「ただ、アルクェイドはそれを口や行動で示しますけれど、遠野君は示さない。だから朴念仁と言われるのかもしれませんね」
「そ、そうだったのか」
「ええ。ただ、それはある意味個性なんです。朴念仁じゃない遠野君なんて遠野君じゃありませんからね」

それは喜んでいいのかよくないのか正直微妙なところである。

「だからそんなに難しく考えず、遠野君なり、なりなりななな……」

俺が悩んでいると、突如シエル先輩ががくがく震え出した。

なんだかロボットが故障したような感じだ。

「せ、先輩っ?」
「こここ、こらっ! ややや、止めなさいアルクェイドっ!」
「へえ最強モードってこんなになるんだー。おもしろーい」
 

見ると、いつの間にやら先輩の電動椅子のスイッチをアルクェイドがいじっているのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
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「ややややや、止めなさいといいいい、言ってるでしょうっ?」

アルクェイドの言う最強モードのせいでがっくんがっくん揺れているシエル先輩。

「えー? 強いほうが気持ちいいんじゃないの?」
「こここ、この状況を見てきき、気持ちよさそうにみみみ見えるんですかっ?」
「少なくとも面白くはあるわね」

アルクェイドの言う通り、先輩には悪いけど見ていてかなり面白いものがある。

「こらこら。止めとけアルクェイド。先輩が困ってるだろ」

だが立場上そんな状況を楽しむわけにもいかないので止めるように促した。

「わかったわよ。えーと……」

アルクェイドは俺の言葉に反応してスイッチをいじる。

ぴたり。

「……ふぅ」

安堵の息を漏らす先輩。

「と油断したところにまた最強モードっ」

がくがくがくがくがくがくがくがく。

「アアアア、アルアルアルアルアルクェイドッ! ややややめやめ止め……」

しかし先輩もどこか楽しそうなのは気のせいなんだろうか。

「あはは。じゃあ次は腰のマッサージね」

アルクェイドが再びスイッチをいじるとようやく椅子の動きは大人しくなった。

「まったくもう……貸しなさい」

先輩はアルクェイドからスイッチを奪った。

「あー。せっかく面白かったのに」
「そんなことを言うならあなたがここに座ってみればいいでしょう?」
「ん? いいわよ?」

先輩は椅子から立ちあがり、代わりにアルクェイドがそこへと腰掛けた。

「さて、遠野君、どのモードにしちゃいましょうか」

先輩がなんだか琥珀さんみたいな笑みを浮かべてそんなことを言った。

「え、えーと、まあ最初は軽くでいいんじゃないですか?」
「じゃあ脇を攻めます」

かちり。

「あは、あはは、あはははっ……や、やだ、シエルくすぐったいってそこっ……!」
「ふふふ、あなたといえども脇は弱いようですねっ!」

真祖の姫君、意外な弱点発覚。

ネロカオスもびっくり仰天である。

「さらにフトモモの裏攻撃っ!」
「や、やだっ、あんっ……そ、んなとこっ……」

フトモモの裏も弱いらしい。

っていうか叫び声が微妙に艶っぽくて怪しい感じだ。

「ふっふっふ、かなり効いているようですね」

先輩はそんなのはてんでお構いなしといった感じだった。

「せ、先輩、もうその辺で……」
「まだです遠野君。さっきわたしが食らった最強モードを食らわせてやりますっ」

かちゃかちゃとスイッチを押しまくる先輩。

がくがくがたがたごとごと。

「ひゃっ……っ……あぅ……や、だっ……駄目……ダ……メ……なのに」

身悶えしながらさらに怪しい悲鳴をあげるアルクェイド。

「ちょ、ちょっと……」

このままではギャラリーが集まってきてしまいそうな勢いである。
 

がたかたかちかた……ことん。
 

「……ん?」

すると電動椅子のほうからなんだか嫌な音が聞こえて動きが止まった。

「え?」

シエル先輩の動きも停止する。

「……あれ……動かなくなっちゃったね」

アルクェイドはきょとんとしていた。

「先輩」
「え、ええと、その……」

先輩はいくつかのスイッチを押すのだがまったく微動だにしない。

「……もしかして、壊れた?」

こくり。

「アルクェイド」
「ん、なに?」
「逃げるぞっ!」

俺はアルクェイドの手を取って駆け出した。

「あ、ああっ! 遠野君っ! ちょ、ちょっと待ってくださいーっ!」

なんだか今日は走ってばかりである。
 
 
 
 
 

「はぁ……ここまでくればいいかな……」

俺は一階までアルクェイドを引っ張ってきていた。

「どうしたの? 志貴。今度はなんで逃げてきたの?」
「いや、その、椅子が壊れたっぽいから」
「だったら、余計に逃げてきちゃまずいんじゃない?」
「う」

アルクェイドの意見は正論だったりする。

「そ、そうなんだけど、つい」
「つい、じゃありませんよ遠野君」

息を切らした先輩が俺たちに追いついてきた。

「せ、先輩」
「はぁ……さっきのは、コンセントが抜けただけだったようです。アルクェイドがあんまりにも暴れるから抜けてしまったんでしょう」
「な、なんだ。そうだったのか」

