特徴的なのは金の髪と赤い瞳。

そして白い上着に紫のスカート、そこからすらりと伸びる白い足。

うむ。確かに美人だ。

これなら有彦が夢中になるのもわかる気がする。

「いよっ! 待ってましたーっ!」

拍手までしてその人を出迎える有彦。

「はーい乾君ありがとねー」

ひらひらと手を振り返す先生。

「じゃあ、今日は32ページからだったかしら? 教科書を開いてね」

そうして先生は授業を始めようとしていた。
 

っていうかそいいかげん突っ込んでもいいだろう。
 

「なに……やってんだこのばかおんな―――っ!」
 

それはどこからどう見てもアルクェイドなのであった。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
3の5









「……」

教室はしんとしていた。

それはそうだろう。こんな教師らしからぬもない格好をしたアルクェイドが教室に入ってきたのだから。

いや、でも有彦はコイツを先生と認識しているような発言をしていた気もするけど、まあいい。

とにかくコイツはどう見たってアルクェイドである。

「何言ってるんだ? 遠野」

有彦は首を傾げていた。

「バカ。おまえ、知ってるだろ? コイツはアルクェイドだ。この前会ったじゃないか。忘れたのか?」
「……はぁ? わけがわからないぞ遠野。アルク先生とは毎日学校で会ってる。当たり前だろ」
「おまえこそ何言ってるんだ有彦っ。おかしいぞっ!」

そう有彦をなじると周囲から野次が飛んできた。

「おかしいのはおまえだ遠野っ!」
「そうだそうだ! 先生に向かってバカ女だなんて言いやがってっ! 謝れっ!」
「う」

ブーイングの嵐である。

「……どうなってるんだ?」

みんなアルクェイドに何かされたんだろうか。

「いいのよ。わたしは気にしてないから。ほら遠野クン。席について」

アルクェイドにクン付けなんかされると背筋がぞくぞくする。

違和感ありまくりだ。

「……このやろう」

渋々席へと座る。

そうか、今日がなんかおかしかったのはみんなコイツのせいだったのか。

何をやったのか知らないけど、授業が終わったら問いただしてやる。

「えーとでは授業を再開……。ああ。そういえば先に宿題を集めなくちゃね。後ろの人から前に回していって」

しかしアルクェイドは妙に教師っぽい言動が板についていた。

「先生っ、宿題忘れましたっ!」

垂直に手を上げて立ちあがる有彦。

「あらら。駄目よ乾クン。宿題はやらなきゃ。しばらくそのまま立ってなさい?」
「はーい」

あれで格好さえ先生らしければ完璧なんだけど。

……じゃなくて。

俺は騙されないぞ。

あれはアルクェイドだ。間違いない。

あいつが学校に来ることなんか認めてはいけないのだ。
 
 
 
 
 

キーンコーンカーンコーン。

授業終了のチャイムが鳴った。

「はい。じゃあ今日の授業はここまでね。各自、家でちゃんと予習するのよ?」
「はーいっ!」

元気良く返事をしているのはもちろん有彦である。

なんていうかこの時間の有彦は「おまえ本当に有彦か?」と聞きたくなるくらい勉強熱心だった。

しかもアルクェイドの教え方が実にうまい。

公式の上手い語呂合せでの覚え方や、地道な基礎の練習問題を繰り返すことによるでの実戦効果、さらに応用問題と、とてもわかりやすい解き方を指導してくれた。

はっきりいってこのままアルクェイドに数学を教わりたいくらいである。

「……いや、駄目だ」

秋葉もいるし先輩もいる。

この二人にアルクェイドを見られたら大変なことになってしまうじゃないか。

「よし」

アルクェイドが教室を出ていったのですぐに後を追う。

「……」

アルクェイドはつかつかと廊下を歩いていた。

時々生徒に挨拶までされている。

「アルクェイド」

後ろから肩を叩く。

「……?」

くるりと振りかえるアルクェイド。

「あら、遠野クン。どうしたの?」
「……その呼び方、寒気がするから勘弁してくれ。いつも通りでいい」
「いつも通り……って?」

アルクェイドはきょとんとしている。

「とぼけるなよ、おまえ。アルクェイドだろ?」
「……アルクェイドって誰?」

をい。

「いいかげんにしろっ! おまえはアルクェイドだろっ!」
「ええと……わたし、そのアルクェイドさんと似ているの?」
「……?」

おかしい。会話が噛み合ってない。

まさかこいつ……いや、この人はアルクェイドじゃないんじゃないだろうか。

いやいやいやいや。

こんなアルクェイドに似ている人がいるわけがない。

「……」

アルクェイドは不思議そうな顔をしながらつけているメガネに手を当てた。

「……メガネ?」

アルクェイドはメガネなんてしてないはずだけど。

だ、騙されないぞメガネくらいでっ!

