「ではでは作戦会議ですよ。みなさんこちらへ集合してください。あ、翡翠ちゃんと志貴さんは駄目ですよ〜?」

琥珀さんはそう言って部屋の端へと移動し、アルクェイドと秋葉、先輩もそっちへ移動して何やら話し始めた。

「……なんだぁ?」
「さあ……」
 

残った俺と翡翠で顔を見合わせてしまうのであった。
 
 



「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その40











「はい、お待たせしましたー」

しばらくして琥珀さんたちが戻ってきた。

「ふふふ……」

おまけに秋葉なんかはやたらと不敵な表情をしてたりする。

「琥珀さん……何を企んでるの?」
「いえいえー。特に難しいことは考えていませんよ。非情にシンプルなものです」
「む」

しかし世の中シンプルなトリックほどわかりにくいって言うしな。

「ただ、これを実行するには親である翡翠ちゃんの同意が必要ですね」
「ルールの改変ですか?」
「はい。賭けるコインの枚数を上限をなくして欲しいんですよ」
「上限をなくす……か」

それをやると、持ちコインを全額賭けて一瞬で勝負が終わったりしてしまうので長時間ゲームをやる場合には適していない。

だけど今はすぐにゲームが終わって欲しいのだ。

その提案はなかなかいいかもしれない。

持ちコインが0になってしまえば諦めもつく。

「わたしは別に構いませんが」

翡翠は相変わらず冷静な調子でそんなことを言った。

「そう。ありがとね翡翠ちゃん。お姉ちゃんは嬉しいわっ」

琥珀さんは翡翠に手を伸ばしてなでなでしている。

「ね、姉さん……」

少し頬を赤らめる翡翠。

「いいから早くカードを広げなさいな」

秋葉がむっとした顔でそんなことを言う。

「……かしこまりました」

翡翠は冷静な表情に戻ると、カードを素早く切って円形に広げた。

「では秋葉さまからカードをお取り下さい」
「ふ」

そこで妙に意味深な笑みを浮かべる秋葉。

「私はパスします。兄さんから先にどうぞ」
「パスって秋葉……7並べじゃないんだから」
「いいんですよ。さあ兄さんは引いてください」
「はいはい。わかったよ」

俺は適当なところからカードを抜いた。

「じゃ、わたしも引かせてもらうわ」

カードをすっと引きぬくアルクェイド。

「……わたしはパスします」

シエル先輩は秋葉と同じようなことを言った。

「姉さん。どういうことですか?」

琥珀さんがカードを抜く番になったところで翡翠が尋ねる。

「あはっ。まあそう急かさないで下さいよー。全てはビックファイアのためにです」
「な、なにそれ?」

よくわからないことを言う琥珀さん。

「いえいえ、わたしの尊敬する策士さんの言葉でして。気になさらないで下さいな」
「そ、そうですか」

まあ敢えて深くは突っ込まないことにする。

「というわけでわたしもパスです。翡翠ちゃんどうぞ」
「はあ……」

多少困惑気味のまま翡翠がカードを抜いた。

「はい。ストップです」

そしてそこで琥珀さんが声をかける。

「ストップって……まだ秋葉も先輩も琥珀さんもカード取ってないじゃないか」
「はい。取っていませんよ。多少ルールを変えると言ったじゃないですかー」
「姉さん。もったいぶらずに話してください」

翡翠は少し眉を潜めていた。

「はいはい。今この場には志貴さんとアルクェイドさん、それから翡翠ちゃんのカードがありますね」
「うん。あるけどそれが?」
「わたしたちはこれからこれだ、と思うカードに持ちコインを全て賭けさせていただきます」
「……え?」
「ですから、アルクェイドさん、志貴さん、翡翠ちゃんのカードどれかにコインを賭けます。そのカードに命運を託すわけですね」
「……いいの? それで」

秋葉や先輩に尋ねる。

「多少不愉快ですが、そのルールにするしかないですしね」
「3人寄れば文殊の知恵とも言いますし」

烏合の集ということわざもあるが言わないことにする。

「皆さんそれで宜しいのですか?」
「ええ」
「はい」
「まあ、しょうがないわね」

皆さん乗り気である。

「わかった。俺ももうそれでいいよ」

逆らうと後が怖そうだし。

「わかりました。ではそのルールで……みなさん、カードを頭の上に」
「ストップ!」

今度はアルクェイドが叫んだ。

「なんだよアルクェイド。まだあるのか?」
「ええ。……カードはこのままでいいわ」
「なんだって? 今なんて言った?」

カードはこのままでいいとか聞こえたけど。

「カードはこのままでいいと言ったのよ。どうせみんなコインを賭けるんでしょ。相手のカードを見て判断する必要はないわ」
「い、いや、それはそうだけど……」
「それはそうとシエル。頼みがあるんだけど」
「なっ!」
「えっ!」

秋葉までもが声を上げる。

「あ、アルクェイド、何を言っているんだ?」

あのアルクェイドが先輩に頼みがあるだって?

「頼み……なんですか?」
「ええ。ちょっとね」

アルクェイドがシエル先輩に何か耳打ちをする。

「……わかりました」

そして頷く先輩。

「翡翠。わたしは持っているコイン7枚全てを賭けるわ。そしてさらに……」

アルクェイドは先輩のほうのコインを取った。

「シエルのコイン全部を賭ける!」
「な、なんだって!」

アルクェイドと先輩のコイン。合わせて18枚である。

「そそそ、それでいいんですかっ?」

慌てて先輩に尋ねる。

「……遠野君。翡翠さんは確かに強敵です。派手さはないですが、堅実さと冷静な判断力がある。そして認めたくはありませんがアルクェイドにはここぞというときの運があります。翡翠さんに勝つにはその運を利用するほかないでしょう」
「そ、そんな……」

これはもしかすると、アルクェイドのカードに俺以外の全員が賭ける作戦なんだろうか。

だとすると翡翠のコイン数に対抗できる可能性はあり得る。

「そうですか」

翡翠は相変わらずな表情で先輩を見ていた。

「わかりました。18枚賭けましょう」

そして賭け金をあっさり承諾する翡翠。

「しかしさらに……6枚のコインを賭けます。24枚です」

しかも大胆発言である。

「で、でも翡翠。もうアルクェイドもシエル先輩も全部賭けたんだ。もう賭けるものなんかないだろ?」
「いいえ。あります。秋葉さまのコインが」
「あ」
「……」

言われて顔をしかめる秋葉。

「秋葉さまがアルクェイドさんのコインに賭ければいいだけのことですが、どうします?」
「わかったわ。妹のコインも賭けましょう」
「ちょ、ちょっと! 何を言っているんですかアルクェイドさん!」

そこで秋葉が驚愕の声を上げる。

おかしい。

秋葉はさっき琥珀さんたちと一緒に作戦を話していたはずだ。

もし仮に全員がアルクェイドにコインを賭けよう作戦をやることになっていたならば、秋葉はここで驚いたりしないはずである。

秋葉は演技なんて出来るほうじゃない。

どういうことなんだろう。

「アルクェイドさん。それはちょっと勝手すぎるんじゃないですかねー?」

琥珀さんもそんなことを言っている。

いや、琥珀さんの言葉は信じないほうがいいのか。

それとも。

「勝手すぎるかしらね」

悩んでいる俺とは対称的に、余裕の表情のアルクェイドはそう言ってジュースをひとくち飲んだ。

「……ジュース?」

なんだそれは。

「ア、アルクェイドっ! そ、そのジュースっ! いつの間にっ!」
「ふふふ」
 

アルクェイドは不敵に笑うのであった。
 

続く



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