「そんなシエルさんにプレゼントです。はい、どうぞ」

琥珀さんはどこから取り出したんだか、紙包みを先輩へと差し出していた。

「……」

恐る恐ると言った感じでそれを受け取る先輩。

「何が入ってるの? ねえねえ」
「……」

先輩は無言で袋を破り捨てた。

そこには。

「……これは」
「ええ。もちろん決まってるじゃないですかー」
「まさか……」
 

袋の中からは知得留先生が着ていたと思われる衣装が現れるのであった。
 
 






「屋根裏部屋の姫君」
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「琥珀。どういうつもりなの?」

秋葉が尋ねる。

「……」

琥珀さんがシエル先輩にそれをプレゼントするということは、あれだ。

今日琥珀さんがミスター陳や教授のコスプレをしたように、先輩もそれをやってくれということである。

「こ、こんなもの頂いても宜しいんですか?」

先輩はかなりうろたえているようである。

「はい。わたしではちょっとサイズが大きすぎまして。シエルさんなら丁度いいと思うんです」
「ほ、ほんとですかっ? これ、探してたんですよ」

っておい。

「先輩。マジ?」
「あ。はい。琥珀さんにこのぬいぐるみを貰った時から考えていたんです。これをやったら面白いかなと」
「シエルコスプレ好きだもんねー」
「だ、誰がコスプレ好きですかっ!」

アルクェイドの言葉に顔を赤らめる先輩。

「こすぷれ……って何でしょう?」
「さあ……」
「いや、別に秋葉と翡翠は知らなくていいから」

しかし先輩の場合本業は法衣のほうなので制服着ている事自体がコスプレなんだろうか。

そのへんの基準はよくわからない。

「そ、そうです。そんなのはどうでもいいことです。それより、電池を入れて確かめてみたんですか?」

あからさまに話題を変換するシエル先輩。

「そういえばまだ教授のやつしかやってないわね」

俺の目の前にある教授ぬいぐるみの頭を触るアルクェイド。

「ガクガク動物ランド、始まるぞ」

と、さっきと違う声が響いた。

「うわっ。違う事言ってるっ」

アルクェイドは目を丸くしている。

「いくつかパターンがあるんだろうな」

俺も頭を触ってみた。

「私は教授。知得留先生とガクガク動物ランドで仕事をしている」

またも違うセリフ。

「最近のぬいぐるみって凄いんですね」

秋葉も感心しているようだった。

「ライオンもやってみようっと」

俺がさっきやってみせたのと同じように手際良く電池を入れるアルクェイド。

「えい」

元の形に戻し、さっそくライオンの頭を触る。

「がぁーお、がぁーお」

リアルなライオンの鳴き声ではなく、なんだかコミカルな感じの声である。

「うわー。可愛い〜」

世ほど気に入ったのか何度も頭を撫でるアルクェイド。

その度にライオンはがおがお言っている。

「わ、私にもやらせていただけませんか?」

そんなライオンを見て翡翠が目を輝かせていた。

「ん? いいよ?」
「で、では……」

翡翠がおずおずとライオンの頭を触る。

「がぁーお、うがぁーお」

鳴き声にも微妙に違うパターンがあるらしい。

「これは可愛いですね……」
「だなぁ」

これはなかなか心和むぬいぐるみである。

「あはっ。では志貴さん。背中を触ってみていただけませんか?」
「背中?」

言われたとおり背中を触ってみた。

「グルルルルロロォォォガァ!」
「うわっ」

さっきの可愛い声と違ってやたらと野太い迫力ある鳴き声。

「ガクガク動物ランドのライオン、レオ君は背中を触られるのを極端に嫌う設定がありますので」
「そういう細かいところも再現しているんですよー」
「びっくりしたよ……」

