「え、ええと志貴さん。この件に関してはどうか……その」

ななこさんは涙目で懇願してきた。

「……あ、ああ、うん」
 

そう言われてしまっては俺の答えはひとつしかないわけで。
 

「安心してくれ。その事に関しては有彦に一切聞かないから」
 

どうやら二人の間に妙な協定が出来てしまったようである。
 
 





「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その10






「は、はい。ありがとうございます」
「ああ。だから俺の件も頼むよ」
「ええ、もちろんです」
「はは……は」
「あ、あはは……は」

二人して苦笑しあう。

「……」

それからしばしの沈黙。

なんとなく気まずい雰囲気である。

「あ、あのっ」
「うん、なに?」
「え、ええとその、いい天気ですね」
「そ、そうだね、うん。いい天気だ……」

そしてどうしても会話がぎこちなくなってしまっていた。

「……うーむ」

どうしたもんだろうか。

ここはひとつ冗談でも言ってみるか。

「ななこさん」
「はい。なんでしょう」
「隣の家に囲いが出来たってね」
「はぁ。そうなんですか。あれ、でもお隣さんもアパートではなかったでしたっけ」
「……い、いやそうなんだけど……その、へーって言って欲しかっただけで」
「そ、そうなんですか? す、すいません。 も、もう一度やったら上手くやりますんで」
「い、いや、そんなに気にしなくていいから、うん」

いかん、気まず過ぎる。

「やっほー。志貴、いるー?」

そこへアルクェイドが現れた。

「お」

実にナイスタイミングである。

「話は終わったのか?」
「ううん。終わってないんだけどシエルがパンクしちゃいそうだったから中断したの」
「先輩が……パンク?」

一体どんな状態なんだろう。

何せアルクェイドの言うことなのでさっぱり想像出来ない。

「見ればわかるわよ。とりあえず来てみる?」
「おう」
「あ、はーい」

俺とななこさんはアルクェイドについていった。
 
 
 
 

「……うー……」

居間では先輩が尋常じゃない表情をして頭を抱えていた。

「せ、先輩。大丈夫?」
「……あ、遠野君……」

そんなに時間は経っていないはずなのに、えらい疲れようである。

「いえ……なんていうか……もう……がーっ! って感じで」

叫んだ後がっくりとうなだれる先輩。

「がーっ! ……ですか」
「ええ。もうどうにもなりません」

先輩の前には物凄い量の字が書かれたノートが置かれている。

俺はそのノートを見ただけでがーっ! って感じだ。

まあわかりやすく言うならどうにもならなくて叫びたくなるような状態である。

なるほどパンクというのは情報を詰め込みすぎたってことか。

「なんだか難しいこと言ってましたもんねー。特殊なんたらと」

ななこさんが先輩にお茶を差し出す。

「ありがとうセブン。……でも相対性理論はわたしが関連性があるかどうかを尋ねただけです。別に難しい理論でもなんでもありません」
「そ、そうなんですか……」
「そ、そうなんだ……」

俺には聞いただけでノックダウンしてしまいそうな単語なのに。

「わたしの場合特殊もへったくれもないからねー。どれも条件は同じなのよ。そのへんを説明してたらシエルがパンクしちゃったの」
「そんなことを言われても……アルクェイドの説明が大雑把な上に難しすぎるんですよ」

これだって何を書いたか自分でもわかりませんし、とノートを指す。

「むー。だってわたしが空想具現化をする時はそんなに難しい事考えてないもの」
「説明できるということは完全に理解しているということですよ。……まさに化け物ですね、あなたは」
「そりゃそうよ。わたしは真祖だもん」

にこりと笑うアルクェイド。

「嫌味のつもりだったんですけどね」

先輩のほうは苦笑していた。

「で、シエル。続きはどうしよっか?」
「今日は止めておきます。頭がどうにかなっちゃいそうですから」
「それが賢明ね」
「ええ。……上層部に理解できる人がいればいいんですが」

どこか遠い目をするシエル先輩。

「ま、無理でしょ。シエルより頭固いもん、あの人たち」

アルクェイドはふふんと鼻で笑っていた。

「痛いところを突かないで下さい……」

やはり上というものはお堅い存在のようである。

「でも実際問題、人間じゃ理解出来るとしても300年はかかると思うわよ? あ、そんなに寿命ないんだっけ」
「構いませんよ。わたしだけの問題ではありませんから。将来的に役立てばいいんです」
「ふーん。よくわからないわねえ」

まあ世の中にある偉大な発見も、何人もの人たちが挑んで発見したものが多いのだ。

かのダーウィンの発見も先人の資料があったこそだって言うし。

人は歴史を紡いでいくのである。

「で、アルクェイドのほうはどうなんだ? いい情報は得られたのか?」
「うん。ばっちり」

アルクェイドは俺に向けてブイサインをした。

「そりゃよかったな」

さすがというかなんというか。

こいつは案外やることなすことそつがないのだ。

「うらやましいですよ、ほんと……」

溜息をつくシエル先輩。

「だなあ」

俺にもちょっとでいいからその記憶力とかをわけてもらいたいもんだ。

「じゃあとりあえずこれでわたしのほうの用件は終わりね」
「そうですか」

それを聞いた先輩は立ち上がった。

「ではせっかくですからアルクェイドにもお茶を煎れますよ。待っていてください」
「あら。いいのかしら?」
「ええ。一応留守番をしてくれていたわけですし。仕事と私的なものは区別しますよ」

普段はどうかわかりませんけどね、と意味深な言葉を続けるシエル先輩。

「あ、ではわたしが煎れてきますよー」
「そうですか? すいませんねセブン」
「いえいえー」

ななこさんは台所へ飛んでいった。

「シエルはそういうところ偉いわよねー。相手によっては四六時中わたしを狙ってくるっていうのに」

笑顔でそんなことを言うアルクェイドだが、笑い事じゃないと思う。

「おや、教会から命令が来たらそれこそ二十四時間狙い続けると思いますけれど?」
「それはあり得ないわね。教会は認めはしないだろうけどわたしの力が必要なはずだもん。じゃなきゃシエルだってわたしの情報なんて欲しがらないでしょ」
「ええ。皮肉な話です」

笑い合う二人。

「うーむ」

なんだかシエル先輩とアルクェイドは近くにいるのにとても遠い話をしているようである。

「やっぱり凄いんだなあ、二人とも。なんか俺、場違いだよ」

この場所に俺がいる事自体不思議でならなかった。

ところが二人はおんなじような顔をして俺を見る。

「何言ってるんですか。遠野君が一番とんでもないんですよ」
「そうよそうよ。わたしを殺したくせに」
「それに、その信じられないほどの鈍感も」
「ええ、とんでもないんだから」
「……うう」

何故だか俺ばかりが責められている。

世の中理不尽なことばかりだ。
 

そして同時に、この二人実は息がぴったりなんじゃないか? とも思った。
 
 

続く



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