「志貴さま、どうなさいますか?」

控えめに翡翠が尋ねてくる。

しかしそれはもう、是非俺に商品になってくださいと言わんばかりの顔で。

「はぁ。しょうがないな。まったく」

俺もなんだかんだで楽しんでいるのだ。

それにみんなで遊ぶというのも滅多にないことだ。

「じゃあみんなで人生ゲームでもやるか――」
 

そうして団欒した楽しい夜が過ぎていくのであった。
 
 








「屋根裏部屋の姫君」
姫君と過ごす休日
その44













「ただいまー」
「お帰りなさい、志貴さん」

玄関をくぐると琥珀さんが出迎えてくれた。

時刻は10時半をちょっと過ぎたところ。

ついさっきまで俺たちは人生ゲームをやっていた。

アルクェイドが俺の奥さんになったはいいが、離婚となって大歓声。

直後に琥珀さんが後妻となるわ、秋葉は破産して貧乏生活するわ、逆に先輩は事業に成功するわ、翡翠は海外遠征するわで大賑わいであった。

しかし時間が時間なので今日はお開きとなったのである。

そして今、シエル先輩の「わたしだって女の子なんですよ?」という主張の元に先輩を家まで送り届け帰ってきたところだ。

ちなみに俺からの「アルクェイドは送らなくていいの?」という問いに対しては「吸血鬼は夜に活動する生物です」という答えが帰ってきたことも付け加えておく。
 

「翡翠はどうしたの?」

俺は出迎えてくれた琥珀さんに尋ねた。

普段帰ってきた俺を出迎えるのは翡翠の役目なので、琥珀さんが出迎えてくれるということは滅多にないのである。

「あ、はい。翡翠ちゃんは入浴中ですので」
「そ……そうか」
「あはっ、想像したら駄目ですよー」
「ししし、してないって」

実はかなり具体的に想像をしてしまったのは秘密である。

「ふふふ。翡翠ちゃんがあがったら志貴さんが入りますか?」
「……あ、うん。でも、その前に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

ちょうどいいので俺は琥珀さんにそう言った。

元々帰ってきたらまず琥珀さんの部屋に行くつもりだったのだ。

「わたしにですか?」

琥珀さんは首を傾げている。

「ああ。色々あるからちょっと長くなるもしれない」
「そうですか。では志貴さんの部屋に行きます?」
「……いや、部屋にはアルクェイドがいるだろうからちょっと」

アルクェイドは屋敷から出て行くふりをしてしっかり俺の部屋へと戻っているはずなのだ。

「ではわたしの部屋にいたしましょう。それならいいですよね?」
「ああ、それでいいよ」
 

そんなわけで俺は琥珀さんの部屋へと案内されるのであった。
 
 
 
 

「お茶をどうぞ」
「あ、すいませんわざわざ」

二人の前にそれぞれお茶が置かれる。

「それで、お話と言うのは?」
「あ、うん。今日の話なんだけど」
「今日のお話ですか?」
「うん。今日は本当にありがとう。琥珀さんのおかげで楽しい一日だったよ」

俺はまずお礼をいった。

「いえ、そんな、わたしは大した事していませんよー」

すると琥珀さんは照れくさそうに笑った。

琥珀さんがこういう表情をするのは意外と珍しい。

「琥珀さんがそんなことしてくれるなんて思ってなかったからね。正直驚いた」
「あ、酷いですよー。わたしだってたまにはいいことするんですよ?」

まったくもう、と今度はむくれてみせる。

「いや、そういう意味じゃなくてさ。俺の頼みなんかをよく聞いてくれたなって」
「みんなで一緒に遊びたいという?」
「ああ。しかもさ、琥珀さんが中心でみんなを誘導してただろ? それがちょっと意外だったなって」
「はあ、意外でしたか」

お茶を一口すする琥珀さん。

「琥珀さんいつだか忘れたけど言ってただろ? 直接的にも間接的にも関わっていない事が理想なんですとかなんとか」
「あー」

俺がそう言うと琥珀さんは諸手を打った。

「ええ、確かにそうです。主犯さんになるのではなく、主犯さんを用意するのでもなく、わたしとは関わり合いの無い誰かが勝手に主犯になってくれるのが理想ですよ。……まあ主犯というと聞こえが悪いですが」
「だろ?」

