正直、今のアルクェイドが学校という環境に馴染めるとも思えない。
「だから、わたしたちで学校を作ればいいんだと思います」
「え?」
「どういうことですか……? 翡翠さん」
「……わかりやすく言うとするならば」
翡翠はちょっと照れくさそうな顔して、こんなことを言うのであった。
「わたしたちで学校ごっこをして、アルクェイドさんにいい悪いを教えてあげればいいと思うんですよ」
「屋根裏部屋の姫君」
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「……」
さて、俺は翡翠の言葉にどう答えたらいいのやら悩んでいた。
いくらなんでも学校ごっこだなんてそんな。
アルクェイドがいくら子供っぽいからってそれで納得してくれるんだろうか。
あいつ、変なところでプライド高いし。
というかそもそもあれだけこだわっていた「あなたを犯人です」はどこへ行ってしまったんだろう。
「なるほど。それは案外いい方法かもしれませんね」
俺がアホなことを考えていると先輩がそんなことを言った。
「いや、でもそんなごっこ遊びだなんて……」
「あらあら志貴さん。ごっこ遊びは子供の成長を促す大切なものなんですよ? 情緒安定の手段としてはもってこいだと思います」
琥珀さんもくすくす笑いながらそんなことを言う。
「そ、そうなの?」
「ええ。つまりロールプレイングです」
「ロールプレイング?」
それはRPGの正式名称だろうか。
「現実に似せた場面で、ある役割を模擬的に演じること。これはカウンセリングなどの学習の手段や、心理療法の治療技法ですね」
どうやら微妙に違うらしい。
「企業での新入社員教育にもロールプレイングが行われるといいます。相手の立場になって考えるためには最高の手段なんですよ」
「うーん」
相手の立場になってものを考える、か。
「ちょっと前のアルクェイドは一応他のみんなのことも考えて行動してたんだけどなあ。なんでダメになっちゃったんだろう」
「だからこそ反抗期なんですよ」
先輩が溜息をついた。
「反抗期というのは理想の自分と現実の自分との差異に納得がいかないから起こるものなんです。そしてそれは相手との比較対象が出来なければわからない」
「……っていうと?」
「アルクェイドの心理になって考えてみましょうか。わたしことシエルは遠野君と学校に行っている。ここまではオッケーですね?」
「ああ」
いくら俺でもそれくらいはわかる。
「だからシエルがうらやましい。わたし――この場合はアルクェイドですね。アルクェイドも学校に行きたい。だけど遠野君はダメだっていう。シエルずるい。だから反抗する」
「他の人のことより自分の感情が優先しちゃってるわけですねー」
苦笑いしている琥珀さん。
「うーむ」
「シエルさんが学校に行っていて志貴さんと学校で楽しく過ごしているんだろう、と想像できるというのはシエルさんの立場がわかっているわけですよ」
「なるほどなぁ……」
「だから次のステップなんです。アルクェイドは我慢を覚えなくてはいけません」
「我慢……か」
あいつほど我慢とか忍耐とかそういう言葉が似合わないやつもそうはいないと思う。
「この際です。わたしもアルクェイドのために協力しちゃいますから」
「え?」
先輩がアルクェイドのために協力だって?
