではわたしが」

アルクェイドの隣のシエル先輩がカードを引きぬく。

「何が出るかな、何が出るかな、ふふっ……」

どこかで聞いたフレーズを言いながらカードを引きぬく琥珀さん。

「……」

翡翠は相変わらず静かである。

「今度こそ……負けませんからね」

完全に熱中してしまっている秋葉。

「……はぁ」

俺も適当にカードを引きぬく。

「それじゃいいわね? カードオープンっ」

そして全員がカードを頭の上に掲げた。

「う」
「えっ?」
「……?」
「あ、あれっ?」

そしてそれぞれが驚きの声を上げている。

無理もないだろう。

俺もかなり驚いていた。

こういうときに、運命の女神っているのかなあと思う。
 

7、7、7、7。
 

ほぼ全員のカードが7なのであった。
 

続く



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