「……流石だな」

琥珀さんのことだ。最初からそこまで計算していたんだろう。

最初は悪を演じ、今は正義を演じている。

それは悪いことといいことを経験するということにも繋がるのだ。
 

「では次の問題だ。いくぞ」
「はーい」
 

俺は琥珀さんを尊敬の目で見つめるのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
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「というわけで今日の授業は終わりです。お疲れ様でしたー」

その後様々な歌やらクイズやらをみんなで行い、お昼の鐘で琥珀さんの授業は終了した。

商品のぬいぐるみもそれぞれ一個づつ貰い、ちょうどいい塩梅だった。

まあ俺の貰ったのは教授人形という非常に嬉しくないものだったりするのだが。

ちなみに教授の鳴き声(?)はもちろん「うむ」である。

「皆様。お疲れ様でした。来週は私の番ですので同じ時間にお越し下さい」

秋葉が琥珀さんの隣に立ってそんなことを言う。

「来週は妹なんだ。何をやるのかわからないわね」

アルクェイドの言う通り、秋葉が何をやるのかはさっぱり予想がつかない。

「期待していますよ、秋葉さん」

シエル先輩は秋葉にそう言って早々と去っていった。

なんでも家で馬、もとい猫がお腹を空かせているだろうからだそうだ。

先輩も色々忙しそうなのにわざわざ付き合ってくれて、ありがたい限りである。

「じゃあね、志貴」

アルクェイドもそう言って部屋を出ていった。

「おう。また来週な」

実際は屋根裏部屋に戻るだけなのですぐ会うんだろうけど。

「私も部屋に戻ります。琥珀。昼食の準備が出来たら宜しくね」
「はい。かしこまりましたー」

秋葉も自分の部屋へと戻っていく。

「さて……」

俺はどうしたもんだろう。

「琥珀さん。ありがとう。いい授業だったよ」

とりあえず琥珀さんにお礼を言った。

「いえいえ。わたしも楽しかったですし。ガクガク動物ランドをそのまま再現しただけなんですけど、効果がありましたかねー」
「え? 今の授業って琥珀さんが考えたんじゃないの?」
「いえ。確か今日の展開は先週の水曜日のガクガク動物ランドそのものだったと思われます」

俺が尋ねると翡翠が代わりに答えてくれた。

「そ、そうなんだ……」

とするとあの番組は本当に子供向けの番組だったのかもしれない。

やっぱり外見だけで判断するっていうのはよくないな、うん。

「志貴さん、後でアルクェイドさんに今日の感想を聞いて頂けませんか?」
「あ、うん。それはもちろん聞いておくよ」

そこは俺も気になるところだ。

かなり喜んでいたからいい答えが返ってくるとは思うけど。

「じゃ、また後で」
「はい、それでは〜」

翡翠と琥珀さんに手を振って俺は自分の部屋へと戻るのであった。
 
 
 
 
 

「アルクェイド。どうだった?」
「うん。すっごい楽しかったよ」

予想通りの返事だった。

だけどこれはかなり嬉しいことだ。

「そうか。よかったなあ」
「うん。シエルも妹も妙に優しかったし、学校っていいものなのね」
「ああ。みんなおまえのために協力してくれたんだよ」

最初は少しもめたけど、後は実に平和だった。

雨降って地固まるっていうけれど、まさにその通り。

「わたしのために?」

俺の言葉に首を傾げているアルクェイド。

「ああ。おまえが早く一人前になるようにってさ」
「何よそれー。わたしはもう大人なんだからね」
「はは……そうだな」

大人だと主張したがったりするやつに限って子供っぽいんだよなあ。

「むー。何がおかしいのよ」
「いやいやいや。あ。そうだ。この教授ぬいぐるみやるよ。屋根裏部屋にでも飾っておけ」

ふと思いついてさっきの教授ぬいぐるみをアルクェイドに放り投げた。

俺はいらないけどアルクェイドだったら喜ぶかもしれない。

「え? いいの?」
「ああ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「わーい。ありがとね、志貴」
「気にするなって」

