「わたし、ヒントあげてくるね」
「ヒント?」
「うん。じゃっ」

アルクェイドは秋葉に向かって駆け出した。

「……頑張れよ」

あいつのことだから、ヒントどころか答えを言ってしまうかもしれない。

ただ、それでも構わないのだ。

肝心なのはただひとつ。
 

アルクェイドが自分の意思で秋葉に協力しようとしたということである。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
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「……」

俺は離れた場所のまま二人の様子を見ていた。

二人はなんだかもめているようである。

まあそれは予想通りの展開なのだが。

毎度俺が仲裁に入ってばかりじゃ何も変わらない。

たまには二人の気の済むまでやらせてみるのもいいんじゃないだろうか。
 

「最近のオモチャって結構精巧に出来てるんだな……」

そんなわけで一般客を装い、我関せずの姿勢を示してみる。

しばらくオモチャを眺めてから再び秋葉たちの方向へ視線を。

ちらり。

「ん?」

するともう秋葉とアルクェイドの姿はなかった。

どこかへ移動してしまったようだ。

いつもの俺ならここで慌てふためくところである。

「けど今の俺は一味違うぞ」

今の俺は極めて冷静であった。

前にも同じような状況があったしな。
 
 
 
 
 
 

「……いない」

そんなわけでレジ前に来てみたのだが秋葉の姿もアルクェイドの姿もなかった。

まだどこかでもめているんだろうか。

けどレジ前を歩いていけば店内の様子がよく見える。

確認していけば必ずどこかにいるはずなのだ。

まずはさっきまで俺がいた、低年齢層向けの箇所。

当然ながらいない。

次に男の子向けの箇所。

「うわ……超合金変形ロボットか」

どんな年齢になってもこういうものには心惹かれてしまう。

「必殺三日月返しってか……懐かしいな」

よく有彦と戦隊ごっこ遊びとかをしたもんだ。

有彦がレッドで俺がブルーとか決めたり、ジャングルジムを巨大ロボットに見たてたりして。

オリジナル必殺技とかも考えたものだ。

ただ走ってジャンプキックをするだけなのだが『ウルトラグレートサンダー有彦アタック』とか。

対する俺は回転して連続チョップを食らわせる『必殺スーパー志貴回転スペシャル』など。

子供は得てしてスペシャルとかスーパーなどの単語が好きなものである。

乾家でイチゴさんも一緒に超合金ロボットで遊んだ事もあった。

「オモチャ売り場もたまにはいいなぁ」

懐かしい思い出がいくつも浮かんでくる。

「……」

ただもっと昔、有間の家に行く前の遠野家では、一緒に外でお人形さん遊びをすることも結構あったと
思う。

秋葉はやはり女の子だったからだ。

「……お人形さん遊び、か」

もしかしたら秋葉も俺と同じように、昔の事を思い出しているのかもしれない。

だとしたらきっと。
 
 
 
 

「やっぱりな」

女の子向けのもの売り場に秋葉とアルクェイドはいた。

「このメリーはジュディの姉なんですよ」
「へえー。そんな設定まであるんだー」

しかも二人はなんだか和気藹々としている。

これなら俺が声をかけても大丈夫だろう。

「秋葉、アルクェイド」
「あ……兄さん」

秋葉は俺の顔と人形の顔を見合わせてどぎまぎしている。

「何をしてたんだ?」
「うん。今妹にね、ジュディ一家の紹介をしてもらってたの」
「ジュディ一家?」
「女の子向けの人形のシリーズなんです。昔からあったものが、リメイクされているみたいですね」
「へえ、そうなのか」

とすると俺の記憶の中にある人形もそのジュディ一家の一人なんだろう。

「アルクェイドさんが最初にここを見つけたんですけれど、つい懐かしんでしまいました」
「俺もさっき超合金ロボットに魅入っちまったよ」
「ふふ。覚えていますか? 私のジュディの腕を変な方向に曲げて壊してしまったこと」
「うえ……覚えてないよ、そんなこと」
「都合の悪い事は全部忘れてしまうのですよね、兄さんは」

秋葉はくすくすと笑っていた。

「わ、悪かったな……」

さすがに苦笑せずにはいられない。

「いいなー。わたしそういうこと全然したことないから」

するとアルクェイドがそんなことを言った。

「……アルクェイドさん?」

秋葉の顔色が少し変わる。

「子供の頃、遊んだり……しなかったのですか?」
「んー」

アルクェイドは困った顔をしていた。

こいつにとって、子供時代なんてものは存在しないのだ。

「いや、その。アルクェイドには子供時代の楽しい思い出がないんだよ。……色々あってさ」

仕方ないので俺はそう説明した。

しかしこれはほとんど真実である。

「そう……なんですか」
「ああ。だから、みんなの学校は思い出作りって意味もあったんだ。翡翠や琥珀さんも含めて」
「……」

秋葉は少し俯いていた。

「そういう事情があったとは知りませんでした。その……」
「いや、話さなかった俺も悪いんだ。気にしないでくれ」
「そうよ妹。別にわたしは気にしてないわ」
「……アルクェイドさん」

アルクェイドはいつものように脳天気な笑みを浮かべている。

どこまでもプラス思考でいられるその姿は、ちょっと羨ましい。

「今までのことなんてどう考えたって変わらないんだからしょうがないのよ。だから、これから楽しければ万事OKなの。ね?」
「……」

秋葉はアルクェイドの言葉を聞いて考え込むような仕草をしていた。

「兄さん」
「……なんだ?」

いつもの秋葉とはちょっと様子が違っている。

「どうやら私は一番恵まれた環境にいながら、一番人間が出来ていなかったようですね」

秋葉は少し自虐的な笑みを浮かべていた。

「……秋葉」

どうやら、普段の自分の行動に対して何か思うところがあったようだ。

けれどそこに気付くということは本当に難しいことなのだ。

「そうかもねー。妹って自分の意見を強引に通そうとするし」

秋葉を気遣う様子もなくそんなことを言うアルクェイド。

「……それをオマエが言うか?」

俺はコイツにも謙虚さとかを学んで欲しいのだけれど。

「む。何よ。それじゃわたしが自分勝手な女みたいじゃないの」
「その通りだろう」
「うー」

アルクェイドはむくれていた。

「……」

秋葉は俺とアルクェイドのやりとりを見てぽかんとしている。

「……ま、まあ……なんだ。その、アルクェイドが言ったように、これからが問題なんだよ。うん。これから」
「これから……ですか」
「ああ、うん。もう少し秋葉がおしとやかになってくれるとか素直になってくれるとか凶暴じゃなくなってくれるとか甘くなってくれるとかしてくれれば嬉しい」
「兄さん? それは言いすぎではありませんか?」

何故かそこで笑顔を浮かべる秋葉。

「……」

まずい。

つい調子に乗りすぎてしまった。

「い、いや……うん。た、確かにちょっと言いすぎたかもしれないな。うん。だからその、髪の毛赤くするの止めようぜ、なぁ?」
「あらあらなんのことでしょうか? 私にはさっぱりですね。ですが家に帰ったらお話いたしましょうか? たっぷりと時間をかけて」

はい、逃亡決定。

「じゃ、そういうことで」
「待ちなさい兄さんっ! 兄さんこそ女性に対しての言葉づかいを学ぶべきなんですよっ!」
「あ、それ賛成。これからわたしへの勉強じゃなくて志貴への勉強しよっか?」
「勘弁してくれーっ!」
 

俺は全力でその場から逃げ出すのであった。
 
 

続く



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