信じられないことにこの番組はお子様から玄人まで幅広い人々のハートをゲットしているようである。

俺か? 俺がおかしいのか?
 

「じゅまぺ〜るおどれ〜。さばぁ〜? めるしぃ〜」
「うむ。相も変わらずキレのいいエセフランス語だな」
「わーい、エトの好物のしかせんべいをゲットしたぞー!」

ひたすら展開されていくシュールなやり取り。
 

「わからん……」
 

俺は深刻に悩んでしまうのであった。
 
 






「屋根裏部屋の姫君」
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続・ガクガク動物ランド















こんこん。

俺が頭を抱えているとノックの音が聞こえた。

誰だろう。

「開いてるよー」

琥珀さんは画面から目を離さずにドアに声をかける。
 

ばたん。
 

「始まっていますか……?」
「え? 翡翠?」

そこに立っていたのは翡翠だった。

「これは志貴さま。どうも」

俺の姿を見るやいなや頭を下げる翡翠。

「あ、いや別に気にしないでくれ。俺はアルクェイドの付き添いだし」
「アルクェイドさまの?」

相変わらずガクガク動物ランドに夢中になっているアルクェイドを指差す。

「今テスト中なんだ」

琥珀さんが翡翠にそんな事を言う。

「なるほど」

翡翠はその一言で納得してしまったようだ。

「失礼いたします」

そして俺の隣に腰掛ける。

「……っていうか翡翠もこのガクガク動物ランドを見に来たの?」
「はい」

笑顔で答えられてしまった。

「そ、そうなんだ……」

それに対して俺は一体どんな顔をすればいいんだろう。

「翡翠ちゃんはエトのファンなんですよー」
「……マジで?」

あのあからさまに浮いているリアル志向の鹿を?

「つぶらな瞳が素敵だと思います」

そんなことを言う翡翠の目も少女のように輝いていたりする。

「翡翠ちゃん、エト君が出そうだよ」
「はい」

そして琥珀さんの言葉に画面に目を向ける翡翠。

「……」

しょうがないので俺も続きを見ることにした。
 
 

「マンマミーヤ! おかしいですよ教授! せっかくエト君のために持ってきたしかせんべいがどこにもありません!」
「なんと。それは本当かね知得留先生。途中で落としてしまったのではないか?」
 
どうやらさっき手に入れたしかせんべいがどこかに行ってしまったらしい。

「まったくこれだからエセフランスはだめだにゃー。やくたたずー」
「何の役にも立っていないあなたには言われたくありませ……おや?」

ばけねこに食ってかかる知得留先生を引きとめるエト。

口で引きとめているのだがなかなか器用である。

ばけねこにしろ教授にしろ知得留先生にしろでかい着ぐるみだから口なんて開かないのだ。

「どうしたんですかエト君」
「はんにんはこのなかにいる」
「な、なんですってー!」

突如とどろく雷鳴、そしておどろおどろしいミュージック。

どれもこれも子供向けとは思えないような演出である。

「さあ始まりますよエト君の推理ショーが!」

琥珀さんが俺の脇をつつく。

「ふーん」

そうか。推理ショーか。

推理っていうとあれだ。

探偵とかが犯人を見つけるためにあれやこれやと考えるやつ。
 

「ええっ! これそういう番組なのっ?」

あんまりにも意外な言葉だったので危うく聞き流してしまうところだった。

「志貴、うるさいー」
「……あ、うん」

アルクェイドに怒られてしまった。

普段散々怒っている相手にそういうことを言われるとなんとなく情けなくなる。

「こ、琥珀さん。こういうのってさ。普通に考えたら知得留先生が主役だと思うんだけど」
「はい。もちろん主役は知得留先生なんですけどね。最近このエト君の推理が人気なんでよくやっているんですよ」
「そ、そうなんだ」

人気なんですか、そうですか。

「……そうか」

もういいや。何も突っ込まず先の展開をあるがままに受け入れようじゃないか。
 

「え、エト君。では犯人は誰だというんですか?」
「のこのこ。しょうこはくちのまわりにある」
「口の……?」

全員の口を見ていく知得留先生。

「ピーピピー♪ ピピピー♪」

ばけねこはあからさまに目線を逸らせて鼻歌を歌っている。

そしてその口には何か食べたような跡が。

「あーっ! ばけねこっ! あなたまさかっ……!」

知得留先生が叫ぶ。

「ななな、なんのことかにゃ? アチキはおいしそーだったからおせんべたべちゃっおーとか思わなかったし食べてもないにゃっ?」

そして先生の問いに勝手に自滅するばけねこ。

「ばけねこ、貴様……」

教授が恐ろしい声を出しながらばけねこに迫る。

まるでサスペンスのワンシーンのようだ。

「ぎ、ぎにゃっ! そ、そんな怖い顔しないでほしいにゃっー」

後ずさるばけねこ。

「証拠は全て挙がっているんですよ! さあ、言ってあげなさいエト君っ!」

そして知得留先生がエト君に言葉を求める。
 

エト君はごほんと大仰に咳払いをして。
 

「あなたをはんにんです」
 

どーん!
 

「きゃーっ! 出ましたっ! 出ましたよエト君の名ゼリフがっ!」

歓声を挙げる琥珀さん。

「……え、いや、ちょっと待って、その、今の」

今の言葉は聞いた事がある。

突っ込まずと思ったけどこれは突っ込まずにはいられない。

そう。今の言葉はアルクェイドが犯人だとわかったときに翡翠がずっと言っていたやつだ。

「ひ、翡翠。今のって」
「……」
「あ、ダメですよー。翡翠ちゃんは今のセリフを言う時のエト君の可愛さにときめいちゃってますから」

いや、表情もセリフの言い方もなんも変わらなかったって。

「おーい、翡翠、やっほー」
「……」

しかし翡翠は俺の呼びかけに答えない。

「……マジですか」

く、くそうっ。俺がご主人様なのにっ!

とか鹿に嫉妬してる俺もかなりアホだと思う。
 

「く、くそー。ばれたらしょうがねー。そうだよー。アチキがやったのさー!」

追い詰められてついに開き直るばけねこ。

「人のものを取ったり勝手に食べたりしてはいけません! パスタに代わってせっかんです!」

颯爽とハリセンを構えばけねこに迫る知得留先生。

「うわー! ぼうりょくきょうしー! ぼうりょくはんたいー! べんごしをよべー!」

叫びながら逃げていくばけねこ。

「悪いことをしたらその罰が帰ってくるんです! こら! 止まりなさいっ!」
「おーたーすけー!」

そうして後ろのほうで追いかけっこを繰り広げる2人。
 

「良い子のみんなはこのように勝手に人のものを取ったりしてはいかんぞ。ばけねこのようになりたくなかったらな」

そして最後に教授が締めた。

教授、どこまでもいいとこ持っていきすぎである。
 

「お・し・ま・い」
 

画面に表示されるファンシーな文字。

「……」

どうやらガクガク動物ランドはこれで終わってくれたらしい。

「こ、これで終わり……だよね?」

琥珀さんに尋ねる。

「この後はみんなの歌とか他色々あって最後の体操ですね」

やはりその王道パターンは変化してないらしい。
 

「どうですか? 面白かったですかー?」

そしてにこにこと笑いながら琥珀さんがアルクェイドに尋ねる。

「……ははは」

俺の正直な感想としては今一つなんだけど。
 

「すっごーい! すっごいすっごい面白かった!」
 

予想通りというかなんというか、我が姫君は子供のようにすっごーいを連発して喜んでいたのであった。
 

続く



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