秋葉なんてかなりの勢いで後ずさってたりするし。

「妹。その剣も試してみなさいよ」
「え……あ、はい」

秋葉は後ずさりながらもしっかり手に剣を持ったままであった。

防衛本能とでも言おうか。

「……えーと」

やや戸惑いながら電池を入れる秋葉。

「これは触ったからと言って何かあるわけではなさそうですね……」

秋葉の言う通り、柄や刃の部分に触っても特に何も起きなかった。

「あはっ。そのエクスカリバーはちょっと特殊なんですよ。秋葉さま。それを教授に向けて頂けますか?」
「え、ええ……」

ゆっくりと切っ先を教授のぬいぐるみへ向ける秋葉。

「む……それは聖剣エクスカリバー。あらゆるものを一刀両断出切る魔力を秘めた伝説の剣だ」

すると教授のほうが勝手に喋り出した。

「電池を入れると特殊な光線が出て教授が解説をしてくれるんですよー」
「凄いな。斬新なオモチャだ」

子供に驚きを与え尚且つ購買意欲を刺激するナイスな設定である。

「ちなみに知得留先生へ向けても反応があります」
「知得留先生にですか」

シエル先輩に切っ先を向ける秋葉。

「わ、わたしに向けてもしょうがないですって」

苦笑しながら電池をぬいぐるみへ入れる先輩。

「こ、これは聖剣エクスカリバーっ! 選ばれたものしか抜けない剣のはずなのに……あ、あなたはまさか剣の覇者っ?」

知得留先生の声はかなり驚いている感じである。

そして確かに先輩の声に似ていた。

「教授より知得留先生のほうが驚いてる感じねー」
「だなあ」

ちゃんとそのキャラの個性というものをしっかり生かして作ってあるんだろう。

俺は感心していた。

「でも、エクスカリバーってゲームとかの影響でかなり知名度がありますよね。実際の剣は滅多に見られないのに」

一方全然違うところに反応しているシエル先輩。

「……じ、実在するの? エクスカリバーって」
「いえ、その、あ、あったらいいなあってことで。あはは」

誤魔化すように笑う先輩。

まあ深くは聞かないでおこう。

「さらにスイッチを押すと凄い事になるんですよ」
「スイッチ?」
「ええ。柄のところにあるはずなんですけど」
「……これかしら?」

秋葉が中央の赤い部分を押すと、剣がぴかぴかと光を放ち始めた。

「おお」

オモチャの剣としてはありがちな演出だけどなかなか迫力がある。

「さらにそれを振ってみてくださいな」
「こ、こう?」

何故か俺に向けて剣を振る秋葉。
 

ジュイーン!
 

「うおっ……」

光の軌跡が、俺を一刀両断したように見えた。

もちろんそんなことはないんだけど、凄くリアルだ。

そしてそんなことをやられた男の反応は決まりきっている。

「ぐあーっ! や、やられたーっ!」

大げさに叫んで後方へと倒れ込む。

「ちょ、ちょっと兄さんっ?」
「……いや、昔のくせでつい」

じゃんけんに負ける事が多かったので悪人のやられ方が板についてしまってるのだ。

「秋葉さま、志貴さんが困った事をなさったらいつでもそのエクスカリバーを使っちゃってくださいねー」
「なるほど。兄さんには口でいうよりこちらのほうが効果がありそうです」
「いや……毎度ぶっ倒れてたらシャレにならないから勘弁してくれ」
「ふふ。いい切り札を得たようです」

ああ、悪魔の手に聖剣が渡ってしまった。

「これでだいたい動きは見たかしら? 他に何かなかったっけ?」

俺の様子などお構いなしにきょろきょろあたりを見まわしているアルクェイド。

「教授にライオン、エクスカリバーに知得留先生と……」

だいたいのものは見たと言えるけど、まだ肝心のものがあるのだ。

「あとエト君があるだろ」

そう、まだ翡翠の貰ったエト君がある。

「あ、そっか」
「……」

翡翠はまだエト君の正面で硬直していた。

「翡翠ったら、あれじゃ永久に電池なんて入れられないんじゃないかしら」
「かもしれない」
「翡翠ちゃん……」

全員の視線が翡翠とエト君に集中する。

「……いーこと考えた」
「う?」

声の方を見るとアルクェイドが悪戯っぽい表情をしていた。

「シエル。協力しなさいっ」
「あ、ちょ、ちょっとこらアルクェイドっ……」
 

そして先輩はアルクェイドにさらわれてしまうのであった。
 

続く



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