しかしアルクェイドによってベッドに押し倒される先輩というのもなかなか見られないシチュエーションである。

「なんだかレズっぽいですねー」
「……」

いや、その通りなんだけど。

言わないほうがよかったんじゃないかなあ。

「セブン。大事な話があるからこちらにいらっしゃい」

先輩は笑顔で手招きをしていた。

「う、うわっ。わたしそっちの気はありませんからっ」

先輩の言葉にななこさんは思いっきり引いている。

「ちょっとこらっ! そういう誤解を招くような発言はお止めなさいっ!」
「わーっ! お助けを〜」
 

今度は先輩とななこさんの追いかけっこが始まるのであった。
 
 




「屋根裏部屋の姫君」
第四部
姫君と居候
その13







「あはは、シエルって追いかけっこ好きなのねー」

アルクェイドはベッドに座って笑っている。

「いや、そういうわけじゃないと思うけど」

でも吸血鬼やら何やらを追いかけるのが仕事なわけで、癖にはなっているのかもしれない。

「うわーん。たーすけー……」
「ん?」

見るとななこさんの姿がだんだんとぼやけはじめていた。

「アルクェイド。なんかななこさんの姿が……」
「ん? ああ。そろそろ効果が切れたのかしらね」
「ああ、そうか」

そういえばアルクェイドのおかげでななこさんが見えるようになってたんだっけ。

あんまりにも自然にいるもんだからすっかり忘れていた。

「……」

そしてついに声も姿もなくなってしまう。

「待ちなさいセブンっ! そんなところをっ……!」

そんなわけで一人駆け回るシエル先輩はかなりマヌケである。

「せ、先輩。その、ちょっとストップ」
「なんですか遠野君。今忙しいんですが」
「いや、その、ななこさんがもう俺に見えなくなっちゃってるんで……」
「あ」

その言葉で全てを理解したらしい。

「そ、それはどうも、見苦しいところを」

先輩は顔を真っ赤にしていた。

「い、いやいや」
「あはは、なかなか面白かったわよ」
「くっ……このっ」
「ま、まあまあまあまあ。先輩落ちついて」
「……わかってます。敵を前にしたら常にクールであれと師も言っていました」
「はは……」

それもまたどこかで聞いたようなセリフである。

「にしてもシエルはこの部屋で寝てるわけかー。意外と凝った作りじゃない」

アルクェイドはベッドの周りを興味深そうに眺めていた。

「別に大したものはありませんよ。そのベッドにしたって教会の試供品ですし」
「あ。そうなんだ。へえ」
「……吸血鬼が進入不可能だというのが売りだったらしいんですけれどね」

先輩は苦笑していた。

「あー。言われてみればちょっと体がかゆいかも」
「いいですよ、そんな気を使わなくたって」
「ま、まあアルクェイドは特殊だしさっ。普通の吸血鬼だったら絶対入ってこれないよ」

我ながらよくわからないフォローである。

「別に入ってきたら入ってきたで困らないんですけれどね。飛んで火に入る夏の虫です」

先輩のメガネが怪しく光っていた。

「シエルのアパートって実はそういうのの対策を滅茶苦茶にしてあるでしょ?」
「え? そうなのか?」

丸っきり見た目は普通のアパートなのに。

「ええ。庭の草が魔方陣型に刈られてたし、入り口入るときもビリッときたもん」
「へえ……」
「わかりやすく言えば家自体が吸血鬼ホイホイみたいな感じ?」
「……その言いかたは止めてください、お願いだから」

先輩はものすごく脱力していた。

「あはは。ごめんごめん」
「はぁ。まったくあなたを見ているとわたしの細かい配慮が全く無意味なようで悲しくなってきますよ」
「い、いや、先輩の配慮にはほんとに助かってるよ、うん」
「そうですか? そう言って下さるとありがたいんですが」
「細かい配慮ねえ……」

アルクェイドは首を傾げていた。

「先輩はさりげないフォローを入れてくれたり、人がこうして欲しいっていうことをやってくれるだろ」
「そう?」
「おまえなあ。先週も知得留先生をやってもらって凄い喜んでたじゃないか」
「あー。うんうん。あれはすっごいよかった」

一変して満面の笑みを浮かべるアルクェイド。

「よ、よかったですか?」
「うん。シエルと知得留先生ってすっごい似てるんだもん」

知得留先生というのは子供向け番組『知得留先生のガクガク動物ランド』の主役であり、司会のお姉さん的なキャラクターである。

そしてシエル先輩と知得留先生はその容姿、性格、雰囲気がこれでもかってくらいに似ているのだ。

他にも教授、ミスター陳、喋る鹿のエト君など個性的すぎるキャラが多いので興味がある方は一度見てみてはどうだろうか。

「ボンソワール。アルクェイド君。授業を始めますよ」
「はーい」

先輩はノリノリだった。

「先週はルールを守りましょうという授業をしましたが、覚えていますね?」
「ええ。信号は青の時しか渡らない、歩行者は原則では右側を歩くってやつでしょ?」
「そうです。よく覚えていました」
「えへへー」