故障ではなかったらしい。

「……よかった」

安堵の息を漏らす。

「だってあれ、くすぐったいんだもの。しょうがないでしょ」
「正しい使い方をすれば、ちゃんと気持ちのいいものなんです」
「ふーんそうなんだ」

するとアルクェイドは俺に向かってにこりと笑顔を向けた。

「な、なんだよ」

なんだか嫌な予感がする。

「ねえ、志貴。あれ面白かったから買ってくれない?」

やっぱり。

「バカ言え。いくらすると思ってるんだよ」

少なくとも一高校生の手の出るようなシロモノではない。

「じゃあ。わたしがお金出すから。ねえ、買ってよー」
「それも駄目だ。どうせ三日くらいですぐに飽きるんだから」

それにあんなもんを屋根裏に置いたら穴が空きそうである。

「そうですよアルクェイド。お金があるからって無駄づかいは良くありません」

先輩もアルクェイドをたしなめる。

「むー。じゃあシエル買いなさいよ。シエルはちゃんと使いそうだから買ってもいいんじゃない?」
「い、いえ、その……わたしは、全く置くスペースがありませんし……」

ごにょごにょと誤魔化すような仕草をする先輩。

うーん、教会の仕事もなかなかお金が入らなさそうな感じがするしなあ。

半分くらい慈善事業で成り立っている気がする。

「ちぇ。駄目か。わたしが買ってシエルの家に置かせてもらおうかなって考えたんだけど」
「え」

アルクェイドの言葉に先輩の目の色がちょっと変わった。

「あー。うん。ごほん。ちょ、ちょっと模様替えをすればあれくらい置けるかもしれませんねえ、はい。ばーっとお金を使うのもたまにはいいかもしれません」
「シエル、言ってることがさっきと180度違うんだけど」
「う……」
「先輩、なんかお互い苦労しますねえ」
「いやあ、その、あはは……」

照れくさそうに笑うシエル先輩。

「ま、椅子はとりあえずいいか。先にぬいぐるみよ」

アルクェイドは思い出すようにそんなことを言った。

「ぬいぐるみ、ですか?」

そういえば先輩は秋葉と話してないから知らないのか。

「シエル知ってる? 今日貰ったやつね、電池を入れられるんだって」

アルクェイドは自慢げにそう言った。

「そうなんですか」
「ええ。だから妹が電池を買いに来たのよ。いくら妹でももう買えたでしょうから、様子見に行きましょ」
「わかりました。そうしましょう」

電動椅子への未練を断ち切ったのか、先輩はいつもの表情に戻っていた。

「じゃ、レッツゴー」
「あ、こら……」

アルクェイドはものすごい速さで飛んで行ってしまった。

「……あんなスピードで行かれたら俺が置いてかれるってのに」
「仕方ありませんよ。アルクェイドは興味があるものが優先ですから」
「うーん」

とすると今の俺は電池以下か。

ちょっと悲しい。

「で、遠野君。さっき言えなかったことなんですけどね」
「ん?」

先輩はちょっと恥ずかしそうな顔をしていた。

「その、ですね。一度自覚してしまえば、そう意識せずとも人は変われるものなんだと思います。だから、あまり気にしすぎるのも良くないと思いますよ?」
「……朴念仁ってやつ?」
「ええ。多分、自分では気付いてないでしょうが、遠野君は以前よりは女性への気遣いかが出来るようになっていますから」
「そ、そうかな」
「はい。ですから自信を持ってください」
「う、うん。……なんか、ありがとう、先輩」

その一言で大分楽になれた気がした。

「いえいえ。こちらもお互い様ですから」
「お互い様?」
「ええ、その……」

先輩はやや戸惑うように頬を掻いた。

そして。

「わたしも、アルクェイドと楽しく遊んだり話をしたりできるだなんて思ってもいませんでしたから」
「……あ」

そうだ。

あんまりにも自然だったから気付かなかったけれど。

今日のアルクェイドとシエル先輩は、本当に楽しそうだった。

学校もそうだけど、たった今も。

「こ、こんなことアルクェイドには絶対言わないで下さいよ?」
「……ああ、うん。保証できないかもしれないけど考慮しておく」
「もうっ。遠野君っ!」

顔を真っ赤にしている先輩。

「ははは……」

絶対にあり得ないと思っていた事が、今実現している。

だからきっと。

「……行こう。シエル先輩。アルクェイド一人じゃ心配だ」
「そうですね。急ぎましょうか」
 

だからきっと、これからもなんとかなっていくんだろう――
 
 

続く



あとがき(?)
ある意味第三部完。
といってもここで終わるとなんだか中途半端なような気もしなくもないのでもうちょい続きます。
学校もまだ一回しかやっていませんし。
あとひとつくらい事件があるかないか、って感じですけれど、お付き合いいただければ幸いです。



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