教授ぬいぐるみも俺なんぞよりアルクェイドに貰われたほうが幸せだろう。

「ん……でも貰ってばかりじゃ悪いかな」

どういう気分の変化なんだかそんなことを言い出すアルクェイド。

「アルクェイド。頭でも打ったか?」
「何よ。人がせっかくお返ししてあげようっていうのに」
「ああ、いや、悪い悪い。でも気にしなくていいぞ。俺が好きでやるんだからさ」
「それじゃわたしの気が済まないのよ。えーと、ちょっと待っててね」

そう言うとアルクェイドはひょいと屋根裏部屋へ飛んでいってしまった。

「別にいいのになあ……」

ある意味厄介払いだったので、お返しとか言われるとかえって悪い気がする。

しかもアルクェイドにそんなことを言われるだなんて。

「……」

まあでも、ちょっと嬉しかった。

一体何をくれるつもりなんだろう。
 

「お待たせー」

すぐにアルクェイドが戻ってくる。

「はい、これ」
「おう」

そして差し出されたものを受け取った。

「……あれ?」

はて、これはどこかで見たような。

「ノートじゃないか……」

これはこの前アルクェイドが全員ぶんの名前と似顔絵を描いていたやつだ。

「志貴」という丸っこい字となんだか妙に美化された俺の似顔絵が描かれている。

しかもこれって元々俺が学校(アルクェイドの学校じゃなくて)で使っていたノートだったんだよなあ。

「うん。今日配るの忘れちゃったから。他のみんなのぶんもあるわよ」
「……ほんとだ」

一番上のノートを下に回すと下のノートは「こはく」のものであった。

どうも漢字がわからなかったらしい。

「来週みんなに配ってあげてくれない?」
「そりゃ構わないけど……おまえが配ればいいじゃないか」
「うーん。なんだか照れくさくて。わざわざ妹やシエルのぶんまで作ったなんて自分でも驚き」

アルクェイドはそう言って笑った。

「そっか。わかった。渡しておくよ」

どうせ字で俺が作ったものじゃないってことは一目瞭然なのだ。

しかも秋葉用のは「妹」だし、アルクェイドが作ったとバレバレなのである。

みんな快く受け取ってくれるだろう。

「あとこれがお返しね」

アルクェイドはそう言ってライオンのぬいぐるみを差し出した。

「あれ? このノートがお返しじゃないのか?」
「それは上に行って思い出したから渡したのよ。こっちがちゃんとしたお礼」
「なんだ、そうか」

一瞬ノートがお礼なのかと思ってしまった。

まったく紛らわしいことするなあ。

まあ、こいつも人に何かをあげるなんてことは滅多に……

というか。

「おまえ、ひょっとして人に何かお返しとかあげるのって初めてなんじゃないか?」

そんなことを考えてしまった。

「そう……かな? うーん。そうかもしれないね」

アルクェイドは首を傾けている。

「そっか……」

そうだ。アルクェイドはそんなごく普通のことすら経験していなかったのだ。

そんなアルクェイドにあれをしろ、こうしろなんて言って守らせることなんてそもそも無理な注文だったのである。

知識がどんなに優れていたって経験がなければ本当の姿はわからない。

「アルクェイド」

俺はアルクェイドの肩を抱いた。

「な、なに? 志貴」

いきなりだったのでアルクェイドは少し慌てている。

「これから色々経験していこうな。みんなで」
「……うん」

だけど俺の言葉にアルクェイドはしっかりと頷いた。

「でも、志貴と二人でデートもしたいよ」
「ああ、それももちろんだ。でも、とりあえずみんなで……な」

アルクェイドに必要なのは集団での経験だ。

そのための場所に学校を作った。

だけどもうひとつくらい必要だろう。
 

そのためには、俺の犠牲のひとつやふたつくらい。
 
 
 
 
 

「それでどういうことなのかしっかり説明いただけるんですよね?」
「えー、あー、うー」

そんなわけで勇気を振り絞って昼食の席にアルクェイドを連れてきた俺に対して、我が妹は鬼のような形相で出迎えてくれるのであった。
 

続く



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