「ま、マジですか?」
「はい。また今回みたいな騒動を起こされたらたまりませんから。アルクェイドを教育することでそれが回避できる可能性があるならやるべきなんです。さっさとなんとかしちゃいましょう」
「先輩……」
これは力強い味方である。
なんせ先輩はアルクェイドと何度も戦っているし教会による真祖の知識もあるのだから。
「……」
だけど。
「……っていうか、みんな、アルクェイドのこと怒ってないの?」
ふとそんなことを思ってしまった。
さっきまであんな死闘を繰り広げていたというのに。
「はぁ。ではアルクェイドさんがふて寝している今がチャンスです。寝首を掻いてしまいましょうという展開のほうがよかったですか?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど……」
琥珀さんならそう言いかねないから怖い。
「まあ、遠野君の言いたいことはわかりますよ」
「……先輩」
先輩は苦笑していた。
「もちろん戦闘中は本気でアルクェイドをなんとかしてやろうって思ってました。――けど、あんな泣きかたをされてしまったらもう、それ以上責められないじゃないですか」
泣く子と地頭にはなんとやらである。
「あれ以上の罰は無かったと思われます」
「あはっ。志貴さん鬼畜ですねー」
「……どうしてそういうことになるかなぁ」
いつの間にやら俺が責められている。
「とにかく、これからアルクェイドが変わってくれればいいんですよ。これから」
「ああ……そうだな」
そのために必要なのは、他でもないアルクェイドの意思である。
「アルクェイドー。起きてるかー?」
全員でアルクェイドのいる保健室へと移動してきた。
三時間目もそろそろ終わるので滑りこみセーフといったところだ。
「……」
俺の言葉に反応して体を起こすアルクェイド。
その目は赤く腫れている。
「少しは落ち着いたか?」
こくり。
「もう、あんなことはしないな?」
こくり。
「……」
今のアルクェイドを見ていると、さっきまで先輩と死闘を繰り広げていたのと同一人物だとはとても思えなかった。
「アルクェイドさま。何故志貴さまがアルクェイドさまを叩かれたかお分かりですか?」
翡翠が尋ねる。
「……」
そっぽを向くアルクェイド。
「アルクェイド」
「……わたしが志貴の言うこと聞かなかったからでしょ」
「それもあるけど。おまえが自分勝手な行動をして迷惑をかけたからだ」
「わたしそんなことしてないもん」
「あのなぁ……」
まだそんなことを言うのかこいつは。
「遠野君。この際それは後回しにしましょう。とりあえずはこれからのことなんですから」
「……うん、そうだな」
このままじゃ埒があかなそうだし。
たとえ今はダメでも将来的にアルクェイドが善悪の区別がついてくれるようになってくれればいいのだ。
「なあアルクェイド。やっぱり今のおまえが学校に来るっていうのは無理だと思うんだよ。また今回みたいなことになっちゃったらおまえも嫌だろ?」
「……志貴にぶたれるの、やだ」
俺の様子を伺うように上目づかいで呟くアルクェイド。
そんな仕草も拗ねた子供のようである。
「だろう? だからさ。みんなで考えたんだよ。俺たちで学校を作ろうって」
「……学校を?」
「ああ。毎週1回みんなで集まって学校を開くんだ。先生は俺たちが交代でやる。生徒はおまえとみんな。おまえに色々なことを教えるんだ」
「みんなが……わたしに?」
「はい。みんなで仲良く楽しく和気あいあいな学校です。あ、なんだかすっごく楽しそうですねー」
言葉通り琥珀さんはとても楽しそうである。
「アルクェイドさま、是非ご参加ください」
翡翠が微笑む。
「……」
アルクェイドは何かを考えるような顔をしていた。
「どうだ?」
もう一度尋ねてみる。
「それは志貴とか翡翠とか琥珀と一緒に勉強するってことなの?」
「ああ。もちろんだ」
「シエルとか妹も?」
「もちろん先輩も一緒にだ。秋葉も……まあなんとかなるだろう」
「ケセラセラですね」
にこやかに笑う琥珀さん。
琥珀さんに頑張ってもらえば秋葉とて納得してくれるだろう、うん。
「……そっか」
すると俯いてしまうアルクェイド。
「ダメか?」
やっぱりダメなのだろうか。
「ううん」
そう言って顔を上げたアルクェイドは。
「――いいな。それ。きっと凄く楽しいよ」
これでもかってくらいの満面の笑顔で笑っていたのであった。
続く
んで、これまでとこれからの屋根裏部屋の姫君をまとめて文庫にして即売会で売りたいなーとかちょっと考えたりするのですよ。
いや、やはり自分の文章を本にするのは夢なので。
絵師さんに頼んで絵とか色々つけたり文庫オンリーの話を付け加えたりして。
しかし需要がどれくらいあるのか謎なので↓に買ってもいい、という項目をつけてみました。
値段はまあいくらになるかわかりませんが普通の文庫本程度にすると思ってください。
需要があんまりなかったら作りませんけど(苦笑
宜しければお願いしますー。