メガネをかけたら別人に見えるなんて今時マンガの世界だって起きないことである。
 

「ええと……つかぬことを聞きますが、お名前は?」

まあそれでも一応尋ねてみたりする。

「わたし? わたしはアルク。アルク=スタッド」

アルクェイドの本名はアルクェイド=ブリュンスタッド。

んでこの先生さんはアルク=スタッドというらしい。

なるほど、別人のようだ。

そうかぁ、違う人かぁ。

はっはっは。
 

「……って騙されるかっ! やっぱアルクェイドだろおまえ!」
「し、知らないわよ」

もう絶対間違いない。

コイツはアルクェイドだ。

「……暗示が浅かったかしら」
「ん? なんだって?」

アルクェイドはよくわからないことを呟いていた。

「とにかくわたしはそのアルクェイドとかいう人とは別人よ。赤の他人だわ」
「とぼけるなっ! なんだったら今すぐ先輩のところに連れてってもいいんだぞっ!」
「先輩……? 誰だか知らないけど、別にいいわよ?」
「よーし。じゃあ来いっ」

先輩のところに行けば即座にコイツの正体を見破ってくれるだろう。

先輩に確認しなきゃ確認できないってのが我ながら情けないところだけど。

とにかくシエル先輩に確認すれば間違いナシだ。
 
 
 
 
 

「遠野君。どうしたんですか? 三年生の教室に来たりして」

俺が教室へ入っていくと先輩は驚いた顔をしていた。

というか入っていってからここが上級生の教室だと言うことを思い出してしまった。

ををう、さすが三年生。

同年代と違って色っぽいおねーさんが目白押しである。

「遠野君?」
「はっ! いや、先輩が色っぽくないとかそういう意味じゃなくてっ! いや、何言ってるんだ俺っ。とにかく会って欲しい人がいるんですよ」
「……はぁ。よくわからないけどわかりました。どこにいるんですか? その人は」
「廊下で待ってます。来て下さい」
「あ、ちょっとっ……」

先輩の手を引っ張って廊下まで連れていく。

そこには疑惑のアルク先生が。

「……」
「……」

見詰め合う二人。

もしかしたら俺、非常にまずい状況を作り出してしまったんじゃないだろうか。

ここが今すぐ戦場になってしまうような。

しかし。

意外な言葉が先輩の口から発せられた。
 

「どうしたんですか? アルク先生。数学の時間はまだですよ?」
 

つまりコイツを、いや、この人を先生だと認める発言である。
 

「あ、あれっ……? ということは……あの、ほんとに……別……人?」
「これでわかったかしら? 遠野クン」

にこりと微笑むアルク先生。

「すっ、すみませんでしたっ! あの、俺の知り合いに先生が似ててついっ!」

俺は思いっきり頭を下げた。

「ううん。いいのよ。わかってくれて嬉しいわ」

アルク先生はひらひらと手を振っていた。

うーん、アルクェイドと違ってなんて寛容力のある女性なんだ。

この人をアルクェイドと同一人物だと思ってしまった自分が情けない。

「じゃ、わたし戻るわね」
「あ、はい。すいませんでしたっ」

アルク先生はしーゆーあげいんと英語っぽくない発音で言って去っていった。
 

「……なんだ……ほんとに勘違いだったのか……」
 

世の中には不思議なこともあるもんだなあ。
 

だんっ!
 

「うわっ」

音のしたほうを見ると先輩が壁に拳を叩きつけていた。

「どどど、どうしたんですか先輩っ?」
「え……あっ」

自分で拳を見て驚く先輩。

壁にはヒビが入っていたりする。

「な、なんででしょう?」
「……いや、俺に聞かれても」

先輩はなんで自分がそんなことをしたのかわかっていないようだった。

「と、とりあえずここは後で直しておきますのでっ。遠野君、そろそろ教室に戻ったほうがいいんじゃ?」
「あ、え、はい。そうします」

先輩に一礼してその場を立ち去る。

先輩なら壁を元に戻すくらいできるんだろう。
 

「……」
 

最後に見た先輩の顔は、何故か法衣を着たときのように真剣な表情をしていたのであった。
 
 

続く



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