「何言ってるんですか。遠野君が一番とんでもないんですよ」
「そうよそうよ。わたしを殺したくせに」
「それに、その信じられないほどの鈍感も」
「ええ、とんでもないんだから」
「……うう」

何故だか俺ばかりが責められている。

世の中理不尽なことばかりだ。
 

そして同時に、この二人実は息がぴったりなんじゃないか? とも思った。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その11













「おや、珍しいですねー。マスターとアルクェイドさんが意気投合してるだなんて」

そこへななこさんがお茶を煎れて戻ってくる。

「まあ、他ならぬ遠野君のことですからね」
「お互い思うところがあるってことよ」
「うう、俺そんなに悪いこと二人にした覚えないんだけど」

苦笑いしながらお茶をすする俺。

「それで、志貴さんってもしかして凄い力の持ち主なんですか?」

ななこさんが興味ありげな顔をして尋ねてきた。

「うん……まあ、日常生活にはまったく役に立たないんだけどさ」
「そうでもないんじゃない? 閉じ込められちゃった時に鍵を壊すとか」
「それ、すごい限定された状況だと思うんだけどな」

一度そんな状況があったような気もしなくもないが。

「むー」
「はあ。指からビームが出るとかなんでしょうか」
「いや、なんていうかその……モノを殺すことが出来るんだけど」
「モ、モノを殺す?」

目をぱちくりさせるななこさん。

「志貴、実際やってみせなきゃ説明出来ないと思うわよ。わたしより無茶苦茶な能力なんだから」
「うーん……」

やはり百聞は一見にしかずというやつか。

「それを決めるのは遠野君でしょう? それからセブン。あれやこれやと聞くのは止めなさい」
「はうっ!」

先輩にたしなめられななこさんはびくついていた。

「いや、別に構わないよ。ななこさんになら教えても問題なさそうだし」

聖霊であるななこさんから誰かに情報が漏れる心配はないわけである。

なんせ普通の人には姿も見えないし声も聞こえないのだから。

「ええと、先輩。何か壊れてもいいものってあるかな」
「いいんですか? 遠野君。すいませんね。では……うん。このダンベルなんてどうでしょう」

先輩は30キロくらいありそうなダンベルを片手で持ち上げていた。

「う、うん。じゃあ、それで……」
「はい」

テーブルの上にそれを置くとずんっと鈍い音がした。

「……じゃ、じゃあ、うん。ななこさん、これを叩いてみて」
「はあ」

蹄でぱかぽことダンベルを叩くななこさん。

「固いですねー」
「うん。鉄だからね。これをこう……切っても切れないだろ?」

ポケットから短刀を出して刃を当ててみる。

「それはそうですよー。そんなこと出来るわけありません」
「だろ。ところが……」

俺はメガネを外した。

軽い頭痛の後、最初はうっすらと、やがてはっきりと線が見えてくる。

「こうして、と」

その線に合わせて短刀を動かした。

するとバターのようにあっさりとダンベルが切れる。

「まあこんなもんでどうかな」

俺はメガネをかけ直した。

「わ、わわわ? 切れちゃいましたよ?」

割れた片割れをぽこぽこ叩くななこさん。

「セブン。タネも仕掛けもないですよ。それが遠野君の『直死の魔眼』の力ですから。……そもそも前に教えた気がするんですけれど」

ななこさんに向けにこりと笑うシエル先輩。

「え、だ、だってあれは冗談だと思ってました。そんな、なんでも殺せる力なんて……」
「俺も冗談だと思いたいけどさ」

思いたいけれどそういう力を持ってしまったのである。

「……志貴さんも大変なんですね」

ななこさんが泣きそうな顔をしていた。

「いや、メガネをかけていれば線は見えないしね。ほんとにいざって時しかこれは使わないことにしてるんだ」

実際、直死の魔眼を使ったのは本当に久々のことだと思う。

「シエル。ちょっと気になったんだけど、教会に志貴のことって報告したの?」

アルクェイドが真剣な表情をして尋ねていた。

「いえ。話すわけないじゃないですか。遠野君はあくまで善意の協力者だったんですから」
「そう。ならいいけど」

アルクェイドの言っているのはちょっと前に起きた吸血殺人事件のことだろう。

その一件で俺はアルクェイドに出会い、巻き込まれ、そしてなんだかんだで事件を解決してしまった。

そしてそれからこいつとの腐れ縁が続いているわけなのだが。

「なんで話すとまずいんだ?」
「だって教会が志貴のこと知ったら、何が何でも戦力にしようとすると思うわよ?」
「う」

そいつは困る。

なんだかんだで今の生活には満足しているし、あの事件のようなことは二度と体験したくないとも思う。

「そうです。だからあの事件は全てアルクェイドとわたしでなんとかしたということにしました」
「えー? シエル何かしてたっけ?」
「し、してましたよっ! あなたがある程度自由に活動できたのもわたしのサポートがあってこそなんですからねっ?」

ムキになって反論する先輩。

「どっちかっていうと邪魔ばっかりされてた気がするけど……」
「それは他人の空似です」
「嘘ばっかり」

アルクェイドは楽しそうに笑っていた。

「まったく……」
「つまりアルクェイドさんがホームランバッター、マスターが送りバント、志貴さんは代打の切り札ってところなんですかね?」

実に妙ちくりんな例えをするななこさん。

だがイメージとしては間違ってもいないような。

「セブン。それはわたしが地味だと言いたいんですか?」
「え。いえ、ええと、わたし野球のルールってよくわからないですしー」
「この前二人で野球を観戦したじゃないですか。テレビの」
「えーうー、あー」

ななこさんは汗だらだら状態である。

「ま、まあまあ。とにかくななこさん。これで俺の力はわかったかな?」
「あ、えっ? は、はい。よくわかりました。志貴さんは凄いです。そんな力まで持っていてさらに無意識の女殺しさんなんですから」
「む」

その言葉はさっきも言われた気がする。

「ふむ。セブン。あなたなかなか上手い言いかたをしますね」
「そうね。言い得て妙だわ」

しかも二人はやたらと感心していた。

「お、俺、そっちのほうが気になるんだけど。どういうことなのかな? 鈍感と関係ある?」
「……こればっかりはねえ」
「遠野君に頑張って貰うしかないですもんね」

また意気投合しあう二人。

「つまり、そこが志貴さんのいいところでもあり、悪いところでもあるってことだと思いますが。そうですよね?」
「その通りです」
「いいところでもあり悪いところでも……」

さっぱりわからない。

「なあ、アルクェイド。説明してくれよ」
「つまり志貴は女を勉強しろってことね。とりあえず一緒に寝てみよっか?」

アルクェイドはそう言うと俺に擦り寄ってきた。

「こ、こらっ」
「あ、アルクェイドっ! あなたっ!」

俺よりも先輩のほうが強い声で怒鳴る。

「冗談よ。冗談」

アルクェイドはにこにこ笑っていた。

「まったく油断も隙もないんですから」
「別にシエルの家じゃなくたって出来るもんねー。志貴?」
「い、いや、その」
「アールークーェイードーっ!」

がしっとななこさんの頭を掴む先輩。

「わ、わっ? ちょっとマスターっ?」
「往生なさいっ!」
「あはは、シエル怒っちゃった?」

そうして追いかけっこをはじめ出す二人……と引きずられてる一匹。

「あはは……はあ」

結局はこうなるのか。
 

「もう好きにしてください」
 

俺はひとり空しくお茶をすするのであった。
 

続く



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