なんだかこのまま擬似授業に突入っぽい雰囲気である。

「でも日本じゃ車は左側通行なのよね。ややこしいわ」
「そういうのはそれぞれの国の事情というものがあるんですよ」
「うーむ」

ハイレベルなような、そうでもないような会話だ。

「ところで先輩、質問なんだけど」
「はい。なんでしょうか遠野君」
「それだけ知得留先生の真似が上手いってことは、先輩もガクガク動物ランドを見てるってことなのかな」
「……ええ、まあ研究の一環として」

どんな研究だろう。

「へえ。シエルも見てるんだー。わたしも毎週見てるよ」

ちなみに翡翠と琥珀さん、アルクェイドはその番組の大ファンである。

だから子供向け番組を見ているからといって先輩が子供っぽいというわけにはならないだろう。

琥珀さん曰く、あの番組には子供も楽しめ、尚且つ大人にしかわからない深い味というものがあるんだそうだ。

俺には未だに理解できていないけれど。

「そうなんですか。アルクェイドは誰が好きなんです?」
「わたしは教授かな。あの渋い口調が何とも言えないのよ」

教授はデフォルメされた着ぐるみだというのに渋い出で立ちと声を持つ凄いキャラクターなのだ。

その存在自体が子供番組という枠から外れていると思う。

「教授は面白いですね。真面目な顔でおかしなことを時々言いますし」
「でしょでしょ? 志貴にちょっと通じるところがあるわよね」
「言えてます」
「お、俺そんな変なこと言ってるつもりないんだけど」
「本人に意識がないところが共通ですよね」
「うんうん」

俺の言葉は丸っきり無視されていた。

そしてやっぱり二人は気が合っている気がする。

「シエルはやっぱり知得留先生が好きなの?」
「ええ、そうですね。真面目な女教師というのは憧れます」
「それは同感だな」

ちょっとヨコシマな願望も入ってしまうが、女教師というものには憧れるものだ。

今度アルクェイドに……いやいや。

「ミスター陳といい、知得留先生といい、胡散臭い外国語が面白いわよね」
「でも実際中国語の語尾は〜アルというものが多いんですよ」
「へえ。そうなんだ」

俺のほうが感心してしまった。

「ボンソワールはイタリア語だっけ?」
「フランスですよ。まあ、知得留先生のフランス語はエセフランス語が多いんで参考にはならないでしょうが」
「イタリアーノ、シャベリーノ、ペラペラーナのってな」
「な、なにそれ志貴」

アルクェイドは大笑いしている。

「な、なんだよ。エセフランス語ってのはこういうのを言うんだぞ」

イタリア語はなんとかーのかんとかーなというものが多いらしいのだ。

「ええ、遠野君の言い分も間違ってはいないですけれど……知得留先生より胡散臭いですよ」

シエル先輩も笑っていた。

「はは……は」

なんだか照れくさいがまあ結果オーライってことで。

「ふふふ。それで、遠野君は誰が好きなんです?」
「え、いや、ええと、その」

そう言われて俺は困ってしまった。

先述の通り俺にはガクガク動物ランドの面白さというのがほとんど理解できていないのである。

「あ。それ興味あるな。ねえねえ、志貴は誰が好きなの?」

アルクェイドまで興味津々な様子である。

「俺はええと……だから……その」

とっさにキャラの名前も出てこない。

知得留先生、教授にエト君、それからミスター陳。

他に誰かいただろうか。

「えーと、えーと」

教授と言ってもいいんだけれど、なんだか同じキャラを言うのも癪なので他のキャラを考えてみる。

だが丸っきり思いつかなかった。

ここはもういっそギャグに走ってしまうというのはどうだろうか。
 

「俺は……きのこが好きだなあ」
 

そんなわけで俺は存在するはずのないキャラクター、というかキャラクターですらないものを言ってみた。
 

「うわ、志貴。ちゃんときのこの事知ってるんだ」
「意外ですね……あれは注意してみていないと気付かないキャラなのに」
「おるんかいっ!」
 

思わず関西弁で突っ込みを入れてしまう俺であった。
 

続く



あとがき(?)
宇宙的に哀れなやつめ! への反響が地味にあって喜んでいるSPUです。
それとは何の関係もなく文庫版の通信販売始めました。
イベントに来られなかった方は是非ご利用下さいませー。


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