「こ、こんなことアルクェイドには絶対言わないで下さいよ?」
「……ああ、うん。保証できないかもしれないけど考慮しておく」
「もうっ。遠野君っ!」

顔を真っ赤にしている先輩。

「ははは……」

絶対にあり得ないと思っていた事が、今実現している。

だからきっと。

「……行こう。シエル先輩。アルクェイド一人じゃ心配だ」
「そうですね。急ぎましょうか」
 

だからきっと、これからもなんとかなっていくんだろう――
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
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「ただいま」

遠野家の門をくぐる。

「おかえりなさいませ、志貴さま」

留守番をしていた翡翠が会釈して迎えてくれた。

「翡翠、留守番ありがとな」
「いえ、これも仕事ですから」

お礼を言うと翡翠は少し嬉しそうな顔をした。

「翡翠ちゃん顔赤いよ?」
「ね、姉さん……」

続いて琥珀さんが門をくぐる。

琥珀さんは秋葉の付き添いをしていただけのはずなのに、何故だかその両手には謎の袋が持たれていたりする。

ガクガク動物ランドぬいぐるみの新作でも買ってきたのだろうか。

「翡翠。特に変わった事は無かった?」
「はい。特にございませんでした」
「そう。よかったわ」

それから秋葉。

秋葉の手にも小さな袋が持たれている。

中身はもちろん電池だ。

琥珀さんのフォローのおかげで、秋葉はごく普通に電池を買う事が出来たのである。

レジにも一人で行ったし、カードじゃなくて、現金でしかも初めて見たという一円玉まで使ってぴったりお金を払ったのだ。

この秋葉の進展に俺は兄としてあまりの感動に涙すらしそうになったほどである。

というのはまあ冗談だけど。

とにかく秋葉が一人で電池を買う事が出来たのは嬉しい事だ。

アルクェイドのこともちょっと見る目が変わったようだし、これからの秋葉はちょっと違ってくるだろう。

それで俺に優しくなってくれればもう最高である。
 

「たっだいまー」
 

そして最後に秋葉の後ろからアルクェイドが顔を覗かせていた。

「アルクェイドさん。なんで貴方までついてきたんですか?」

そんなアルクェイドに顔をしかめている秋葉。

だがいつもよりは口調が柔らかい感じだ。

「えー。だってみんなのぶんの電池買ってくれたんでしょ? わたしがいなかったら悪いじゃないの」
「それはそうですけど……来週でも構わないでしょうに」
「いいの。早く見たいじゃない。シエルだって家に食材置いたら来るんでしょ?」

先輩は自宅にぬいぐるみが置いてある事もあって一旦家に帰宅していた。

だがアルクェイドの言う通り、すぐに家に遊びに来るだろう。

「アルクェイドさんもご自宅に帰られなくていいのですか?」
「わたしはいいのよ」
「あ、アルクェイドはさっきぬいぐるみを家に忘れちゃったんだよ。俺が預かってるんだ」

言及されると厄介なことになりそうなので俺は咄嗟にフォローを入れた。

「なるほど、アルクェイドさんはおっちょこちょいそうですからね」

秋葉は一応納得してくれたようだった。

「おっちょこちょい?」

どうやらアルクェイドは意味がわからなかったらしい。

おっちょこちょいなんて言葉まず使わないからなあ。

「元気があるってことだ」

とりあえず適当なことを言ってみた。

「そっかー。……って騙されないわよ。そそっかしいってことでしょ?」
「なんだ。わかってるじゃないか」
「む。わたしがそそっかっしいてどういうことなのよ、妹」
「……あのなぁ」

今ごろになって怒り出すアルクェイド。

「それじゃ秋葉の言った言葉そのまんまだろ。おっちょこちょいって言われたくなかったらもうちょっと慎重にしろってことだ」
「何よ。だいたい志貴がわたしがぬいぐるみを忘れたなんていうから変なことになったんでしょ? 別にわたしは忘れてなんかないんだから。屋根裏部屋に……」
「わーっ! わーっ!」

