「それじゃいいわね? カードオープンっ」

そして全員がカードを頭の上に掲げた。

「う」
「えっ?」
「……?」
「あ、あれっ?」

そしてそれぞれが驚きの声を上げている。

無理もないだろう。

俺もかなり驚いていた。

こういうときに、運命の女神っているのかなあと思う。
 

7、7、7、7。
 

ほぼ全員のカードが7なのであった。
 
 


「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その38







「……これは……」

特に驚いているのは秋葉だ。

7のカードを持っているのはアルクェイドに先輩、翡翠に琥珀さん。

つまり俺と秋葉だけが7が揃っていることを認識できるのである。

そして秋葉のカードは9。

俺のカードはいくつだかわからないが、とりあえず見える中では秋葉が1番強いことになる。

「……」

それから気になることがひとつ。

「志貴さま……」

なんだか翡翠がものすごく気の毒そうな顔で俺を見ているということだ。

そんなに俺のカードが酷いのだろうか。

「えーとなんだっけ。レイズかコールか降りる人いる?」

アルクェイドがやや首を傾げながらみんなに聞いた。

「わたしはレイズします」

真っ先に動いたのは先輩。

「ふーん。何枚?」
「2枚で」

参加費に加え、2枚のコインが中央に置かれる。

「むー……」

複雑な顔をしているアルクェイド。

「どうしたものでしょうかねー……」

それは琥珀さんも同じであった。

それぞれが7を持っているから全ての7が出ているとはわからないだろうけど、7が3つも場にあるのが見える。

これはかなり微妙だ。

7はそんなものすごい強いカードではないけれど、もしかしたら勝ってしまう可能性のあるカードなのである。

勝つか負けるかの確率はほぼ5割。

この状況でコインのレイズに乗るのは、なかなか勇気のあることだと言える。

「……くっ……」

1番悩んでいるのは秋葉であった。

秋葉のコインは残り5枚。

つまりコインを5枚賭けた時点で秋葉は勝たなければおしまいなのである。

「むう」

兄として、ここは秋葉のサポートをしたい。

しかし秋葉は人の忠告なんて聞いてくれないのだ。

「上等じゃない。わたしは乗るわよ」

するとアルクェイドがコインを投げようとしていた。

「待てよアルクェイド。おまえは親だろ? 親は子が決めるまで駄目だっての」
「えー? 志貴だってさっきすぐ降りたじゃないの」
「ちゃんと全員に聞いてから降りただろ。みんなに聞け」
「むー。じゃ、翡翠。あなたどうする?」

さっそくとばかりに聞きやすそうな翡翠に尋ねるアルクェイド。

「わたしは……」

翡翠はちらりと俺の顔を見た。

「……」

俺はなんともいえないので首を振った。

「……まだ、考え中です」

しかしなんで翡翠は顔を赤くしているんだろう。

「そっか。琥珀、あなたは降りたほうがいいんじゃない?」

続いてにやりと笑いながらそんなことを言うアルクェイド。

本能的に琥珀さんが強敵であるということを悟っているらしい。

「えー。なんで降りなきゃいけないんですかー。嫌ですよー。秋葉さまを陥れる千載一遇のチャンスなんですからー」

ぴくりと秋葉のこめかみが動く。

「ならレイズに乗るのよね? 琥珀?」

秋葉は琥珀さんを睨みつけた。

「え? うー、わ、わかりました。乗りますよっ」

琥珀さんがコインを投げる。

「……よし、俺も乗るぞ」

俺も続けてコインを投げる。

「え? 志貴やるの? 本気?」

するとアルクェイドが素っ頓狂な声を出した。

「遠野君は降りたほうがよかったと思いますが……」

先輩までそんなことを言ってくる。

「う……」

俺のカードはそんなに酷いカードなんだろうか。

「い、いやっ、レイズしたんだから俺は降りないぞっ」

もうコインを出してしまったんだから後には引けない。

「……ではわたしも……やらせていただきます」

俺がそう言い切ると、翡翠もコインを投げた。

「あれ……誰も降りないの?」

アルクェィドが信じられないといった声を上げる。

「えーと、あ、そうだ。妹。妹はどうする?」
「……く」

秋葉は勝てば大量のコインを得られる。

だが負ければ大量のコインを失う。

「……」

秋葉は俺のほうを見た。

秋葉のカードはわからない俺のカード以外の中では1番強い。

「やってみろよ、秋葉」

だからとりあえずそう言ってみた。

「……兄さん」

信じていいんですね?

秋葉の目線はそう言っていた。

ああ。

俺も頷いて返した。

「ではわたしも払います。……そしてコールします!」

秋葉は勢いよくコインを投げ入れ、コールを宣言した。

「……コール?」

アルクェイドはきょとんとしている。

「コールされたらもうコインを誰もかけることが出来なくなるんだ。乗るか降りるかだけ」
「あー。なるほど。わたしは乗るわよ」

相変わらず無駄に自信満々のアルクェイド。

しかし今回のアルクェイドのカードでは秋葉には勝てない。

「わたしも乗りますよ」

先輩もやる気満々だが秋葉には勝てない。

「あはっ。秋葉さま覚悟は宜しいですかー?」

琥珀さんも降りる気はないようだけど秋葉には勝てない。

「……降ります」

翡翠は降りた。

翡翠も勝てないカードだったので降りて正解である。

「志貴は?」
「え?」

そうだ、あと乗るか降りるか選んでないのは俺だけだ。

「……」

秋葉をじっと見る。

「兄さん……」

俺のカードはいくつだかわからない。

もしかしたら秋葉に勝っているかもしれないし、負けているのかもしれない。

だが、ここは。
 

「俺は……降りる」
 

ここは秋葉に勝利をゆずってやることにした。

秋葉、幸せになってくれよっ。
 

「ふ。臆病なんですね、兄さんは」
 

なんだか譲ってやった自分が悲しくなった。
 

「じゃあ……勝負っ!」
 

秋葉を除いた全員が7で、秋葉が9なので当然秋葉の勝利である。

ちなみに俺のカードは4だった。

降りなきゃ負けてたわけである。

「ふ、ふふふふ。所詮あなたたちはその程度の存在だということですね。遠野の当主に屈する運命なんです!」

秋葉は窮地を乗り越えてしまったもんで、ずいぶんと自信過剰になっていた。

ああ、素敵な性格に育ってくれて兄さんは悲しいぞっ。

「むーっ。調子に乗ってくれちゃって。次は負けないわよっ!」
「ふん。負け犬の遠吠えもいいところですね。いえ、負け猫ですか?」
「あはっ……秋葉さま、三日天下という言葉を教えてあげますよ〜」

そうしてしばらく白熱したバトルが続いていった。

で。
 
 
 
 

「わたしの……勝利のようですね」
「な、なんで……?」
「お、おかしいわよ絶対っ」
「ひ、翡翠ちゃ〜ん……」

何度目かの勝負の後のコイン数。

誰もこんな事態になるなんて予想していなかっただろう。
 

アルクェイド 4
シエル先輩  9
秋葉     4
琥珀さん  11
俺      6
翡翠    38
 

ダントツで翡翠が勝っているのであった。
 

続く



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