「……なるほど、俺にもわかった気がする」
「でしょう?」
「ああ、つまり……」

アルクェイドは着ぐるみが活躍する子供向けの番組やアニメが好きで、ニュースはつまらなくて全く興味を持たない。

それはもうまるっきり100%。

「子供の行動パターンだな」
「ですね」
 

ここにアルクェイドの精神年齢が完全に子供であることが証明されてしまったのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
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「まあ、無理ないのかもしれません」

アニメが終わった後、翡翠にアルクェイドを俺の部屋に連れていかせ、琥珀さんの話を聞いていた。

「っていうと?」
「はい。シエルさんの話では、アルクェイドさんの活動した期間は通算しても1年程度なんでしょう?」
「あ、うん。そうなんだけど……先輩にどこまで聞いたの?」
「アルクェイドさんを倒すのに協力する代償として、ほぼ全てのアルクェイドさんの情報を聞きました」
「そうなんだ……」

とするともはや琥珀さんもアルクェイドの専門家と言える。

それはいいことなのか悪いことなのか正直微妙なところだった。

「聞いたときは驚きましたよー。ただものではないと思っていましたけどまさかそんなとんでもない存在だったなんて」

そらそうだ。

俺だってまるで信じられなかった。

しかし死んでも蘇ってくるようなやつがどう考えても人間であるはずないわけで。

「そうだよなあ。凄いヤツなんだよなあ。あいつ」

それでもここ最近無邪気なアルクェイドを結構長く見ていたせいであんまり実感が沸かなかった。

しかし今回の騒動でアルクェイドの怖さを再認識してしまったわけだ。

ただ、あいつは感情のコントロールを知らないせいでああなってしまったわけで、これからそれを教えていけばいい。

「でもそのアルクェイドさんを手篭めにしてしまった志貴さんはもっとすごいと思いますけどねー」

琥珀さんは不敵な笑みを浮かべながらそんな事を言った。

「て、手篭めっていや、俺はそんなつもりじゃ」
「あはっ。隠さなくても宜しいですよー。志貴さんじゃないんですから志貴さんがアルクェイドさんにベタボレなのはわかります」
「ぬぅ」

俺の行動思考パターンはそんなにわかりやすいんだろうか。

「ほんとに残念ですよー。わたしも志貴さんを狙っていたんですけどねー」
「そうなんだ……ってええっ?」

琥珀さん、なんか今とんでもないことを言っていたような。

「あはっ。志貴さんのことですからてんで気付いてなかったでしょうけど、わたしは志貴さんのこと好きでしたよ?」

いきなりの告白。

「え、いや、そんな、ちょっと待って」

急にそんなことを言われても困ってしまう。

「じょ、冗談じゃないよね?」
「志貴さん。それはすごく失礼な質問だと思うんですが」

琥珀さんは真剣な表情だった。

「……あ、ご、ごめん」

そうだ、琥珀さんだってそんな冗談を言うわけがない。

俺は深く頭を下げた。

「そんな。頭を上げてください。もういいんですよ。志貴さんに相応しい相手が現れたのですから」
「琥珀さん……」
「むしろ嬉しいくらいですよ。志貴さんは本当に朴念仁さんですから女の子の気持ちに気付けやしないんではと思っていましたから」
「お、俺だってそんなバカじゃないよ」
「そうですねー。アルクェイドさんはとても素直ですから。そこが志貴さんと相性がよかったのかもしれません」
「……そうかもなぁ」

確かにアルクェイドはストレートな行動や表現をするぶん何をして欲しいのかわかりやすい。

そしてその素直さに俺は惹かれたのだ。

「ちょっと嫉妬しちゃいますね。志貴さんの良さに気付く人がこんなにいるなんて思ってませんでした」

琥珀さんは苦笑していた。

「でも俺、そんなにいいところないよ」

まったくもっていいところなんてないと思う。

「志貴さん。それは惚れたわたしやアルクェイドさんたちに失礼ですよ? 本人が気付いてなくったって人間ひとつやふたついいところは必ずあるんですから」
「それ、実は俺がダメダメってこと?」
「ええ。ダメダメです」

言い切られてしまった。

「でもそこが母性本能をくすぐるといいますかねー。志貴さんって女の子には妙に優しいですし」
「い、いや、そういうわけじゃないんだけど」

俺がそう言い返すと琥珀さんはくすくすと笑いだした。

「とにかく。わたしはもう身を引きます。お二人の恋路を全力で応援させていただきますよ」
「琥珀さん……」
「ただ、アルクェイドさんに協力する前に一度くらいわたしの気持ちを伝えてもいいかなって思いまして」
「ご、ごめん、俺、全然気付かなくて」
「いえいえ。わたしも志貴さんにそう思わせるような事はしてませんでしたからねー」

いつものように笑っている琥珀さん。

だけどそれはどこか寂しそうで。

「俺、その」

何て言ったらいいのかわからないけど、何か言わなきゃいけないと思った。

「でも、これですっきりしちゃいました」

俺が何か言おうと戸惑っている間に琥珀さんはそんなことを言った。

「え?」
「わたしなりのケジメでしたんで。もう未練はありません」
「琥珀さん、俺、その……」
「だから気にしないで下さいって。わたしは身を引くんですけどまだ強敵は残っているんですからね」

琥珀さんはめっと俺をしかるような仕草をする。

「き、強敵って」
「はい。お話は終了です。わたしは日曜日の準備をしなくてはいけないんですから。志貴さんはお帰りください」

さあさあ、と琥珀さんにドアまで押し出されてしまった。

「こ、琥珀さん、その、ほんとにごめん」

俺はもう一度頭を下げる。

そして。
 

「ありがとう。……俺なんかを好きだって言ってくれて」
 

深く感謝をした。
 

「あはっ。もしアルクェイドさんにふられてしまって寂しくなったら、いつでもおねーさんに甘えに来て下さいね?」
 

そう言ってドアを閉じる琥珀さんの頬を、一筋の涙が伝っていたように見えた。
 
 
 
 
 
 
 
 

「……」

部屋のドアを開ける。

「難しいなあ……」

人というものは自分の気持ちに素直過ぎたら世の中に適応できない。

しかし自分の気持ちに嘘をつき続けてもいけないのだ。

生きていくうちにそのちょうどいいバランスっていうのを覚えていくんだろう。

だが完璧にバランスがとれている人間なんているわけがない。

だからこそ集団で過ごして、バランスを取り合っていくのだ。
 

「……アルクェイド」

アルクェイドはベッドの上に眠っていた。

ノートを広げてそこにはさっきの着ぐるみ番組のラクガキが描かれている。

「頑張らなくちゃな。おまえも……俺も」

アルクェイドも俺もまだまだ精神が未熟だ。

それは大人になれば成熟したというものじゃなくて、死ぬまでずっと勉強しつづけなくちゃいけないことなんだろう。

その勉強をアルクェイドと共に頑張れればとても嬉しい。

何故なら俺の恋人はアルクェイドなのだから。

「……」

もちろん他にも俺を思ってくれている人たちがいる。

そして琥珀さんは自分から気持ちに決着をつけてくれた。
 

「……頑張らなきゃな」
 

俺にも課題が出来た。
 

それは、俺自身の成長と他のみんなへの決着である。
 
 

続く



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