「一体何をするつもりなんでしょう」
「さあ……」

わからないけどまたとんでもないことだったらどうしよう。

「どんなのをやるのかな〜」

ただアルクェイドだけはやたらと楽しそうだった。

アルクェイドのための学校なので、ある意味琥珀さんの行動は正しいのかもしれない。

「けどなあ……」

いくらなんでもはっちゃけすぎだって。
 

「ふっふっふ。待たせたな諸君。授業を再開しよう」

部屋に戻ってきた琥珀さんは。
 

「あっ! すごい。それ、教授の格好じゃない」
 

アルクェイドの言うように、ガクガク動物ランドの教授のコスプレをして戻ってきたのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
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ガクガク動物ランドの教授の格好は実にわかりやすい。

黒いコートに黒スーツ。

夏とかだったら死ぬほど暑そうな格好である。

こっちはさっきのミスター陳のチャイナドレスと違って割と誰でもやれそうな格好なのだが。

「……うーむ」

女の人がスーツを着るとどうしてこう、妙な色気が出てくるんだろう。

さっきのもよかったけどこれはこれで中々。

「姉さ……いえ教授。エト君はどうなりましたか?」

中央まで琥珀さんが来たところで翡翠が尋ねる。

「安心したまえ。ミスター陳はわたしが倒し、エト君も助けておいた」

琥珀さんの口調は教授そのものだった。

「……よかった」

それを聞いて安堵の息を漏らす翡翠。

「ねえねえ次は何やるのー?」

アルクェイドはどこまでも楽しそうである。

「教授。次の授業は期待していますからね」

秋葉までそんなことを言っていた。

「……」

そうだよな。こういうのは雰囲気が大事なんだよな。

みんなわざわざアルクェイドのためにその雰囲気作りをしてくれているのだから、俺もそれに協力しよう。

「うむ。ガクガクポッケの歌をわたしが歌うからな。出てくる動物の名前を当ててもらおう。多く正解した人には褒美だ」

にしても琥珀さんが「うむ」とか言うとやたらと可愛く見えるなあ。

「ご褒美? 何かくれるの?」

アルクェイドは興味深々だった。

「当然だ」
「ほんとっ? 頑張ろうね、志貴っ」
「ああ、頑張ろうな」

ここはアルクェイドが勝てるために協力してやるとしよう。

「ではスタートだ。いくぞ」

音楽をスタートさせる琥珀さん。

「お……」

この歌は昔聞いたことがある。

昔聞いたやつのリメイク版なんだろう。

「ガクガクポッケ〜ガクガクポッケ〜ガクガクポッケ〜♪」

割とノリノリで歌っている琥珀さん。

おまけに腕を交差させる謎の動きつきである。

琥珀さんがやると可愛らしく見えるのだが、これを本当は教授がやっているんだろうなと想像するとなかなか笑えない。

「いっぴきめー。飛び出した」

言葉通り、ポケットの中からぬいぐるみが出てきた。

「がぁ〜お、がぁ〜お」

タテガミの凛々しいライオンである。

「はいはいはーいっ!」

元気に手を上げるアルクェイド。

「アルクェイド君、どうぞ」

一旦音楽を停止させ、琥珀さんがアルクェイドを指差した。

「ライオンっ!」
「うむ、正解だ」

正解の声と同時にぱちぱちぱちと先輩が手を叩く。

「え、えへへ。ありがと」

アルクェイドは照れくさそうだった。

「このぬいぐるみは君にあげよう」

そんなアルクェイドに琥珀さんがぬいぐるみを手渡す。

「ずいぶんサービスいいんだな」
「はい。ガクガク動物ランドでも教授が子供に手渡してくれますから」

それはなかなか子供が泣いてしまいそうなシチュエーションである。

「子供はとても大喜びしているんですよ」

マジか。

「わーい。もらっちゃった」

先輩にライオンのぬいぐるみを自慢するアルクェイド。

「よかったですね」

普段のいがみあいもどこへやら、先輩は爽やかな笑いをアルクェイドに向けていた。

「……」

なんていうか、これだけでも学校をやった価値があると思う。

「では次の問題だ。いくぞ」

相変わらず教授口調の琥珀さんが再び音楽を再開する。

「にーひきめー。飛び出した」

今度は逆のポケットからぬいぐるみが出てきた。

「めぇ〜。めぇ〜」

鳴き声は羊である。

だが琥珀さんの手に持たれているのは別の生き物だ。

……なんだっけ、あれ。

「はい」

今度は秋葉が手を上げた。

「はい、秋葉さま」

秋葉に対してだけはしっかりいつもの口調だった。

「山羊でしょう?」
「正解です。正解した秋葉さまにはエクスカリバーを差し上げます」
「……ぬいぐるみじゃないの?」

秋葉に別のポケットから出したオモチャの剣を手渡す琥珀さん。

「はい。ヤギのぬいぐるみはひとつしかありませんので。ご容赦下さいー」

ヤギにエクスカリバーというのもなかなかマニア心をくすぐるアイテムである。

「まあ、別に構いませんが」

渋々ながらエクスカリバーを受け取る秋葉。

秋葉と聖剣というのもなかなか不釣合いなようでマッチしていて怖い。

「さらに行くぞ。次の問題だ」

再び琥珀さんが教授口調に戻り三問目。

「さんびきめー。飛び出した」

黒い鹿。

そして無駄にリアルな造形。

「はいっ」

琥珀さんが鳴き声を真似する前に翡翠が手を上げていた。

「はい、翡翠ちゃん」
「エト君です」
「ぴんぽんぴんぽ〜ん。では翡翠ちゃんにはエト君を差し上げます」

そうしてエト君のぬいぐるみが翡翠の元へ。

「……」

翡翠はとても嬉しそうだった。

「よかったわね、翡翠」

アルクェイドが翡翠にそんなことを言っている。

「はい。よかったです」

翡翠は少しだけ笑って見せた。

「……」

俺は正直かなり驚いていた。

場の雰囲気がいいからってのもあるだろうけど、アルクェイドが人が何かを貰うのを見て「羨ましい」ではなく「よかったね」と言ったのだ。

琥珀さんのミスター陳がいたときはそれぞれいがみ合っていたのに、今は和気藹々としている。

「そうか……」

ミスター陳という、全員に共通の悪役がいたのがよかったのかもしれない。

確かに仲間内でいがみあっていたけれど、それはある意味ミスター陳のせいとも言えた。

琥珀さんが衣装を着替えたことで悪者はいなくなり、平和な世界になったのだ。

子供をしつけるのに「言うことを聞かないと怖いおじさんが来ますよ」と脅かしたりするけれど、それの逆で「悪い人がいなくなった。よかったよかった」となる。

会話も自然と円滑になるわけだ。

「……流石だな」

琥珀さんのことだ。最初からそこまで計算していたんだろう。

最初は悪を演じ、今は正義を演じている。

それは悪いことといいことを経験するということにも繋がるのだ。
 

「では次の問題だ。いくぞ」
「はーい」
 

俺は琥珀さんを尊敬の目で見つめるのであった。
 
 

続く



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