慌てて叫び声をあげる。

そんなことを聞かれてしまったらたまったもんじゃない。

「……ってあれ?」

不思議な事に秋葉たちの姿は近くにはなかった。

「何をしているんですか。置いていきますよ、兄さん」

見ると秋葉は既に玄関のほうに立っている。

俺たちが止まって会話をしていたので先に歩いていったらしい。

「……た、助かった」

安堵の息を漏らす。

「アルクェイド。前に言っただろ。おまえが屋根裏部屋にいるなんてばれたらまずいんだって」
「……あ、うん。ごめん」

すまなそうな顔を俺に向けるアルクェイド。

「聞かれなかったから別にいいけどさ……」

秋葉の言ったおっちょこちょいは間違いなくコイツに当てはまると思う。

「でも志貴」
「ん? なんだ?」

アルクェイドは腑に落ちないような顔をしていた。

「その……」
「志貴さまー。お急ぎくださいー。秋葉さまを待たせては後が怖いですよー?」

アルクェイドの言葉を遮る声。

琥珀さんが玄関から顔を覗かせ、手を振っていた。

「……いいや。また後でね」

それでアルクェイドは話すのを止めてしまった。

「ああ、うん」

何を言いたかったのか引っかかったけれど、とりあえず俺は玄関へと走るのであった。
 
 
 
 
 
 

「じゃ、俺は部屋のぬいぐるみ取ってくるからおまえは客間で待ってろよ」

秋葉も自分の部屋にエクスカリバーを取りに行ったらしいので、アルクェイドはとりあえず客間で待たせる事になった。

「ささ、アルクェイドさん行きましょう」

琥珀さんがアルクェイドの後ろでにこにこ笑っている。

その右手には、何やらよくわからないぬいぐるみがはめられていた。

「た、頼むよ琥珀さん?」
「ええ、決して悪いようにはいたしませんからー。多分きっと、おそらくもしかして」
「……」

思いっきり不安だ。

「す、すぐに行くからなっ、アルクェイドっ」

俺は部屋に向かってダッシュで階段を昇っていった。

「あはっ。琥珀のご利用は計画的にー」

本当に不安なので全力疾走である。
 

「志貴さま」

階段を昇ると翡翠がいた。

「ああ、翡翠。悪いけど今急いでるんだよ」
「何かあったのですか?」
「いや、何にもないんだけど琥珀さんにアルクェイドを任せたもんだから」
「かしこまりました。すぐにわたしが向かいますので」

さすがは翡翠、ものわかりが非常によかった。

「ああ頼む」

翡翠がいれば琥珀さんも妙な事はしないだろう。

急いで部屋へと駆けていく。

ばたん。

「……えーと」

屋根裏へのはしごを降ろし、さっさとよじのぼる。

このへんの作業が慣れてしまっているのは嬉しいやら嬉しくないやらって感じである。

「あいつ、どこに置いたかな」

スイッチの位置も熟知しているのですぐに電気をつける。

「お」

ベッドの上に二つぬいぐるみが転がっていた。

ライオンのぬいぐるみと教授のぬいぐるみである。

持ち上げて裏をよく見てみると、なるほど電池を入れるような場所が確かにあった。

「よく気付いたなあ、こんなの」

慎重に見ればわかるというものの、かなり上手い具合に隠されていて、子供とかだったらまず気付かないだろう。

俺も含めて。

「とにかくこれを持って……と」

二つのぬいぐるみを小脇に抱え、下のベッドへと飛び降りる。

「後は……」

他に何か持っていくものはなかっただろうか。

「……」

そこで俺は机の上にあるものに気がついた。

そうだ。せっかくだからこれも持っていったほうがいいだろう。
 

俺はそれを反対の脇に抱え、下へと急ぐのであった。
 

続く



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