琥珀さんはあくまで自分が主犯にはならない人なのだ。

「だけど今回、みんなを遠野家に集めてゲームをやろうと言ったのは琥珀さんだっただろ? そこがちょっと気になって」
「なるほど、わたしが主犯だったことを不思議に思ったわけですね」
「うん。琥珀さんはやっぱり何か企んでいるっていうイメージがあるから最初みんな警戒してたし」
「そうですねー。相当に怪しまれましたー」

苦笑いをする琥珀さん。

「上手くいったけど、もしかしたら琥珀さんに一杯食わされたって怒り出したかもしれない。そういう危険だってあったのにどうして自分でやったのかなって思ったんだ」
「なるほどなるほど。言いたいことはだいたいわかりました」

琥珀さんは少し固い表情になった。

「いや、別にそれが悪いとかそういうことを言いたいんじゃないんだ。ちょっと気になっただけで」
「ええ、わかってますよー」

そこでいつものように笑顔に戻る。

「うん。そうですね。ここは他ならぬ志貴さんの質問です。ここは全部話しちゃいましょう」

そしてそんなことを言った。

「いいの?」
「はい。構いませんよー」

にこやかに笑う琥珀さん。

「ええ。わたしがあえて主犯になった理由は3つあったんですよ」
「3つ?」
「はい。まずですね。この作戦を実行してもわたしがそこまで深刻な被害を受けることはなかったということです」
「え? どうして?」
「だって考えてみてくださいな。元々の原因は志貴さんなんですよ? 最悪の状況になったとしても志貴さんがボコボコになってしまうだけであって、わたしはただ勝負をしましょうと提案をしただけの身ですから」
「ああ……確かにそうかも」

となると真の意味での主犯は俺になってしまうのだろうか。

「仮に問題が起きたとしても志貴さんがふがいないからいけないんですーとか責任転化してしまえばいいわけでして」
「……それ、やられなくてよかったなあ」

心からそう思う。

「それに、今回は翡翠ちゃんがいましたから。いくらみなさんでも、なんの罪のない翡翠ちゃんを巻き込むような真似はいたしません」
「あー」

言われてみれば確かに翡翠がいないときにばかり問題が起きている気がする。

「いざというときの志貴さんへの責任転化。そしてストッパー翡翠ちゃん。これでわたしへの被害が来る確立は30%くらいだったんじゃないですかね」
「……それでも3割なんだ」
「ええ、3割ですね。もしかしたらわたしも酷い目に合っていたかもしれませんー」

そんなことを言っているのに琥珀さんは笑顔である。

「それなのにどうして?」

俺はそう尋ねた。

「……ええ。ですからそれは残りの理由のためです」
「残りの理由……」

それはきっと凄い理由があるに違いない。
 

「それはつまりですね。わたしもみんなで遊びたいなーと思ってたからですよ」
 

ところが答えは意外なものだった。
 

「え? それだけ?」
「それだけって、それが1番大事なことですよ。違いますか?」
「い、いや、確かにそうだけど」

そんな言葉が琥珀さんから出てくるとは思わなかった。

「意外でした?」

琥珀さんがそんなことを聞いてくる。

「い、いや、ちょっと、その、ははは」
「あはっ。まあ意外ですよねー。自分でもそう思いますから」

琥珀さんはそう言って笑った。

「でもこのわたしがそう思っていたくらいなんだから、皆さんも少なからずそう思っていたはずですよ。ケンカするより仲良くしたほうが楽しいに決まってますので」
「そうだよなー。うん。みんな普通に仲良くしてくれればいいんだけどさ」
「そこは各々の都合がありますから。難しいですよ」
「だよなあ……」

そういう意味で今日は本当に貴重な日だったわけである。

「ありがとう。ほんとに感謝してるよ」

俺はもう一度お礼を言った。

「あはっ、ほんとに照れくさいですよ、もうー」

琥珀さんはひらひらと手で自分の顔を扇いでいる。
 

「……でもですね、志貴さん」

そして突然琥珀さんは悪戯っぽい顔をした。

「でも、なに?」
「実はですねー」

そして次の琥珀さんの言葉は、本当に意外なものであった。
 

「今日、みんなで遊ばないかとわたしに提案したのはアルクェイドさんなんですよ」
 

続く



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